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『フールの大冒険 ~本の世界に消えた両親を探していたら、聖なるマップに選ばれました~』  作者: ☆☆アダム☆☆


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第1話 真夜中の真実

「ねぇ、おばあちゃん」

夕食のスープを木の匙ですくいながら、私は何でもないことのように声をかけた。

けれど、本当は違う。

ずっと聞きたかった。

何度も喉まで出かかって、それでも怖くて飲み込んできた言葉だった。

「私には……どうして、お父さんとお母さんがいないの?」

カタン、と小さな音がした。

向かいに座っていたおばあちゃんの匙が、皿の縁に当たった音だった。

いつもなら「冷めないうちにお食べ」と笑うおばあちゃんが、何も言わない。

暖炉では薪がぱちぱちと爆ぜている。窓の外では風が木々を揺らしている。

それなのに、この家の中だけ時間が止まってしまったみたいだった。

私は少しだけ後悔した。

「……ごめん。やっぱり、何でも――」

「フール」

呼ばれて顔を上げる。

おばあちゃんは、私の目をまっすぐに見ていた。

いつもの優しい顔だった。けれど、その瞳の奥にだけ、今まで見たことのない迷いがあった。

「お前も、もう知っていい頃なのかもしれないね」

「知っていい……?」

おばあちゃんはしばらく黙ってから、ゆっくりと言った。

「お前のお父さんとお母さんは、生きているよ」

頭の中が真っ白になった。

「……え?」

聞き間違いだと思った。

だって私は、物心ついた時からずっと、おばあちゃんと二人で暮らしてきた。

村の子たちが父親に肩車をしてもらっているのを見ても。

母親に叱られながら手を引かれて帰っていく姿を見ても。

私は一度だって、「うちも同じだ」と思えたことがなかった。

だからいつの間にか、きっと二人はもう、この世にはいないのだと思うようになっていた。

「生きてるの……?」

「ああ」

「じゃあ、どこにいるの?」

おばあちゃんは答えなかった。

私は椅子から身を乗り出す。

「遠い国? 海の向こう? だったら私、会いに行くよ。道が分からないなら探す。何年かかったって――」

「この世界にはいないんだよ」

「……え?」

おばあちゃんは静かに立ち上がった。

「ついておいで」

案内されたのは、おばあちゃんの寝室だった。

小さな机と古い箪笥しかない、何度も入ったことのある部屋。

けれど、おばあちゃんは箪笥を開けると、服には触れず、一番下の板に指をかけた。

板が外れる。

その下に、隠し箱があった。

「そんなところに……」

長い間誰にも触れられていなかったのだろう。箱の上には薄く埃が積もっている。

おばあちゃんは懐から小さな鍵を出し、錠を開けた。

中に入っていたのは、たった二つ。

一冊の古びた本。

そして、丸められた羊皮紙だった。

本の表紙には題名すらない。

革は擦り切れ、角もぼろぼろだ。それなのに、なぜか目を離せなかった。

「これ……何の本?」

「お前が生まれた世界へ続く本さ」

意味が分からなかった。

「私が……生まれた世界?」

「フール。お前はこの村で生まれたんじゃない」

おばあちゃんは本を撫でた。

「お前は――この本の中の世界で生まれたんだよ」

しばらく、声が出なかった。

冗談だと思いたかった。

だけど、おばあちゃんは笑っていない。

「本の……中?」

「ああ」

「じゃあ、お父さんとお母さんも……?」

「そこにいる」

胸の奥で、何かが大きく跳ねた。

今までずっと空っぽだった場所に、突然、光が差したような気がした。

会える。

もしかしたら、本当に。

「どうすれば行けるの?」

すぐに聞いていた。

おばあちゃんの表情が曇る。

「簡単な場所じゃないよ」

「それでも行く」

「怖い目に遭うかもしれない」

「行く」

「帰ってこられる保証だって――」

「行くよ」

気づけば立ち上がっていた。

「だって……会いたいもん」

声が震えた。

「一度でいいから、お父さんとお母さんの顔を見たい。どうして私と一緒にいないのか、ちゃんと聞きたい」

怒っているわけじゃない。

責めたいわけでもない。

ただ知りたかった。

私がどんなふうに生まれたのか。

二人はどんな人なのか。

そして――

どうして、私だけがここにいるのか。

おばあちゃんは長い間、私を見つめていた。

やがて小さく息を吐く。

「……その目は、お父さんにそっくりだね」

「お父さんに?」

「言い出したら聞かないところまでね」

少しだけ笑った後、おばあちゃんは羊皮紙を私に差し出した。

広げてみる。

「……何も書いてないよ?」

本当に真っ白だった。

地図でも手紙でもない。ただの古い紙にしか見えない。

「今はね」

「今は?」

「満月の夜になれば分かるさ」

私は窓を見る。

雲の切れ間から、丸い月が顔を覗かせていた。

「今日……満月じゃん」

「だから今日まで待っていたんだよ」

その言葉に、胸がざわついた。

まるでおばあちゃんは、私が今夜この質問をすることまで知っていたみたいだった。

古びた本を机の上に置く。

その上へ羊皮紙を広げる。

月の光が窓から差し込み、白い紙を照らした。

その瞬間だった。

「……!」

羊皮紙の中央に、金色の文字が浮かび上がった。

最初はぼんやりと。

やがて、はっきりと読める形になっていく。

【MAIN QUEST】

私は息を呑んだ。

その下に、もう一行。

【両親を探せ】

心臓が強く鳴った。

「……これ」

震える指で文字に触れる。

次の瞬間。

古びた本が、ひとりでに開いた。

バラバラバラバラ――!

猛烈な勢いでページがめくれていく。

「えっ!? ちょ、ちょっと!」

部屋の中へ風が吹き荒れた。

カーテンが舞い、机の上の小物が床へ落ちる。

開いた本の中央から、白い光が溢れ出した。

「おばあちゃん!」

私は咄嗟に机の端へしがみついた。

けれど光の中から生まれた風は、どんどん強くなっていく。

足が床から浮いた。

「うそっ……!」

「フール!」

おばあちゃんが手を伸ばす。

私も必死にその手を掴もうとした。

指先が触れる。

あと少し――。

その時、羊皮紙に新しい文字が浮かんだ。

【QUEST START】

「おばあちゃあああんっ!」

視界が真っ白に染まった。

身体が本の中へ吸い込まれていく。

最後に見えたのは、こちらへ手を伸ばすおばあちゃんの姿だった。

そして。

意識が途切れる直前。

確かに、おばあちゃんの声が聞こえた。

「――幸せな結末まで、辿り着いておくれ」

その言葉の意味を。

この時の私は、まだ何も知らなかった。

お父さんが誰なのかも。

お母さんに何が起きたのかも。

そして――

私を待つ冒険が、この世界に隠された大きな嘘へ繋がっていることも。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

ここからフールの「両親を探す大冒険」が始まります。

古びた本の向こうには何が待っているのか。

そして、おばあちゃんが最後に言った「幸せな結末」とは何なのか。

フールと一緒に、この世界を旅してもらえたら嬉しいです。

次話から、いよいよ本の世界へ!

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