10 帰り道
ゴーレムとの死闘を経て力を使い果たした私は、リコに背負われて帰ることになった。
松明で暗い道を照らすのは、背負われている私の役目。
長い棒に布を巻き、油を染み込ませた松明が、赤い火をゆらゆらと灯していた。
赤い火は自然と、リコの進む道を照らす役割になっていた。
道は暗い森の中だったが、穏やかな風が流れていて、さっきまでの冒険が嘘のようだった。
その風は体温を下げてくれて、心まで癒してくれるようだった。
蛇のようにくねった道を下れば、鍛冶屋の灯りが見えてくる。
家兼鍛冶屋の灯りを思い出す。いつも灯りが見えてきたら気が緩んで転びそうになる。転びそうになった日のことを思い出し、思わず笑いそうになった。
そんな時、急にリコが立ち止まった。
「どうしたの?」
背中越しに、リコが何か言いたそうな気配が伝わってきた。
「あのさ、ミーシャ」
「うん」
「一緒に冒険しない?」
「今日した」
「明日以降も…僕と」
リコが振り向き、私を見つめる。つまり、一緒に冒険者にならないかということ。
正直、どうしたものかと悩む。
少し黙っていたら、リコが穏やかに笑った。
「返事は、明日の朝でもいいから」
「…うん」
またリコが歩き出す。
お互い黙ったまま、帰路につく。
蛇のような道を下りながら、足元に注意して進む。
森の鳥たちも獣たちも、寝静まったように静かだった。
ただ、私の鼓動は少し早くなっていた。
冒険者になる。
今日の朝に考えていたことを、また同じ道で考えていた。
私にやれるのか。
親方を一人であの鍛冶屋に置いていくの。今までの生活を手放してまで。
でも…外の世界を見に行きたい。どうしよう。
そんな思いが募る。
同時に、リコとならうまくやれるのではないかという気持ちもある。
だって今日、ドワーフの宝を見つけ、試練を乗り越えたのだから。
急ごしらえだったけど、何とか連携も取れてた…ような気がするし。
「…ねえ」
「ん?何?」
私は少し息を吸って熱い体を冷やすように息を吐いて、心の整理をする。リコに聞きたいことがあったから。
「ドワーフの宝を手に入れて"いろいろやりたい"ことって具体的に何なの?」
「…そうだな…」
リコが空を見上げながら歩く。その赤茶の後頭部から、あ、こいつ言葉考えているなって感じた。
「僕にはやらないといけないことがあるんだ。その為かな」
「また、はぐらかす」
「…はぐらかしてるつもりじゃないんだけど」
「嘘つき」
「嘘はついてないよ」
「じゃあ素直じゃないんだね」
ちょっと棘のある言い方だったろうかと思い、顔をのぞき込む。
私の視線に気づいたリコが目だけ私に向けて困ったように、だけど穏やかに笑った。
「素直になれるように努力はするよ」
私から目線を前に向けて、少し空を見上げながらリコは楽しそうに言った。
「期待してる」
私は偉そうに聞こえるように言った。リコが少し声を出して笑った。
リコの笑い声を聞きながら思う。ま、いっか。今はこれで。
リコが見上げた空を私も見上げる。
黒色に塗られている空には宝石のように輝く星と、ゆっくりと流れる雲、白と青の2つの三日月が静かに浮かんでいた。
家である鍛冶屋に着いたのは、夜も深くなり、多くの人たちがもう夕飯を食べ終えたような時間帯だった。
それでも、鍛冶屋の灯りはともっていた。
町はずれにある鍛冶屋。
それが、私の生まれ育った場所。
リコが私を背負ったまま、鍛冶屋のドアを叩いた。
「親方ー、ただいま戻りました!」
リコが言い終わった直後、勢いよく扉が開き、家の中には親方が立っていた。
「…やっと帰ってきたか、2人とも。ミーシャ、どうした?」
「ちょっとね」
「あー…無茶したのか。しょうがない奴」
頭を乱暴に撫でられながら親方を見ると、苦笑いしていた。
「冒険者、今日はもう遅い。汚いところだが、泊まっていけ」
「ありがとうございます、親方」
親方が家の中に入ろうとしたとき、ふと思い出したようにこちらを振り向いた。
「ところで、お前ら、ドワーフの宝を見つけたか?」
「ここで俺様登場!!たまには俺も空気を読むってこと、分かってくれたかお二人さん!!」
私は後悔している。
あのフォス鉱山に、この剣を置いてこなかったことを。




