第126話 幸福を吸い取る黒い線と、《厄受け》の少年
聖なるマップに突然現れた一本の黒い線は、村の中央に立つ巨大な古木――その根元に生えた《7つ葉のクローバー》から、村外れの小屋まで真っ直ぐ伸びていた。
そして、その終点にいたのはルカだった。
「……やっぱり、ルカとクローバーが繋がってる」
私は地図と目の前の少年を何度も見比べた。黒い線は揺らぐことも消えることもなく、まるで最初からそこに存在していたものを、聖なるマップがようやく見つけ出したかのように浮かび続けている。
「フール、その地図……何か変なの?」
ルカが不安そうにこちらを見た。
「ううん。まだ何なのか分からないから、ちゃんと調べてから話すね」
今ここで「君の不幸と村の幸運が繋がっているかもしれない」なんて、軽々しく言えるはずがなかった。
オラクルも地図を覗き込み、いつもの軽い調子を消して目を細める。
「だったら明日、村ごと洗うぞ。あのクローバーが何してやがるのか、徹底的にな」
◇ ◇ ◇
翌朝、ルカの小屋には私たち全員が集まっていた。
ただでさえ狭い部屋なのに、ロロットさんが巨大な大剣を持ち込んだせいで、さらに窮屈になっている。
「ロロットさん、その剣を横にしないでね。壁なくなっちゃうから」
「分かってるって! 俺を何だと思ってんだ」
「昨日、宿屋の入口に引っかけて看板落とした人」
「一回だけだろ!」
メリーはそんな私たちを気にする様子もなく、ルカの膝の上へぴょんと飛び乗った。
「きゅーう!」
「……僕の近くにいても、何も起きない?」
ルカがおそるおそる尋ねると、メリーは当然のように胸を張った。
「きゅ!」
それだけなのに、ルカは少し嬉しそうに笑った。
「そっか。君は僕を怖がらないんだ」
その横では、メロウおじいちゃんとエナちゃんが聖なるマップを挟んで調査を続けている。
しばらくして、メロウおじいちゃんが鳥の杖の先で黒い線を指した。
「やはりこれは道ではないのぅ。魔力の流れに近いが、普通のものとも違う」
「私も同意します」
エナちゃんが金色の瞳を細める。
「これは一方通行の移送経路です。ただし、流れの向きが通常とは逆です」
「逆って?」
「《7つ葉のクローバー》からルカへ力を与えているのではありません」
エナちゃんの指が、古木から黒い線を辿り、ルカのいる場所で止まった。
「ルカから古木へ、何かが送られています」
ルカの表情が固まった。
「……僕から?」
「現時点では、何を移送しているのかまでは特定できません」
メロウおじいちゃんも険しい顔をしている。
「じゃが、少なくとも“幸福を生み出すだけの術式”には見えん。魔力の色が悪すぎるわい」
オラクルが壁にもたれたまま、火をつけていない煙草を指先で転がす。
「なら、村が何百年も幸運だった記録と、このガキの人生を並べて調べりゃ何か出るだろ」
「うん。調べよう」
私は頷いた。
ルカは少し戸惑った顔をしたけれど、もう「やめて」とは言わなかった。
◇ ◇ ◇
まず調べたのは、この村の幸運そのものだった。
畑へ行けば、今年も大豊作。去年も、その前の年も豊作で、年寄りの農夫に聞けば「不作なんてもう何十年も見ていない」と笑われた。
診療所では重病人がほとんど出ず、事故による死者も長い間ゼロ。商店街では潰れた店がなく、結婚式の日には必ず晴れ、逃げ出した家畜でさえ夕方には勝手に家へ帰ってくるらしい。
「……幸運っていうか、世界が無理やり失敗を避けてるみたい」
私が呟くと、メロウおじいちゃんがゆっくり頷いた。
「ワシもそう見える。この村だけ、不都合な結果そのものを外へ押し出しておるようじゃ」
エナちゃんも記録を確認しながら言った。
