5 壁画の通路にて
壁画の門をくぐると、両脇の壁から暖かい色の明かりが灯った。
その明かりは順番に、先の通路を照らしていく。
壁には、この国の歴史だろうか、多くの壁画が描かれていた。
右側には、ドワーフ。王冠を被ったドワーフと、人、エルフ、獣人族が横並びに描かれている。
それぞれの種族には武器が握られていた。
ドワーフには斧、人には剣、エルフには弓、獣人族には短剣と小さな盾。
綺麗な色で描かれていたけど、どこか雰囲気が張り詰めていて、私の耳が細かく動き出した。
対照的に反対側は、すごく暗くて怖い壁画だった。黒い人影、ゴブリン、トロール。
皆、武装していて、今にも襲われるんじゃないかと思うほどだった。
特に黒い人影は目のところが赤く塗られているだけであり、どこか恨み、妬みを訴えているようだった。
「凄いね、この両脇の壁画。神話時代にあった戦いを表しているのかな?」
少し前にいるリコは、左右の壁画を見比べながら進んでいた。私の事を見ずにどんどん前に行く。声からしてリコは少し興奮しているみたい。私もだけど。
置いて行かれてないよう、私はリコに追いつける速度で、歩き出した。
歩いている音が反響して何重にも通路に響く。
両脇に壁画が描かれたまっすぐな通路に灯りがついたとはいえ、空気は冷たく、さっきの部屋よりも重い雰囲気があった。
壁画の影響だけとは言えなかった。
周りが静かだからというのもあるだろうけど、何よりも奥から圧を感じた。
猫獣族特有の耳が再び細かく動く。
こういう耳の動き方をしている時は、何かあるから嫌なんだ。
果てしなく灯される明かりが、新たな門を照らして止まった。
「本当にすごいね。こんなに栄えてたのに、なんで滅んだのかと思うよ」
私の手を放して、両脇の壁画をまだ見回しながらリコが言う。
こちらを向かずにいたが、声からして楽しそうだった。
楽しいのは、私もそうだった。
未知なる場所、壁画、それらを見るのが楽しくてしょうがなかった。
今までにない興奮が、胸を高鳴らせていた。
「ねえ、リコ……さん」
「呼び捨てで構わないよ。えっと……ごめん、名前聞いてなかった、かな?」
朝からのやり取りを思い返してみると……言っていなかった気がする。
いつもなら出発のときに親方が紹介したり、自分から言ったりするのに。
朝、ドタバタと準備してたし、違う雑談していたから、どうも忘れてたみたい。
「ミーシャ」
「ミーシャ。どうしたの?」
「ここまで来て今さらだけど、なんでドワーフ王国の宝を見つけたいの?」
歩きながら私は、今まで疑問に思っていたことを口にした。
ここまで来るまでの身のこなし、山登りしても息切れしない体力、少しだけど神話の知識。
それらを考えると、冒険者じゃなくてもやっていけそうな気がした。なんとなくそう思った。
そして、少しだけ――本当に少しだけ、リコのことに興味を持っていた。
「秘密」
…やっぱり生意気だ、こいつ。
大きなため息をつきたくなる気持ちを抑えて、質問を変えることにした。
「ドワーフ王国の宝を見つけた後はどうするの? 売るの?」
「売りはしないよ。いろいろとやりたいことがあるんだ」
「そうなんだ」
ドワーフ王国の宝で“いろいろ”って何だろう。
やんわり誤魔化された感じはあるけど、まあいいかと思う。
今日会ったばかりの人に、そんなにずけずけと聞くのも悪いし。
歩きながらリコの埃まみれの赤茶の後頭部――背中を見つめる。
気づかれないように、私はそっと両手で傷跡を撫でた。
そういえば、リコも私の腕の傷跡とか見ないように、気づいてないふりしてくれてるっぽいし。
お互い様ってことで。




