バンドをするという話。その3
「こっ、こうですか?」永海が聞く。
永海はしっかり者に見えて、不器用だ。
「これがこうでこっちがこうで…」
親父も教えることが大変そうだ。
俺は小さい頃から楽器で遊んだりしていたから、演奏することは難しくない。
雷は同性別なこともあり、小さい頃から遊んでいた。そのときに親父からギターを教わっていたはずだ。だから、上手い。
夢はというと、ピアノの経験を活かし、キーボードを弾いていた。めちゃくちゃ上手い。
夢と親父の方から「お! そんな感じだ!」
などと聞こえてくるので、上達してきているのだろう。
俺は、ドラムを叩く。雷は、ギターを弾く。
夢は、キーボードを弾く。永海はベースを弾く。
そこからしばらくの個人練習が続いた。
「よし! 合わせてみようか!」
と、親父の声が響く。
親父は、俺たちが個人練習している間に、即席で曲を作ってくれていた。さすが親父。
ドラムである俺がテンポを取る。
「じゃあやるぞ。1.2.123はい!」
ー ー ー ー ー ー ー ー
ー ー ー ー ー ー ー ー
見事に音が重なり合った。ように思えた。
ドラムは一番立ち位置が後ろだから、みんなが見える。
夢と雷は流石に上手い。普通に弾けている。
ただ、永海の手が動いていない。
足、いや、身体が震えているのだ。
ヴォーカルの咲は離れた場所で目をつむり、音を聴いている。
親父は……真剣な眼差しでこっち、永海を見ていた。
その後、親父がみんなにアドバイスをして、解散となった。
その日の夜、俺は親父に呼ばれた。
「分かっていると思うが、永海ちゃんのことだ。」
「うん。震えてたことだろ?」
「ああ。永海ちゃんは、昔から本番に弱いな。練習では完璧だったのに…。」
「だろ? 幼稚園の発表会で泣いてたよな。」
少し俺と親父は笑った。
「まぁ、後は頑張って練習してくれ。」
それだけだ。と言って、親父は部屋を出て行った。