「統計的にも異常です。これほど長期間、事故・疾病・不作・経済的損失が同時に低水準を維持することは、自然発生では説明できません」
ロロットさんが腕を組む。
「幸運すぎて怖いって、変な話だな」
「そうなんだけどね」
私は遠くに見える古木を見た。
昨日までは綺麗に見えた黄金色の《7つ葉のクローバー》が、今は少し不気味に感じられた。
◇ ◇ ◇
次に調べたのはルカだった。
ここから先は、調べれば調べるほど気分が悪くなった。
五歳の時に高熱を出し、七歳で川へ落ち、八歳の時には住んでいた小屋へ落雷。去年は倒木に巻き込まれ、今年に入ってからも毒草の誤食や屋根の崩落など、普通なら一生に一度あるかどうかという事故が何度も続いていた。
「これ、本当に全部ルカ一人に起きたの……?」
私は古い記録を握りながら呟く。
「まだある」
オラクルが別の紙を机へ置いた。
それはルカが生まれた年の村の記録だった。
作物収穫量――過去最高。
事故死――ゼロ。
病死――ゼロ。
商業利益――過去最高。
そして同じ年。
ルカの母親が死亡している。
「待って」
私は記録を二枚並べた。
「ルカのお母さんは病気で亡くなったって聞いたよね?」
「ああ」
「なのに村の記録には“病死者ゼロ”って書いてある」
オラクルの目が冷たくなる。
「つまり、最初から村の人数として数えてなかったか――記録から意図的に消したかだ」
胸の奥が嫌な感じに冷えた。
「どうしてそんなこと……」
その時だった。
「もうやめなさい」
背後から、震えるような声がした。
振り返ると、昨日道で会った老婆が立っていた。
顔は青ざめ、私たちが持っている記録を見つめている。
「何をやめるの?」
私が尋ねると、老婆は少し迷ってから答えた。
「その子のことを調べるのをだよ。知らなくていいことなんだ」
オラクルが鼻で笑う。
「その台詞、隠し事してる奴が一番言っちゃいけねぇやつだぞ」
老婆の肩がびくりと震えた。
私は聖なるマップを広げ、黒い線を見せる。
「おばあさん。ルカから古木へ何かが流れてる。あなたたち、これが何なのか知ってるんでしょ?」
老婆は何も答えなかった。
「ルカから何を取ってるの?」
長い沈黙。
やがて老婆は力なく視線を落とした。
「……村長のところへ行きなさい」
「おばあさん」
「私からは言えないよ」
そう言って背を向けた老婆は、数歩歩いたところで足を止めた。
「ただ……」
掠れた声。
「ルカを責めないでやっておくれ」
私は迷わず答えた。
「責めるわけないよ」
老婆の肩が小さく震えた。
それから振り返ることなく、ゆっくりと去っていった。
◇ ◇ ◇
その日の夕方。
私たちは再び村長の家を訪れていた。
ただし今度は、客としてではない。
机の上には聖なるマップと、ルカに関する古い記録。
「説明してください」
私は村長を真っ直ぐ見た。
村長は黒い線を見た瞬間から、何も言わなくなっていた。
「この村の異常な幸運と、ルカの異常な不運。繋がってるんですよね?」
「……」
「何も答えないなら、俺から整理するぞ」
オラクルが記録を机へ滑らせる。
「この村は何十年も、異常なくらい事故も病気も不作もない。一方で、ガキ一人に普通じゃあり得ねぇ数の災難が集中してる」
さらに、ルカの母親の記録を重ねた。
「母親の死だけ村の公式記録から外されてる。ここまで揃って偶然は通らねぇよ」
村長の拳が小さく震えた。
その時、エナちゃんが静かに口を開く。
「私から仮説を提示します」
村長が顔を上げた。
「幸福の丘に発生している幸運は、新たに作り出されているものではありません。本来なら村全体へ分散するはずの負事象を、一個体へ集中させています」
「負事象?」
ロロットさんが聞き返す。
エナちゃんは淡々と答える。
「事故、疾病、失敗、損失、不作。一般に“不運”と呼ばれる結果です」
