表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

「銀河シアターモード」シリーズ

ロボットの願い

作者: 巫 夏希

 この世界はあまりにも醜い。

 それを知ったのは、どれくらい前のことになるだろうか。

 少なくとも、彼女と出会ってから――ということになる。

 彼女と出会って、私の人生は大きく変わったと言える。

「あなたは……最近疲れているのではないですか」

 101階、ある一室。

 私と彼女が唯一話せる、そして私が唯一この世界が素晴らしいと思える場所だ。

 彼女は目が見えない。それは私が初めて彼女と会ってからだ。

 彼女は目が見えない代わりに、私の仕草から私の様子を感じてしまう。

「……そうでしょうか」

 私は告げた。

 疲れていると、彼女に感づかれている。

 それは彼女に知られてはならない。

 この世界が、醜いことを知ってはならない。

「あなたは疲れている……そう感じるのです」

「そうでしょうか、あなたの勘違いにも思えますよ」

 知られてはならない。知られてはならない。

 醜い真実を、知る必要などないんだ。

「今日のおみやげです」

 私は、そう言って机にそれを置いた。

 彼女はそれを手探りで見つけ、持ち上げた。それを撫でて、形を確認していく。

 そして彼女は漸くその形を理解した。

「この丸い形は……いったいなんでしょうか」

「それは、あなたの住む星を象ったミニチュアです。触ってみると、凹凸が解るでしょう。それは陸地であったり山地であったり海溝であったりするのです」

「素晴らしい……ものですね」

 彼女はそう言って、ずっとそれを触っていた。

 私は時計を見ると――そろそろ時間であることに気づき、立ち上がった。

「もう時間のようです。すいません」

「そうですか、……次はいつごろになるでしょうか」

「……約束は出来ません、私も忙しくなってしまって」

 悲しいことだが、それは事実だ。

 彼女の種族――『人間』は、遥か昔に滅んでしまった。

 そして今は、彼女だけが人間唯一の生き残り――であると確認している。

 しかし彼女はその事実を知らない。

 もしかしたら知っているだけで、言わないだけなのかもしれないが、もし知らないのであれば伝えない方がいいだろう。

 恐らく彼女は私がロボットだということも知らない。

 私は声帯が人間の形に完全に模写されており、人間と相違ない声を出すことが出来る。

 別に私が特別なのでなく、現代のロボットがそうであるだけなのだ。

「それでは、さようなら」

「ええ、さようなら」

 そう言って、私は扉を閉めた。

 私は思い出す。

 かつて、古い型のロボットから言われたこと。


 ――人間はもしかしたら、ほかの星に移ったのかもしれない


 それが真実であるならば、彼女をその星に移してやることが、私の仕事であるのではないだろうか。

 そう、思うのだった。



 また、私が少女の部屋に行く、ある日のことだった。

 私は警察に捕まった。

「貴様は国家に反逆した」

 そう言われただけだった。

 私が何をしたというのか。彼女を救っていた……ただそれだけではないか。

「あの人間は……この世界を人間のものに戻そうと図っていた。そして、お前もその人間に協力していた。証拠はあがっている」

「彼女が……そんなことをするわけがない」

「洗脳されているようだ……」

 警察のリーダーとなるロボットが、そう言うと、ため息をひとつついた。

「連れていけ、こいつはどうせ……もう長くない」

 私は警察により連行された。

 エレベーターに乗せられて、扉が閉まる前――私は見てしまったのだ。

 彼女の部屋の床が、血に塗れていたということを。

 そして、彼女の身体が――ズタズタに引き裂かれていたということを。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