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ドワーフの娘 焔の旅鍛冶-旅立ちとドワーフの宝  作者: ま〜ち


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8 もう一度覚悟を

 「ミーシャ!!」


 今まで聞いたことのない大きな声で、リコが叫びながらこちらへ向かってきた。

 すべてが、ゆっくり動いていた。

 振り下ろされるゴーレムの拳。

 拳から巻き上がる砂埃。

 剣を手に、土煙を蹴って走るリコの姿。

 その顔は必死で、とても同い年には見えなかった。

 覚悟を決めたつもりだった。

 戦うと決めたのに。

 沢山の国に行ったり、遺跡を見たり、冒険したりしたいのに。

 覚悟を決めたつもりだった。誰に何を言われても、揺るがないつもりだった。

 それでも――怖かった。


 助けて、親方。


 私は顔を下に向け強く目を閉じた。自分の人生が終わる瞬間を待った。

 横から激しい衝撃をわき腹に受けた。視界がゆっくりまわる。

 その瞬間、今まで音のなかった空間に音が戻り、時間が動き出した。

 何が起きたのかと思って目を開けると、リコが私を抱きかかえながら転がっていた。

 頭も肩も打って痛かったけど、感謝の言葉を伝えようとした瞬間、右側で大きな音が鳴った。

 二人して音の方へ目を向ける。

 ゴーレムが左拳を地面に叩きつけていた。

 さっきまで私がいた場所には、大きな凹みができていた。


 「大丈夫?ミーシャ。動ける?」


 危機的な状況なのに、リコは冷静だった。

 どうしてそんな余裕のある顔ができるのか。と思ったけど、リコの額に一筋の汗が流れていた。少し焦ったのかなって思った。

 そして聞きたいことが、いくつも浮かんだ。

 

 「おいおい!!ねえちゃん!本当にやれるんか!?しっかりしてくれよ!」

 陽気な声が、リコの持つ剣から響いた。

 剣に目をやると、光が一層強くなっているように見える。

 アークの言葉は無視して、とりあえずリコに頷いた。

 安心したような顔をして、少し息を吐いたリコは、すぐにゴーレムを睨む。

 もしかして――怒っているのかな、と思った。


 「ミーシャ、僕は正面から行く。左側から攻撃して」


 リコは私を見なかった。

 でも、顔を見なくてもわかった。

 今の彼は、戦う人の顔になっている。

 後姿の雰囲気がさっきまでと違った。

 剣を研いだ後みたいに鋭く、そして燃え盛る炉の様に激しい気持ちでいるのが伝わった。

 ここに来る前の…穏やかに笑っていたリコはそこにはいなかった。


 「うん。分かった」


 「頑張ろうね」

 少し振り向いて、リコが私に微笑んだ。安心させるように。

 拳を差し出してきたリコの顔には、細かい傷が浮かび、土煙にまみれていた。

 私は黙って、拳を軽くぶつけた。拳がぶつかった瞬間、胸の奥に熱が走った。火種がともったような感覚だった。

 消えかけて、一度挫けた私の心に、再度灯してくれた。


 「かー!そんな熱い展開は別の日にしてもらってもいいですかね? お二人さん!」


 ゴーレムが再度こちらに顔を向けて睨んでいる中、空気を壊すような声が広間に響いた。

 リコが苦笑いしながら剣を見て、前を見た。

 私はリコの背中から、かつて親方から寝物語として聞かせてもらった英雄の姿と重なった気がした。


 「さあ!さあ!!こっからが本番だ!心に火を灯せよ、お二人さん!」

 鼻から息を大きく吸い込んで吐いた。落ち着かせるために目を閉じたらチカチカ光が瞼の裏を灯している。

 私はゆっくり瞼を開けて少しアークを睨む。うるさい剣だ。言わなくても分かっている。

 鍛冶屋に戻ったら炉にくべて、鉄の塊にしてやろうか。親方に予定にないことをするなと怒られそうだけど。

 いや……良い鉄だって言われるかな、もしかしたら。

 そんなことを考えていたら、リコが「いくよ」と言って走り出した。


 「カッコいいところみせろよ!…おっと、照れんなよ!若いの、人族の男の子! あのねえちゃんは、いい女になるぜ!」

 下品な剣だ。

 親方に相談してみよう。

 私はリコの後ろから左に回り込む。

 走りながら、自分の状態を確認する。


 足、異常なし。

 剣、無事。

 腕、動く。

 体、問題なし。

 

 心――準備中。


 もう一度、覚悟を決めるだけ。

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