「つまり……」
ロロットさんの顔から笑みが消える。
「村の百人が食らうはずだった不運を、全部あいつ一人へ押しつけてるってことか」
村長は何も言わなかった。
その沈黙が答えだった。
◇ ◇ ◇
「……そうだ」
しばらくして、村長がようやく認めた。
私は思わず立ち上がる。
「じゃあ、ルカが何度も怪我したのも、病気になったのも、物が壊れるからって避けられてきたのも……あの子のせいじゃないじゃん!」
「フール」
オラクルが名前を呼んだ。
止めるためではない。
私が感情のまま先へ行きすぎないように、少しだけ落ち着かせるためだった。
村長も苦しそうに顔を歪める。
「我々だって、好きでやっているわけではない」
「だったらやめればいい!」
「やめれば人が死ぬ!」
初めて、村長が声を荒らげた。
部屋が静まり返る。
村長は古びた一冊の本を取り出し、震える手で開いた。
「お前たちは、この土地が昔から幸福だったと思っているのか?」
そこに記されていたのは、今とはまるで違う土地の歴史だった。
痩せた土。
度重なる嵐。
疫病。
飢饉。
一度災害が起これば何十人、時には百人以上が命を落としたという。
「人間が暮らし続けることすら難しい土地だった」
村長はページをめくる。
「その時、一人の少女が現れた。災いを自分へ集める特殊な力を持った子だった」
その少女は、自分から申し出たという。
『私一人で済むなら、村のみんなを助けてください』
そして少女が古木の根元へ命を捧げた時、初めて《7つ葉のクローバー》が芽吹いた。
そこから村は変わった。
豊作が続き、疫病は消え、事故も激減し、人々は生きられるようになった。
けれど。
私はページをめくりながら、すぐに気づいてしまった。
「……一人じゃない」
少女の名前が変わっている。
次の世代。
また次。
その次。
何人も。
「これ、ずっと続けてるの……?」
村長は俯いた。
「《厄受け》」
低い声で答える。
「我々は、そう呼んでいる」
一定の周期で《7つ葉のクローバー》の力が弱くなると、新しい《厄受け》が選ばれる。
その子供が村中の不運を引き受ける。
そして一定の年齢になると、古木の根元で命を捧げる。
「……ルカも?」
村長は答えない。
「ルカもなんですか!」
しばらくして。
小さく。
頷いた。
「次の満月だ」
私の背筋が冷たくなる。
「何歳?」
「十二だ」
「まだ子供じゃん!」
ロロットさんが低く唸る。
メロウおじいちゃんも、もう笑ってはいなかった。
「何百年、これを続けた」
「他に方法がなかった!」
村長も立ち上がる。
「術師も呼んだ。魔道士も呼んだ。王国へ助けも求めた。だが誰にも、この術式を安全に解除できなかった!」
そして私を睨む。
「厄受けを止めれば、昔の災害が戻るかもしれない。疫病が流行り、作物が枯れ、この村の子供たちが死ぬかもしれないんだ!」
私は言葉を失った。
「なら聞く」
村長の声は怒っているのに、その目には涙が滲んでいた。
「お前はルカを助けたいと言う。私だって、できることなら助けたい」
一拍。
「だが、ルカ一人を救った結果、この村の百人が死んだら?」
重い問いだった。
「その責任を、お前は負えるのか?」
私はすぐには答えられなかった。
「そんなのおかしい」と叫ぶのは簡単だった。
でも本当に、この村の子供や老人たちが死んだら。
昨日、ニンジンをおまけしてくれた人も。
市場で笑っていた子供たちも。
みんなが苦しむなら。
何を選べばいい?
「……そういうことだ」
村長は力なく椅子へ座った。
「誰だって、最後はそこで止まる」
◇ ◇ ◇
帰り道。
私はずっと俯いていた。
自分の正しさだけを叫べば、ルカは救えるかもしれない。
でも、それで誰かが死ぬなら?
