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「お話が盛り上がっているところ失礼いたします」


 軽食を乗せたワゴンを押しながらフェルナンが部屋に入って来た。

 微笑みながらリリーとアルヴェインを見つめると頷く。


「そろそろ小腹が空いたころでしょう。お食事をお持ちしました。リリーさんには人間用の小さなサンドウィッチを特別にお作り致しました」


「わぁ、お腹が空いていたんですよ。ありがとうございます」


 トカゲ用に小さく作られたサンドウィッチを見てリリーは手を叩いて喜んだ。

 キーキー行っているトカゲの言葉をアルヴェインが訳す。


「喜んでいるようだ」


「それは良かったです」


 久しぶりの人間の食事に涎が出そうになりながらリリーはサンドウィッチにかぶりつく。

 ジュワッとしたハムの美味しさが口いっぱいに広がり懐かしい食べ物の味にリリーの目から涙が落ちてくる。


「美味しい!やっぱり私はトカゲじゃなくて人間なんですよ」


 むしゃむしゃとサンドウィッチを頬張りながら涙を流しているリリーを見てアルヴェインは眉を顰める。


「トカゲが食べている姿を見るのも気持ちが悪い。俺の机の上を汚さないでくれ」


 アルヴェインは文句を言いながらトカゲが落とした食べかすを指先で軽くどかした。

 リリーはアルヴェインを睨みつける。


「酷いですよ。人間だったら綺麗に食べていますよ。私が人間だったことをお忘れですよね」


「確かに人間だったな」


 アルヴェインはため息をついた。




 お腹がいっぱいになったリリーはウトウトしながら仕事をしているアルヴェインを眺める。

 室内にはアルヴェインとリリーの二人だけだ。

 仕事をしているアルヴェインを眠たい目で見つめながらリリーは軽く欠伸をする。


(部屋も暖かいし、お腹もいっぱいだし。トカゲの姿だと眠くなってしまうのね)


 アルヴェインの正面に置かれているローテーブルの上に用意された寝床の中でリリーはうつぶせのまま箱の淵にあごをのせた。

 無表情に書類を確認してサインをしていくアルヴェインを見つめる。

 

(アルヴェイン様は素敵なのに、女性問題で苦労されているのね。仕事のできる嫁は来ない、あげくに男あさりの特異なフェリシア姫を押し付けられて意外と可哀想ね)


 田舎へ嫁に来る人が居なかったと言っていたが、リリーに取ってアルヴェインは素敵な男性だ。

 整った顔に黒く長い髪の毛もリリーには素敵に見える。


(いくらでもお嫁さん来そうなのにな。私が人間だったら少しは脈があったかしら)

 

 そう思って軽く首を振る。


(少しだけ人間の姿でこの城に居たけれど、恋愛に発展しなかったのだから無いわね)


 軽く笑ってリリーは眠りについた。



『リリー、そろそろ起きなさい。実家に帰って来たからって寝てばかりじゃダメよ』


 懐かしい母親の声にリリーはウトウトしながら唸り声を上げた。


「お母様、会いたいわ」


 これは夢だとわかっているがリリーは懐かしい母親に抱き着こうと手を伸ばした。

 陽だまりの中で微笑んでいる母親には手が届かない。


「お母さま……」


 夢の中の母親を読んでいると強く体を揺さぶられた。

 

 夢から目覚めると無表情なアルヴェインと目が合う。


「トカゲのくせにうなされていた」


「……母の夢を見ていました」


 目をぱちぱちさせているトカゲを見つめてアルヴェインは肩をすくめる。


「トカゲの癖に大変だな」


「本当ですね。どうして私こんな姿で生き返ったのでしょうか。こんなことなら何も知らずあの時死んだままでいた方が良かったです」


 大粒の涙を流すリリーを見つめてアルヴェインはため息をつく。


「トカゲは嫌いだがお前の気持ちは理解できる。……見に行ってみるか」


「何をですか?」


「お前の死体だ」


 アルヴェインに言われてリリーは頷いた。


(確かに、私は本当に死んだのか確認する必要があるわ。もしかしたら、元に戻れるかもしれないし)


 頷いたリリーを見てアルヴェインは眉を潜めながら恐る恐る腕を差し出す。


「トカゲの足は遅い。大変不本意だが腕に乗って移動することを許そう」


「許すって偉そうですね。確かに移動は遅いので乗らさせていただきますけれど」


 リリーはのそのそとアルヴェインが差し出した腕に掴まる。

 トカゲが体を触った瞬間アルヴェインの体がのけぞるが、リリーは気にしないで腕をよじ登り肩の上へと乗った。


「おいっ!なぜか肩に乗るんだ!気持ち悪い」


 肩に乗ったトカゲから距離を取るようにアルヴェインは顔をそらす。


「こっちの方が安定するからです。それに憧れのアルヴェイン様の肩に乗れる機会なんてないですからね」


「……図々しいな」


 トカゲを嫌がりながらもアルヴェインは何とか横目で見てくる。

 リリーはすました顔で頷いた。


「もう死んでいるんですし、自分に正直に生きることにしました」


 居直った様子のリリーの様子にアルヴェインは戸惑いながらも頷いた。


「なるほど」


 トカゲ姿のリリーに嫌がりながらアルヴェインは部屋を出た。

 廊下に出るとヒヤッとした冷気にリリーは身をすくめる。


「トカゲ姿だと寒さも感じやすいんですね」


 リリーの呟きを無視してアルヴェインが廊下を歩くと女中たちとすれ違った。

 すぐにアルヴェインの肩に乗っている大きなトカゲを見て悲鳴を上げる。


「アルヴェイン様、肩にトカゲが居ますよ!」


 トカゲから距離を取りながら言う女中にアルヴェインは眉をひそめて頷いた。


「……致し方なく飼っている」


 トカゲを嫌がるそぶりで言うアルヴェインに女中達は首を傾げた。


「ペットという事ですか?」


「……そうだ」


 不服そうに答えるアルヴェインに女中たちは顔を見合わせる。


(トカゲを可愛がっている様子が無いもの。そりゃペットと言われても信用しないわよね)


 アルヴェインはため息をついてトカゲをチラリと見た。


「俺は可愛いと思わないが、先祖の言い伝えで金のトカゲを大切にしろと言われている。致し方なく飼っているだけだ」


 無理やりな言い方のアルヴェインに女中たちは納得した様子だ。


「確かに、このお屋敷は不思議な言い伝えが沢山ありますもの。女中達にも金のトカゲはアルヴェイン様のペットだと伝えておきますね」


「そうですね。あの、この前トカゲに驚いてお盆で叩こうとしてしまいました、すいません」


 正直に謝る女中にアルヴェインは片手を上げた。


「気持ちはわかる。トカゲにしては大きすぎるから気持ち悪いだろう」


 同意を求めるように言われて女中たちは戸惑いながら愛想笑いをする。

 さすがにアルヴェインのペットだと言い張るトカゲを気持ち悪いと頷くことは出来ないようだ。

 女中たちはトカゲから距離を取ると頭を下げた。


「仕事がありますので失礼いたします。トカゲの事は伝えておきますので」


 去っていく女中にアルヴェインは舌打ちをする。


「トカゲを飼っている変人だと思われたぞ」


「仕方ないですよ。でも、ありがとうございます」


 自分がアルヴェインに認めらたような気がしてリリーは微笑んだ。

 歯をむき出して笑っているトカゲを見てアルヴェインは気持ち悪さが極まり軽く震える。


「笑っているつもりなのか?気持ち悪い」


「酷いです!」



 


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