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悪ゆめ飛び火

 寒い。


 あまりの寒さに目を見開く。

 眼に映るものは何も無い。

 真っ暗。

 ただただ闇が広がっていた。


 しかしどうしてだろう、その闇は距離感を掴めた。

 そのため閉塞感は感じなかった。

 ただなまじ距離感が掴めるため、その広大な闇から抜け出せない絶望感に襲われた。


 寒さと、孤独。

 この世界には自分一人しか存在せず、そして寒さに凍える事しか出来ない。


 足元には地面の感触があるが、それすら闇である。

 ……地面がある?

 ここはもしかして、何処か閉鎖された空間?

 しかし次の瞬間、宙に浮く感覚が身体を襲う。

 浮いているのかもしれない、落ちているのかもしれない。

 もしかして宇宙を漂っているのか?

 いや、星すらない完全な闇だ、その考えは間違いだろう。


 唐突に浮遊感が無くなる。

 地面が戻った?

 しかし全方位に広がる闇の感覚はしっかりと感じる。


 それはまるで海が真っ赤に染まっていたり、見えてはいけないモノが見えてしまうような、自身の常識がこの世界の常識ではない恐怖。

 次の瞬間には逃げ出すように走り出していた。

 行く当てもなく、ただ闇雲に暗闇の中を走り回った。

 しかし一気に寒さが増す。

 そのあまりの寒さは身体を貫いていく。少しでも温めようと身体に両手を巻きつけ強く抱きしめるが、その腕も同様に冷えきっており意味をなさない。

 そうして崩れるようにその場にしゃがみ込みむと、一歩も動けず蹲ってしまった。


 それから、どれくらいの時間が経ったのだろうか?

 身体の芯には何故か一握りの温かさが残っているが、逆にその温かさが残されているがため、風を受けるロウソクのように寒さを感じ続けガクガクと震えが止まらない。


 そこで視線を感じる。

 冷たい視線。

 どこから向けられているのか分からないが、闇夜に現れた、見えない視線。


 それは徐々に数を増していく。

 そして無数の瞳に取り囲まれてしまった。

 しかも自分は、それらに見下ろされている。


 救いを求めた。

 母さんと叫んだ。

 みっともなく何度も何度も、喚くようにして、叫んだ。






 するとここからずっと遠い、この空間の遥か先の闇に、針であけた穴ほどの微々たる光が現れた。

 僅かな光であったが、寒さに晒され続けていた身体には暖か過ぎるほど暖かい。


 その光が見る見るうちに大きくなり始めると、それと同時に暖かさも増していく。

 そして光に身体が包まれるのに時間は掛からなかった。

 何かが心を満たす、安らぎ。

 そして何故かわからないが、その光が母親のような、母親の生命エネルギーのような気がした。




 そこで目が覚めた。

 今の夢は小さい頃からよく見ている夢、いったいこれで何度目だろうか?


 今回も光が助けてくれた。

 しかしあの光が無ければ、あの場にいた自分はどうなってしまうのだろうか?

 そしてこの夢は、いつまで見続けないといけないのだろうか?

これと同じ夢、及びその後の結末が、御客様の大切な夢へと飛び火致しましても、それはわたくしめのあずかり知らぬ事でございます。


御了承下さいませ。

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