答えが見つからない。
「フールちゃん」
隣を歩いていたフランアーデルさんが、優しく声をかける。
「君一人で答えを出す必要はないよ」
「でも……」
「まず本人に聞いてみよう」
私は足を止めた。
本人。
そうだ。
村長にも聞いた。
記録も調べた。
でも。
一番大事な人に、まだ聞いていない。
◇ ◇ ◇
ルカの小屋へ戻ると、少年は一人でパンを食べていた。
私たちの顔を見た瞬間、何かを察したらしい。
「……聞いたんだ」
私は驚いた。
「知ってたの?」
「うん」
「全部?」
「たぶん」
ルカは笑った。
けれど、その笑顔は十二歳の子供がするには、あまりにも諦めきっていた。
「僕、《厄受け》なんだ」
誰も言葉を挟まない。
「僕が怪我すると、誰かが怪我しない。僕が病気になると、誰かが病気にならない。僕が運悪い分、みんなが運良くなる」
そして、小さく胸を張ろうとした。
「だから僕、ちゃんと役に立ってるんだよ」
その言葉を聞いた瞬間、エナちゃんの金色の瞳が揺れた。
かつて。
自分も同じことを言った。
『私は、そのために造られました』
私は胸が苦しくなる。
「次の満月のことも知ってる?」
「うん」
「……死ぬってことも?」
「うん」
あまりにも普通の返事。
だからこそ怖い。
「怖くないの?」
ルカはしばらく考えた。
「分かんない。でも、僕が死んだらみんな幸せなんでしょ?」
その瞬間だった。
ずっと黙っていたオラクルが、壁から身体を起こした。
ゆっくりとルカの前へ歩いていく。
「誰がそんなこと教えた」
低い声だった。
ルカが驚いて顔を上げる。
「みんな……」
「違う」
オラクルはしゃがみ、ルカと同じ高さまで視線を落とした。
「誰が、お前一人の命より百人の幸福の方が高いって決めたんだ」
「でも、僕一人で百人助かるなら――」
「ガキが勝手に自分の値段決めんな」
ルカが目を見開く。
オラクルの顔には、いつものからかうような笑いはなかった。
「百人助かるから、お前一人なら安い? そんな計算していいのは、お前じゃねぇ」
「じゃあ……僕はどうしたらいいの?」
「それを今から聞いてんだ」
オラクルは真っ直ぐ尋ねた。
「お前は、生きたいか?」
ルカの顔から、作り笑いが消えた。
今まで。
誰にも聞かれなかった質問。
答えが出るまで、オラクルは待った。
私も何も言わない。
エナちゃんがルカの前へしゃがみ、静かに続けた。
「ルカ。役目と、あなたが望むことは同じではありません」
「……?」
「私も以前、自分は役目のために消費されるものだと認識していました」
エナちゃんは私を一度見て、それからルカへ視線を戻す。
「ですが、フールに聞かれました。私は何をしたいのか、と」
そして。
「だから今度は、私があなたへ聞きます」
静かな声。
「あなたは、どうしたいのですか?」
長い沈黙のあと。
ルカの唇が震えた。
「……僕」
涙が一滴、膝の上へ落ちる。
「死にたくない」
その一言を口にした途端、今まで押し殺していたものが全部溢れた。
「死にたくないよ……! 怖いよ! 一人で死ぬのなんて嫌だ!」
泣きながら。
十二歳の少年が。
初めて十二歳らしい声で叫ぶ。
「僕だって、みんなみたいに普通に村を歩きたい! 友達と遊びたい! 一緒にご飯食べたい!」
「喧嘩したり、怒られたり……大人になったりしたいよ!」
オラクルは顔を少し逸らした。
でも。
その声は優しかった。
「……そうか」
私はルカの手を握る。
「だったら、生きよう」
「でも村のみんなが……」
「まだ方法は分からない」
私は正直に言った。
「村長の言ってることも、全部間違ってるとは思わない。村のみんなを危険にしていいとも思わない」
それでも。
「ルカが死ぬしかないって答えも、私は絶対に認めない」
メロウおじいちゃんが鳥の杖を肩へ乗せ、ようやく少しだけいつもの笑いを戻した。
「カカカッ。ならば答えは一つじゃな」
