第6話 それでも、帰すと約束した エピローグ
長かったのか短かったのかすら認識できない時間の後、遮り目を閉じてもなお眩しい光が収束し、身を包む空気感がかわった。
変わったのは空気感だけでなく、鼻先に慣れ親しんだ香りを運んでくる。
そっと目を開ければ、僧房の裏庭で崩れるように座り込んでいた。
「え? 帰って……」
きょろきょろと見まわし、それから直前のことを思い出しぶるりと身を震わせた。
「シャールさん!」
一連の流れで、彼のことも思い出した。
「うるさい。そんなにいい気な声で呼ばなくても聞こえる」
声は思ったよりも近くから聞こえた。
彼は数メートル離れた場所に立っていた。
彼のそばへ行こうと立ち上がろうとしたが、上手く立てない。どうやら腰が抜けているようだった。
「シャールさん、俺……」
「帰ると、言っていただろう」
言葉を続けさせることなく、シャールが言い切った。
「俺、騙されてた……?」
「そうしようとした連中もいただろうな」
淡々と告げながら、端末を取り出し操作する。
「シャールさんが助けてくれた?」
「帰しただけだ」
シャールの耳先がぴぴっと動く。
「手を出せ」
操作を終えた端末を仕舞い、シャール。
言われるままにグレイが手を差し出せば、きゅっと掴まれる。
ほわっと温かいものに包まれたような気がした。
「これでもう、巻き込まれない」
そう言われ、ほっと息をついたことに気づき、グレイは複雑な気持ちになった。
ぽん、と。
シャールの手がグレイの頭の上にのせられ、くしゃりと撫でた。
「シャールさん――」
その後の言葉を、シャールが聞くことはなかった。
◇ ◇ ◇
送還室へ帰還したシャールは、もとの姿に戻りぐーっと大きく伸びをする。手首のリストバンドがぎしりと軋む音を立てた。
“そろそろフルメンテナンスに出さなきゃいけないかな”
表立っては使っていないが、裏ではかなり使った装備品にそんな風に思いながら、CORGI執務室に戻る。
「ただいま」
いつものようにしゅんと、軽い音を立てて開くドアをくぐり声をかけると、ひゅーんとバディであるフィヤが飛んできて、頭の上にとまる。
「おかえり、シャール」
「アー兄、おかえり」
「おかえりなさ~い」
「ごくろーさん」
それぞれから返された声に軽く手をあげて応え、さっさと装備を外していく。心得たものでフィヤが頭の上から飛び上がり、シャールの装備を受け取っていく。
「長かったな」
今日も今日とて入り浸っている課長だ。
「早期接触だったけど、すでに違法召喚者たちと接触した後だった」
そう告げれば、あー……と、ギールとユールが分かりやすくため息をつく。
「シグナル消失と報告のタイミングがずれたのは?」
シャールの耳先がぴぴっと揺れる。
「強制介入した。対象者の選択を遂行させるために、ぎりぎりのところまで待った」
それだけで、彼らにはどんなことがおきたのか想像できてしまう。
「またか」
「事後申請になったけど、事後承諾じゃない。帰りたいと、事前に確認はとっていた」
言いながらデスクのイスを引き、PCに向かう。
「見てなくても、最善だったと思うよ。けど、分かってるよね?」
「報告書に顛末書をつける」
「君たちCORGIはいつも最善を、最良を選んでくれている。きちんと、帰れたんだ。結果はそれで十分だ」
シャールはキーボードに指を置いたまま、わずかに目を伏せた。
「帰れたなら、それでいい」
彼の手首で、 リストバンドがわずかに軋んだ。




