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「ヒィ、寒いですね」


 宝石店へ向かうべくリリーはアルヴェインの肩に乗って移動をしていた。

 城の外は凍えるような寒さでトカゲ姿のリリーの身体は動きが鈍くなる。

 本格的に降り続いている雪はかなり積もっている。

 アルヴェインの方から空を見上げると灰色の雲から白い雪が落ちてきているのが見えた。

 大きな塊の雪が地面に積もっていく。


「雪はまだ降るんでしょうか」


 震えながら言うトカゲにアルヴェインは頷く。


「まだ冬が始まったばかりだ。酷い時は俺の身長を超えるぐらい雪が積もる」


「それは凄いですね。人間の姿だったら楽しいですが、トカゲだと生死にかかわりますね」


 震えているトカゲを見てアルヴェインは鼻で笑った。


「確かにそうだな。雪に埋もれたら春まで見つからないだろうな」


「ひぃぃ、絶対に回収してくださいよ」


 宝石屋の前にたどり着きリリーは念を押しながらアルヴェインの肩から飛び降りた。

 雪かきがしてある入口の柵に飛び乗ったリリーを見つめてアルヴェインは頷く。


「一時間後、回収しに来る」


 そう言って颯爽と走って行くアルヴェインを見送ってリリーは気合を入れる。


「絶対に証拠を見つけるわよ」


 トカゲの手で頬を叩くとリリーは勇ましく宝石屋のドアのふちから室内に入り込む。


 暖かい室内は店長が一人で店番をしているようだった。

 客は誰もおらず店長がショーケースを磨いていた。

 リリーは気配を消しながら階段を上り二階へと向かう。


 一番奥の部屋のドアの隙間からそっと室内へと入る。

 暖炉に火が灯っており、その前に置かれている椅子には金髪の男性が寝息を立てていた。


(フェリシア姫のお相手の男性、レニーね)


 気配を消しながらそっと寝ている男性の前まで歩いて顔を覗き込んだ。

 整った綺麗な顔をしている男性を見てリリーは頷く。


(間違いないわ。フェリシア姫のおきにいりの男よ。この人レニーって名前だったのね)


 若くて綺麗で、優しい男性に見えるがきっと内心は腹黒いのだろう。

 

(この人との子供なら生まれてくる子は金髪じゃない。アルヴェイン様は黒い髪の毛からすぐにばれると思うけれど。でも、フェリシア姫は黒い髪の毛だから万が一分からないかもしれないと思ったのかしら)


 アルヴェインの子供と言うには無理があるだろうと呆れながらもリリーは室内を徘徊した。

 ちょうどレニーが書類を整理している途中のようで机の上に沢山の書類が散乱している。


(どうやらレニーは書類の整理が苦手なようね)


 見られてはまずいものを燃やしてしまうフェリシア姫と違い、レニーは全て置いているようだ。

 宝石店の売り上げや、いろいろな人の手紙が混じっているのを眺めてリリーは何か手掛かりは無いかと目を凝らす。

 宝石店の売り上げを見つめてリリーは鼻で笑った。


(全く売れてないじゃない)


 売上が0を更新しているのを見て内心ほくそ笑む。

 愛人と会うために用意した店だから売り上げなど気にしていないだろうが、店が繁盛しているとしたらリリーの腹の虫が収まらない。

 宝石の取引している書類を見つけてリリーはトカゲの手で器用にその書類を取り出した。


 売上がゼロなのに、利益が+になっているのを見てリリーは首をかしげる。


(昨日何か売っているわ。売れなかった装飾品でも売ったのかしら)


 それにしては収入が高すぎる。

 リリーの給料の10倍の金額を見ながら他に手掛かりがないか書類をあさる。

 お金を受け取った領収書を見つけてリリーは歯を見せて笑った。


(外国に宝石を売っているわ。きっとこれ、フェリシア姫がアルヴェイン様の家から盗んだ宝石よ)


