表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/11

第7章 決着の城門

― ネフェル視点 ―


王都を包む空は、重く、曇っていた。

朝なのに、まるで夕暮れのような色。

光のない空の下で、街の石畳さえ、どこか血の気が引いたような色をしている。


ネフェルは歩いていた。

足取りは、迷いがなかった。

だが、それは強さではない。

失ったものの重さを、そのまま歩みに変えただけだった。


左手の薬指に嵌めた、小さな銀の指輪が静かに光っている。


「あと少し……」


誰に向けた言葉でもなかった。

けれど、彼女の中にある“誰か”が、静かに応える。


(ええ、もうすぐです)


“ノエル”。

彼女の中にいる、もう一人の声。


ネフェルは何も尋ねなかった。

ただ進んだ。


町の門を越えたとき、兵士の影はなかった。

王都に近づいても、誰一人、門を守る者はいない。


「……誰も、いないの?」


(もう、この国は“王子の国”ではなくなったのです。

王子は、王となることを捨て、魔王になろうとしています)


「魔王に?」


(ええ。ですが、その器には“心”がありません。

狂気と欲望で作られた王――)


「なら、その王子は……もう人ではない。と?」


(……はい)


石造りの城門が、見えてきた。

重く閉ざされたはずの門は、なぜか半分だけ開いていた。


まるで、彼女が来るのを“待っていた”かのように。


「……罠ね」


(ええ。でも、罠ごと貫けるでしょう? あなたなら)


ネフェルはうなずいた。


両腕には今、誰かの剣が握られている。

あの日、町で拾った名もなき剣。

刃こぼれだらけで、歪んだ鉄の塊のようなそれが、彼女の力に反応して光を帯びていた。


歩を進める。

剣を引きずるその音が、城門に反響する。


風が吹くたび、彼女の背の“金色の羽”が揺れる。


やがて――


城の大扉の前に立つ。


その扉の前には、誰かが立っていた。

黒衣の騎士。

かつて王子に忠誠を誓った、最後の騎士団長だった者。


「ここより先は、神の聖域。

罪人と死者と、過去を背負う者は通せぬ」


かすれた声。

鎧にはひび割れ。

だがその両眼だけは、鋭く光っていた。


ネフェルは、ゆっくりと剣を構えた。


「私は、過去を背負いに来たんじゃない。

未来を、変えに来たのよ」


騎士は一瞬、口元を動かした。

それは、笑ったようにも、哀れんだようにも見えた。


「ならば、その剣で示してみせろ。

貴様が“天使”ではなく、“人間”であるという証を」


風が止んだ。

空気が張りつめ、剣と剣が火花を散らす。


一瞬。


ネフェルの剣が疾走し、騎士の刃が防ぐ。


その瞬間、二人の周囲に雷鳴のような衝撃が響いた。


剣戟が鳴るたび、彼女の羽が煌めき、

黒き騎士の剣が弾かれるたび、過去の血が滲み出る。


だが、ネフェルの目に映るのは、ただひとつ。


――あの、王子。


玉座で笑っている姿。


「……この剣は、皆の命と、願いの重さだ」


剣が赤く燃える。

あの日、町を包んだ炎と同じ色。

彼女の髪と、同じ色。


「……だから――私は、もう迷わない!!」


叫ぶと同時に、ネフェルの剣が騎士の防御を貫いた。


時間が止まったかのように、風が静まり――


鎧が裂ける音が響いた。


騎士は、剣を落とし、崩れ落ちた。

だがその顔には、どこか微笑が浮かんでいた。


「……人で、あるか……なるほど……」


それを最後に、静かに意識を閉じた。


城門の奥。

漆黒の回廊へ、ネフェルは踏み出す。


(あなたの歩みは、もう止まりません)


ノエルの声が、胸に染みる。


「行こう。終わらせるために」


踏みしめる石の感触は冷たい。

だが、彼女の心は熱かった。


これは、復讐ではない。

これは、救済でもない。


――これは、罪を裁くための戦い。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