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その後

 リリーの左手薬指にオルフェルス家に伝わる指輪が輝いている。

 青い大きなサファイアの宝石を空にかざして満面の笑みを浮かべた。


「うふふふっ。私、大好きな人と結婚できるんだわ」


 新鮮な空気を吸おうと雪が積もる庭に出たリリーは、指輪を眺めてむふふっと笑う。

 フェリシア姫の侍女としてやってきたリリーだったが今はアルヴェインの婚約者だ。

 リリーとしてはいつ結婚してもよかったが、アルヴェインが何かあったら困ると準備を急いでくれたおかげで数日後に結婚となった。

 リリーの両親は一度実家に帰ってしまったが、結婚式にはリリーの兄も来る予定だ。

 幸せいっぱいのリリーの元に女中が声を掛けてきた。


「奥様、お手紙です。アルヴェイン様から早急に渡してくれと言われました」


 奥様と呼ばれてリリーはぎょっとして飛び上がった。


「まだ結婚していないので奥様なんて呼ばないで大丈夫ですよ。そもそも、私はリリーなので名前で呼んでいただければ」


「リリー奥様とお呼びしますね。トカゲから愛を育むなんて素敵ですね」


 のほほんと言われてリリーは咳き込んだ。


「ど、どうしてトカゲの事を知っているの?」


「だって、みんな見ていましたもの。トカゲが消えてリリー奥様が生き返った奇跡を!どうりで爬虫類が大嫌いなアルヴェイン様がトカゲを肩に乗せて歩いていたわけですわね!愛ですわ愛!」


「……そ、その噂ってみんなしているんですか?」


 トカゲの姿だったことが知れわたっている事実に驚いているリリーに女中は頷いた。


「えぇ。だってどんな物語より素敵なお話ですもの。アルヴェイン様の髪の毛で目覚める愛する人。素敵だわ」


 頭を下げて去っていく侍女を驚きながら見送る。


「信じられない。私がトカゲだったことは生涯の汚点よ」


 渡された手紙を握り潰しそうになり、リリーは慌てて差出人の名前を見る。

 そこには懐かしい同僚アンナの名が書かれていた。


「アンナからだわ。忙しくて連絡していなかったけれど、どうして私が生きているって知っているのかしら」


 最後にアンナを見たのはリリーが死んだことにショックを受けている姿だ。

 その後、実家に帰ったアンナからがなぜ手紙が来ているのかと不思議に思いながらも封を開ける。

 数枚にわたる便箋を広げて、懐かしいアンナの文字を読み始める。


”リリーへ。アルヴェイン様とのご結婚おめでとうございます。まさか、憧れている人と結婚するとは思わなかったわ。てっきりリリーが死んでしまったと思って落ち込んでいたけれど、アルヴェイン様の愛の力で蘇ったと聞きました。トカゲになって身を潜めていたんですって?やるわね!もしかしたら、一度だけその姿で会いに来てくれたことがありますか?あの時は、リリーだって知らなかったらごめんなさいね。でも愛の力で蘇ったリリーはきっと幸せになるでしょうね。結婚式には絶対に行くから招待状を送って下さい。


ちなみに、私の住んでいる街は田舎なのにトカゲのリリーとアルヴェイン様の愛の話でもちきりです。おかげで私に話を聞きに来る人が絶えません。

だから話を聞かせてくださいね!お幸せに”



 手紙を読み終えてリリーは嬉しさと驚きで叫びたい気持ちを抑えながら空を見上げた。


(信じられないわ。アンナの田舎にまで私がトカゲだったことが伝わっているなんて!)


 「また鼻の穴を広げて何を考えているんだ?」


 いつの間にかやって来たアルヴェインがリリーに声を掛けた。

 無表情なアルヴェインだがほのかに笑っている様子にリリーはまた鼻の穴を大きくする。


「だって、アンナから手紙が来たんですけれど、私がトカゲだったことが伝わっているんですよ!オルフェルス家の秘伝で極秘なんじゃないんですか」


「確かに、困ったことだ。秘伝のワインについて問い合わせが多くなっている。あれは外に出せないワインなんだ」


「ワインよりも私がトカゲだったことをみんな知っているんですよ。嫌ですよ」


 鼻の穴を大きくしているリリーの顔が面白くてアルヴェインは声を上げて笑った。


「俺はトカゲを愛する男ということになっているからお互い様だな」


「どういうことですか?」


「一匹のトカゲを偶然見つけた俺は、トカゲを愛し始めた、しかしトカゲは意地悪な姫様に殺された幽霊が乗り移ったリリーだった。それとは知らずにトカゲを愛する俺は、ある日リリーだと気付いたという設定らしい」


「なるほど。そんな物語になっているんですね。アルヴェイン様は最後までトカゲ嫌いでしたよね」


 リリーが言うとアルヴェインは頷く。


「大嫌いだ。気持ちが悪い」


「きっと、トカゲにそんな言葉を吐かないアルヴェイン様の物語が独り歩きして居るんですねぇ」


 遠い目をするリリーをアルヴェインが珍しく後ろから抱きしめた。


「外に居ると冷えるだろう」


「アルヴェイン様が優しい。ちょっと怖いですね」


 結婚式が近づいてきたためか、アルヴェインのスキンシップが多くなってきた。

 リリーが真面目な顔をして言うと、アルヴェインは微かに眉を顰める。


「嫌なのか?」

「嫌じゃないです嬉しいですよ。ただ、アルヴェイン様らしくないなーと思いまして」


「トカゲなら無理だが、人間のリリーは可愛いから触りたくなる」


「なるほど、それは嬉しい言葉ですね」


 ニッコリと微笑むリリーにアルヴェインも微笑んだ。




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