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孤高のwolf pack


 日差しの厳しい暑さが終わり、爽やかな風が吹き始める。

 僕のモサモサの毛でも、あまり暑さを感じなくなった。

 

 実はこの時期は、いつも楽しみにしてることがある。

 それは、シュピのキノコ探しに着いて行くこと。

 キノコは僕の鼻で探せるし、何より美味しい木の実をその場で食べれるから。


 だけど、最近のシュピは少し変だ。


 いつも難しい顔で、机に向かって何か書いてる。

 外に出ることも減って、大きな袋に食べ物やら服なんかを入れてる。

 それに猟銃や、山を登る時に持ってる棒みたいなのまで用意して、何処かへ行く準備をしているように見えた。


 そういえば、少し前に言ってたっけ。


 ――『今度、少し遠出をしようか』


 そうか……きっと、遊びに行く準備をしてるんだ!


 <ワフ! ワンワンっ!>


「こら、危ないだろ。大人しくしてなさい」


 銃の手入れをするシュピの回りをぐるぐるしていたら、やっぱり怒られてしまった。

 怒ったシュピの顔は、いつもより険しい。

 いつもなら、怒る時も少しだけ笑っているのに。

 

 僕はそれ以上動けなくなって、体を床にベッタリ着けて静かにシュピを見守った。

 

 ◇


 車に揺られて、もうどれくらい経っただろう。

 僕はこの日、シュピと一緒に例の遠出とやらに出掛けていた。

 遊びに行くはずなのに、シュピの顔は全然嬉しそうじゃない。

 

 <クゥン……>


 いつもと違うシュピを見ていると、どうにも気分が落ち着かない。

 隣で縮こまっていると、シュピは前を見たまま時々僕の背中を撫でた。


「大丈夫だ。心配しなくていい」


 シュピは変わらず難しい顔。

 だけど撫でてくれる手は温かくて、落ち着かない心が少しホッとした。


 時々止まって休憩しながら、車は山道を登っていく。

 窓から眺めていたら、どうやらいつも見上げていたあの高い壁のような山を登っているらしい。

 

 山道を進むと、景色は徐々に白く色づく。

 チラチラと雪が舞う中、僕はある匂いを感じた。


「どうだ? 懐かしいか?」


 両耳をピンと立て、窓から顔を出してスンスンと鼻を鳴らす僕に、シュピは落ち着いた声で話しかける。

 

 懐かしい? どうしてそんな事を言うの?


 けれどシュピの言う通り、見たこともない景色の中に、僕は妙に胸の落ち着くような匂いを感じる。 

 僕はこの時、シュピの言葉に違和感を持った。


「……ふむ。この先は歩いた方がいいな」


 車の通れない細い獣道を前に、シュピはそこで車を止めた。

 荷物と猟銃を背負い、その表情はさっきより更に険しく見える。


「ほら、行くぞ」


 これから何が起きるのか、そう考えると恐ろしくて……僕は車の中で体を丸めた。


「ヤウル……私も一緒だから、安心して降りてきなさい」


 そう言って、シュピは僕の頭や顎をわしわしと撫でる。

 大丈夫、いつもの優しい手だ。

 そろりと冷たい地面に足を降ろすと、シュピはまた僕の体を豪快に撫でた。


「いい子だ……これからしばらく歩くが、付いてこれるな?」


 <ワン!>


 一声鳴いて、僕はシュピと険しい山を登っていく。


 ◇


「この辺りにはな……お前と同じ狼が暮らしているそうだ」


 (……オオカミ?)


 白く冷たい山道を、シュピはまるで独り言のように喋りながら歩く。

 僕は地面に残る匂いを辿りながら、その背中を追いかけていた。


「私は……もう長くない。もちろん私からすれば、お前に最後を看取ってもらえることは、何より幸せなことだ。だが……残されたお前はひとり」


 <……クゥ>


「はは、そんな顔をするなヤウル……お前はあの山で、ただひとつの種として生きてはならない。自分と同じ種がいることを知り、彼らと共に生き、その子孫を残す。それが、自然の摂理なんだ」


 難しい言葉はわからない。

 けれどだんだん、シュピが何をしようとしてるのかわかってきた。

 

 シュピ……でも僕はずっと、あの山にいたい。

 シュピがいなくなっちゃうのは、もちろん嫌だ。

 だからって、全然知らない場所で暮らすなんて怖いよ。


 本当は行きたくなかったけれど、どんどん先に進むシュピの後を、僕はトボトボと付いていく。

 その時、突然匂いが濃くなった。

 僕は両耳をピンと立てて、ピタリと体を強張らせる。


「わかるか? あそこ……あの岩穴の木の下にいる」


 シュピは茂みに隠れながら遠くを指差す。

 僕は姿勢を低くしてゆっくりと進み、シュピの指差す方を覗く。


 するとそこには、僕と同じ格好をしたオオカミってやつが、寝そべったまま顔だけをこちらに向ける。

 そいつは灰色と白が混じったような斑の毛並みで、瞳は鋭く光って見えた。

 アイツは僕らのこと、もう気付いている。


 けれど同じ仲間を見つけた途端、不思議とさっきまで恐怖心はどこかへ消えた。

 無意識に僕のお尻を上がり、パタパタと尻尾が揺れる。

 

「さぁ、あれがお前の仲間だ……行ってこい!」

 

 少し強く背中を叩かれ、僕は弾かれるように前へ駆け出した。


 

 

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