第6話 それでも、帰すと約束した プロローグ
選ばれた者がいる。
選ばされる者もいる。
けれど。
選ぶことだけは、奪わせない。
――帰ると言ったなら、帰す。
「すまんが緊急出動頼む」
そう言いながら界統括機構異界渡り監察課CORGI執務室に入ってきたのは、異界渡り監察課の長を務めるアキオミ・コガだ。
「シャール一人か?」
「ギールもユールも他の任務に出ている」
「そういやそうだったな。居てくれて助かった。CORGI総出だったら俺が行くところだったからな」
「行けばいい」
「それはもうやまやまなんだけどなぁ……」
シャールのやや冷たい返しに、課長は溜息と共に肩をおとす。彼が普段から隙あらばCORGI執務室に入り浸ろうとするのと同じくらい、現場へ出ようとする姿は課内でも名物に近い。
「で?」
短く話の先を促すシャール。
「あぁ、シグナルが出たばかりだ。界の住人による、所謂“違法召喚”ってやつだ。ただし、界がやっかいだ。アルティア界、だ」
その言葉にシャールが眉間ならぬ額に皺を寄せる。
アルティア界はすごく古くて界としての寿命が近く。そのせいであちこちに綻びが起き、目も手も届ききっていない。とはいえ、アルティア界の管理者は随分と有能で、他の管理者ならばとっくに崩壊させているだろうところを、なんとか保たせているのが現状だ。
「綻びから瘴気が噴き出して、それを取りこんだ生物が凶暴化している。知能を持つ生物ではより上位のものを頭に群れを作り、瘴気を取りこんだ生物たちを従えている」
「知ってる」
「その上位種をどうにかしたいっていう界の住人の気持ちも分からんでもないが、違法だからな。」
「……分かってる」
シャールは面倒くさそうに溜息をつきながら立ち上がると、椅子の背に引っかけているベストを取って腕を通す。
妖精型オペレーションシステムのフィヤが、彼の装備を運んできた。
「シャール、フル装備でいいよな」
その言葉にこくりと頷き、シャールは手際よく腰に装備する。
腰にはユールが佩いているよりも太めでやや反りの強い刀のような剣が下げられ、背にはギールが差しているよりもやや短い剣と銃が右寄りに納まっている。
「行ってくる」
ピンと大きな耳を立てながら言い、シャールは執務室のドア前に陣取っているままのアキオミの横をするりとすり抜ける。
それとともに。
「頼むな。これはお小遣い」
と、アキオミはシャールのベストのポケットに指先を潜りこませる。
「ん」
小さく返し、シャールはそのままコギ部屋を後にして送還室へと足を進めた。
「……はぁぁぁ」
残されたコギ部屋であからさまに溜息をついたのはシャールのバディであるフィヤ。
「オミ」
バディは顔をあげるとともに、異界渡り監察課課長に向けて手招きをして近くに呼び寄せ、人差し指をくいくいと床に向けて指す。
「ん?」
「分かってるよな」
小首を傾げたアキオミに精一杯の低い声で言い放つと、彼は苦笑しながら慣れた様子で固い床に膝をたたんで正座する。
「あのさぁ。いつも言ってるよな。どこの界でもだいたい通用する貴石をベストのポケットにちゃんと仕込んでるの知ってるよな」
「貴石込みの標準装備だからな~。ちなみに、標準装備に義務付けるまで結構大変だったんだよ~。おじさんの若い頃の苦労話、聞いちゃう?」
「聞かない」
へらりと笑みを浮かべるアキオミにぴしゃっと言い放ち、フィヤはデスクのイスを引っ張ってきて彼の前に移動させるとその上に仁王立ちになる。それでも視線はバディの方がやや低い。
シャールのバディの説教が始まり、その言葉にユールとギールのバディ達もいちいちうんうんと頷き、アキオミは時折頬を緩め、その度にフィヤにまたぴしゃっとやられていた。




