白雪姫
昔々の物語。
ある所に子供が恵まれない王妃様がいました。
王妃様はしんしんと降り積もる黒檀が摘まれた暖炉の傍で降り続ける雪を見ながら刺繍をしておりました。
「っ」
刺繍をしていた時、王妃様は自分の指に針を指してしまいました。
指先からぷくりと血が溢れて、白い布に落ちました。
「あぁ、黒檀のように黒い髪に、雪のように白い肌に、血のように赤い唇をもった子供が産まれたら良いのに」
王妃様は深く溜め息を零しました。
それからしばらくして、赤ん坊ができ、赤ん坊を王妃様は産みました。
黒檀のように黒い髪をしており、雪のように白い肌を持ち、血のように赤い唇をもった、可愛らしい赤子でした。
王様は姫の誕生をとても喜びました。
月日は流れます。
赤ん坊は何時しか歩き出し、言葉を覚え、美しくとても美しく成長いたしました。
誰もが愛さずにはいられない程の美姫はいつしか”白雪姫”と呼ばれるようになりました。
そんな花開く美貌を妬む人が現れました。
それは白雪姫の実母の王妃様です。
且つては国の秘宝とまで呼ばれた王妃様の美貌も年と共に陰りが見えていました。
どんどん美しくなって行く娘にどうしても嫉妬をしていました。
王妃様も国の妃です。
何でもないように取り繕っていました。
しかし、ある日王妃様は聞いてしまいました。
王様が付き人に『王妃よりも娘の白雪姫の方が美しい』と言っていたのです。
これを聞いてしまった後、王妃様の中の何かの箍が外れてしまいました。
王妃様は実の娘を憎むようになったのです。
白雪姫に意地悪の限りを尽くしました。
毎食の食事に毒を盛り、顔を会わせる度に罵り、時に手を上げました。
狂ってしまった王妃様に嫌気を指した白雪姫は城を出奔してしまいました。
「清々したわ!」
住み慣れた城を遠くから見ながら白雪姫はからりと笑いました。
もちろん出奔するといっても、荷一つではありません。
自分の気に入りの指輪やネックレスや服に王妃様の宝飾品の数々や王様のへそくりも鞄の中。
白雪姫の世話役の侍女を引き攣れて、準備万端です。
「さぁ、いきましょう」
「はい」
城下で必要な物資を整えたので、水も食料も大丈夫です。
白雪姫は侍女と共に森の奥へと進みました。
どれぐらい歩いた事でしょう。
何日も何日も歩き、時には食料や水を調達しながら旅をしていました。
途中白雪姫も食事や狩りの手伝いもしました。
彼女は一体何処に向かうつもりなのでしょうね。
するとどういう事でしょう、白雪姫の目の前に小さな家を見つけました。
家の屋根も白雪姫の頭一つ分ぐらい高い所にあり、城下でみた家の高さの半分以下のとても小さなお家です。
「誰か住んでいるのかな?」
「姫様、窓を覗かれるのははしたないですよ」
「小さくてとても可愛いわ」
「話を聞いて下さい」
白雪姫はとてもマイペースに聞き流しながら小さなお家の周りをうろうろしていました。
いくら美少女でも、とても不審者です。
「あら、戸が開いているわ!」
「姫様、そのピッキング道具を片してから仰ってください」
「細かい事を気にしてはなりませんよ」
「勝手に戸を開けといて言う台詞ではありません」
「あらあら、鉈でも持って破った方が良かったのかしら?」
「そう云う問題ではありません!」
随分と野生化……ゲフンゲフン平民慣れした白雪姫は朗らかに戸を開けました。
侍女の表情が疲れて見えるのは気のせいでしょう。
使用人が度々主人の理不尽に晒されるものです。
仕方がありませんね。
入ってみると簡単な台所らしき所と可愛らしいベットが二つあります。
後は小さな机と椅子と衣装用の大きめの箱がありました。
「久しぶりに、ベットで寝たいわ」
「……そう仰いながら、箱の中を覗き込んでいるんです?」
「え?どんな人物かなぁと思いまして」
着々と衣服に目を通して行く白雪姫は臭いを嗅いだりしています。
本当に姫だったのでしょうか。
正直、変態と書いて変態と読ませる感じですね。
とっても残念な美人です。
「ふぁ」
「んん」
長旅で疲れた白雪姫と侍女は少々狭苦しいベットを借りて眠りにつきました。
なんとも図々しい……肝が太てぇ……あー自己中でした。
すやすやと寝入ってから数時間後。
二人の幼気な小人少年が件の小さなお家に帰って来ました。
「つかれたね〜」
「薬草やうさぎが取れただけよかったな」
さらさらとした金髪の小人少年がどこかのんびりとした調子でへらりと笑っています。
つんつんとした黒髪の小人少年はしっかりとしているらしく、うんうんと頷いています。
彼らは白雪姫が荒らし……ゲッフン休ませてもらっているお家の住人です。
意気揚々とした調子で家に帰って見ると、誰もいないはずの家に灯が灯されています。
「あれ〜?ぼく、ランプけしわすれてたかな?」
「大丈夫だ、俺がしっかり消したから。普通に考えて誰かが侵入していると考えた方が妥当だろう」
「しんにゅ〜?」
「勝手に家に入ることだ」
頭良いね〜、と朗らかに笑う少年は事体の深刻さとかに気付いているのでしょうか。
黒髪の小人少年の方が少々痛む頭を押さえながら、警戒した面持ちで音を立てないようにそっと戸を開けました。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
「は?」
「え〜、ぼくがごしゅじん?」
扉を開けると、ピカピカに綺麗になった部屋とおいしいそうな食事が用意されてました。
本来の住人が帰って来たのを認め、女性___白雪姫の侍女が深々と頭を垂れて挨拶しました。
黒髪の小人少年はびっくり驚き、呆然としています。
金髪の小人少年は不思議そうに首を傾げました。
「私と結婚してください!!」
「姫様、いきなりの求婚はどうかと……」
「え?」
「……わけわからん」
騒がしさに起きて来た白雪姫は小人少年達を見つけました。
そして、金髪の小人少年を一目で好きになってしまったのです。
そう、白雪姫は___。
「姫様は少年性愛者ですから……」
「幼気な少年の無知で無邪気さに心惹かれない人間はおりませんのよ!!」
「威張って言う事ではありません」
侍女の疲れたような突っ込みでは大して効果がないようです。
黒髪の小人少年は小人金髪の少年を庇いながら白雪姫を睨みつけました。
「な、何が目的だ!」
「結婚して、手取り足取り色々と私色に染めたいだけです♥」
「ん〜?どうしたの?」
「おまえはもっと危機意識を持ってくれ!!」
黒髪の小人少年の力一杯の叫びを金髪の小人少年は理解していないようです。
振り回される苦労人の重たい溜め息が落ちました。
そんな周囲を歯牙にもかけない白雪姫は金髪小人少年の前で笑いました。
「今日から私は貴方様の妻として生涯を共にしたいと思ております。末永くよろしくお願いいたします」
「なかよし?いいよ〜」
「はい」
「もう、どうにでもなれ!」
「お気を確かに……」
こうして訳も分からぬまま、白雪姫は小人少年の元に嫁入りしました。
黒髪の小人少年の方も苦労人仲間の侍女と結婚し、みんな末永く幸せに暮らしましたとさ。
めでたし、めでたし。
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