 小さな領収書を器用に折りたたんで口にくわえる。

 何とか歩けることを確認しながら、他にも何かないかとリリーは書類に目を落とした。

 フェリシア姫からのラヴレターがほとんどをしめており、早く一緒に住みたい、子供の名前は何にしよう、きっとレニーに似て可愛い子供が生まれてくるはずだというような内容ばかり書かれていた。


(この中の一枚も持って行こうかしら)


 二人の子供が生まれるのが楽しみだという内容が書かれている手紙を小さく折りたたんで口にくわえた。

 トカゲ姿では二枚で限界を感じてリリーはレニーが起きる前に部屋を出ようとドアまで歩く。


 ドアの隙間から出ようと頭を突っ込むが口にくわえている書類が邪魔をして通り抜けることが出来ない。


(困ったわね。外に出られないわ)


 書類を置いて行くこともできずリリーは部屋を見回して、換気のために少しだけ開けられている窓を見つけた。


 ゆっくりとよじ登り窓の隙間に顔を突っ込んで体が通るぐらい隙間を開ける。

 窓から下を見ると、雪が降る中アルヴェインが馬に乗って向かってくるのが見えた。


 黒いマントをなびかせながら颯爽と馬に乗っているアルヴェインはリリーの目には王子様に見える。


(王子というには少し年上でなおかつ愛想も無いけれど、それでも素敵よねぇ)


 馬に乗るアルヴェインの姿をボーっと眺めてリリーはトカゲの姿で手を振ってみた。

 ちょうど宝石店の下にたどり着いたアルヴェインが何気なく上を見上げてぎょっとした顔をする。


(見つけてくれたわ。愛の力ね)


 アルヴェインと目が合いリリーは喜びながら両手を振る。

 トカゲに手を振られてアルヴェインは明らかに嫌そうな顔をしている。


(失礼ね。とりあえず、窓から飛び降りるしかないの)


 リリーは身振り手振りで飛び降りることを伝えるとアルヴェインはますます嫌そうな顔をしている。

 受け止めてほしいと願いを込めてリリーは窓枠から勢いをつけてアルヴェインの元へ飛び下りた。


 逃げる隙を当たず飛び降りたリリーをアルヴェインはしっかりと両手で受け止める。


「うっ、トカゲの体を触ってしまった」


 手袋しているとはいえ、アルヴェインは気色の悪い感覚に顔を顰めている。

 すぐ傍にアルヴェインの美しい顔がありリリーはホクホクしながら口に咥えていた手紙を両手で持った。


「ありがとうござます。アルヴェイン様なら受け止めてくれると思っていました。私を見つけて抱き止めてくれるなんて愛ですね」


 ウキウキした様子のリリーにアルヴェインは首をふる。


「顔に落ちてきたら最悪だからだ!」


 トカゲが顔に落ちてくることを想像したのかアルヴェインは一人でゾッとしている。

 リリーはアルヴェインに受け止めてくれたことが嬉しくて笑みを浮かべる。


「それでも嬉しいです。この書類をお願いします」


「トカゲが口にくわえていた書類を懐に入れるのは嫌だ」


 リリーが差し出した折りたたまれた二枚の紙を見ながらアルヴェインは拒否をする。


「重要な書類ですよ。アルヴェン様から盗んだ宝石を売ったであろう領収証と、お腹の子供の事が書かれた姫様の手紙の一部です」


「……なるほど」


 アルヴェインは頷いて嫌そうにトカゲから2枚の紙を受け取ると、雪で濡れないように懐に入れた。


「さぁ、帰りましょう。暖かい部屋へ」


 嬉しそうに声を出すリリーにアルヴェインは疲れように頷いた。


「俺はトカゲが本当に嫌いなんだ」


 馬を走らせながら言うアルヴェインにリリーは頷く。


「知っていますよ。私だってこんなトカゲ嫌ですもの」


「俺がどれだけトカゲが嫌いか分かってもらえてよかった」


 雪が強く降る中アルヴェインは小さく呟いた。




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