11 私の決意は
私の部屋に連れて行ってもらい、ベッドに横にならせてもらった。
軋む音を立てながら、木のベットが私の体を受け止めてくれてた。
ベッドに横になった瞬間、木の匂いと毛布の匂いが鼻をくすぐり、「帰ってきたんだ」と実感した。そしたら凄く体に疲れがあらわれてきたのを感じる。ベッドで横になりながら顔をすぐ横にある窓に向けたら、2つの三日月が見えた。
疲れているせいか、ぼやけて見える月が、あの広間の青白い炎のように揺らめいて見えた。
私を背負っていたリコが部屋を出ようとする。その背中に「ありがとう」とすこし掠れた声で言ったら、リコが振り向いて私を見た。
しばらく黙ってから、覚悟を決めたように息を吐いて言う。
「明日の朝、日が少し出てから出発するつもりだから」
「…うん、わかった」
私はまだどうするか決めきれていなかった。
だから、それしか言えなかった。
ドアの向こうの灯りがリコを照らす。
反対に、私は灯りもつけずにベッドで横になっている。
まるで、彼と行かなければ、人生が暗く閉ざされてしまうような気がした。
思い過ごしだし、考えすぎだと思う。
だけど――
天井を見ながら色々と考えようとしたそのとき、ドアをノックする音がした。
返事をすると、ドアが開く。
「おう、大丈夫か、ミーシャ」
親方が部屋に入ってきた。
「体がいろいろと痛くて、もう無理」
「本当に無茶したな、ミーシャ。とりあえず、これを飲んでおけ」
差し出されたのは、私がいつも使っているカップ。
そこから湯気が立ちのぼっていた。
たぶん、ドワーフに伝わる回復茶。
鍛冶屋の手伝いが終わったあと、剣の稽古がある日はいつもこれを出してくれた。
苦いけど、翌日には動けるようになるから助かるんだよな――そう思いながら、カップを受け取った。
軋む体を押し起こして「ありがとう」と言い、両手でお茶を一口飲む。
一息ついたとき、親方が真剣な目で私を見ていた。
「ど、どうしたの?」
「いや、何。まあ、あれだ。無事に戻ってこれてよかった」
親方は歯切れの悪い声で言いながら、視線をあちこちに向けていた。
「うん。まあ…あ、そういえばアークとは話した?」
「アーク?…ああ、あのうるさい剣か。少しだけな。あまりにもうるさいから炉に入れてやろうかと思ったわ」
雰囲気を変えたくてアークの話をしたら、私と同じことを考えていた。
「私も、そう思った」
「…そうか」
少し笑って、緊張が解けてきたのか、それとも覚悟が決まったのか。
親方は再び、真剣な目を私に向けた。
次の言葉を聞きたくなかった。
外から虫の声がして、空には三日月が浮かんでいる。
木の香りが穏やかに漂うこの部屋で、まだ親方と穏やかに話していたかった。
「…お前、冒険しに行きたいか?」
決断の時間が来たみたい。
私はカップに目をやり、湯気が立ちのぼる液面をじっと見つめる。
「俺の目を見ろ。真面目な話だ、ミーシャ」
「…分かってる」
液面から親方に目を向けると、月明かりで親方の顔が青白く照らされていた。
一度、息を吸って吐く。あの戦いのときのように。
「私、冒険者に…なりたい」
「そうか。そう言ってたもんな…良い目をするようになった」
「でも…」
「焔が灯されたのだ、ミーシャ。焔がともったお前は、もう止まらないし、止められない。目を見れば分かる」
私がまたカップに目を落とすと、親方がそっと頭に手を置いた。
「ミーシャ。いろいろと悩んだり、不安だったりするかもしれない。
だけど、それは恐怖に値しない。お前の焔は灯された。暗闇を恐れるな。
己が持つ焔だけを頼りに、前へ進め」
幼いころに言われた言葉を、優しく、囁くように繰り返してくれた。
ドワーフの宝があるって思った時、ゴーレムと対峙した時も、私の胸の奥に確かに焔が宿った気がした。
「…今日はもう寝ろ。おやすみ、ミーシャ」
私はまた、何も言えなかった。
言いたい言葉はたくさんあったのに。
自分の育ての親なのに。口が石のように固まり、言葉が出てこなかった。
ただ、部屋を出ていく親方の背中を見送ることしかできなかった。
そして――
私の勘違いじゃなければ、親方の背中は少し寂しそうに丸まっていた。