「第三の道を探す」
フランアーデルさんが頷く。
「ルカも生きる。村も守る」
ロロットさんが拳を握る。
「欲張り上等じゃねぇか」
オラクルが私を見る。
「本当に欲張りだな、お嬢」
私は笑った。
「今さらでしょ?」
「……違いねぇ」
◇ ◇ ◇
その夜。
エナちゃんとメロウおじいちゃんは、古木の術式を本格的に解析し始めた。
村の古文書も片っ端から集め、過去の《厄受け》がどう扱われてきたのかまで確認していく。
そして深夜。
「フール」
エナちゃんが突然顔を上げた。
声がいつもより僅かに強い。
「重大な誤認を確認しました」
「何が分かったの?」
エナちゃんは古木の術式構造を描いた紙を広げる。
村長も呼ばれ、私たち全員でその図を囲んだ。
「この術式は、《厄受け》の生命を使って幸運を生成しているのではありません」
村長の顔が変わる。
「では何を……?」
「村に発生する不運を、一個体へ集中させているだけです」
「それは分かっている」
「いいえ」
エナちゃんは首を振った。
「重要なのは解除後です」
全員が黙る。
「《厄受け》への集中を解除しても、蓄積された災厄が一度に村へ返還されることはありません」
村長が勢いよく立ち上がった。
「本当か!?」
「はい」
「なら村はどうなる!」
エナちゃんは、いつもの静かな声で答えた。
「普通になります」
「……普通?」
「病気になる可能性が生まれます。作物が不作になる年もあるでしょう。商売に失敗する者も出ます。転べば怪我をする場合もあります」
「事故も、失敗も、不運も起こる」
村長の顔が青ざめる。
でも。
エナちゃんは続けた。
「しかし、それは世界中の一般的な町と同程度です」
私は目を見開いた。
「じゃあ……ルカが死ななくても、村は滅びない?」
「はい」
村長は椅子へ崩れ落ちるように座った。
「そんな……」
何百年。
何人もの子供を。
村を守るためだと信じて。
捧げ続けてきた。
メロウおじいちゃんが、低い声で言う。
「この村が本当に手放せなかったものは、安全ではなかったということか」
村長が顔を上げる。
「異常なまでの“幸福”そのものじゃ」
誰も。
何も言えなかった。
◇ ◇ ◇
ただし。
まだ問題は残っていた。
「術式の強制解除はできません」
エナちゃんが図の中心を指す。
そこには古い文字で、一つの項目が刻まれている。
【契約承認】
「この魔法は、外部の人間だけでは解除できない構造です」
「じゃあ、誰なら止められるの?」
「この幸福を受け取っている者たち」
つまり。
村人たち。
「一定数以上が、自ら幸運の供給を拒否する必要があります」
私は窓の向こうを見る。
何百年も。
事故も。
病気も。
不作も。
ほとんど知らずに生きてきた人たち。
その生活を捨てて。
普通の世界へ戻る。
ルカ一人のために。
選んでくれる?
簡単なはずがない。
オラクルが私の横へ立つ。
「村全員を説得するつもりか?」
「うん」
「相手は何百年分の習慣だぞ」
「うん」
「失敗したら?」
私は少しだけ黙った。
それから、ルカを見る。
怖いのに。
それでも自分で。
「生きたい」と言った少年。
「成功するまでやる」
オラクルは煙草を咥え、呆れたように笑った。
「そう言うと思った」
次に戦う相手は。
モンスターでも。
TIMEでもない。
何百年もの間、この村を支えてきた考え方。
誰か一人が犠牲になれば、自分たちは幸せでいられる。
その幸福を。
村人自身の手で捨ててもらう。
私たちの新しい戦いが、始まろうとしていた。
今回、幸福の丘の真相が判明。
ルカは村全体の不運を一身に受ける《厄受け》であり、歴代の厄受けは命まで捧げてきました。
しかしエナの解析によって、ルカを救っても村が滅びるわけではないと判明。
失うのは「異常な幸運」。
村はただ、普通の町へ戻るだけです。
次回は、フールたちが村人全員へその選択を突きつけます。




