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 ”リリー、フェリシア姫の侍女は大変だったでしょう。まだ寝ているの?”


 懐かしい母親の声が耳元で聞こえてリリーは眠りながらも口元が緩んだ。

 フェリシア姫の侍女になってから実家に帰ることが無かった。

 母親の声を聴いたのは何年ぶりだろうか。

 フェリシア姫の侍女を辞めて実家に帰って来たような気がする。

 リリーは寝ながら母親に話しかけた。

 

(お母さま。大変だったのよ、こき使われて挙句には殺されたのよ)


 夢うつつだったリリーは自分の今の状況を思い出してハッとした。


(そうだ、私は殺されたんだったわ)


 夢を見ていたことがわかり起きようとするが瞼が重くて持ち上がらない。

 何とか起きようと身動きをすると力強く揺すられた。

 何度か揺すられてリリーはハッキリと覚醒をする。


 ゆっくりと目を開くと無表情なアルヴェインが見下ろしていた。


「トカゲのくせに、うなされていたぞ」


 何度か瞬きをしてリリーは周りを見回す。

 アルヴェインの執務室にいつの間にか運ばれていたようだ。

 暖かい室内で用意された箱の中に置いてくれたようで、リリーは軽く伸びをした。

 宝石店の前でアルヴェインが回収に来るのを待っていたはずだ。

 きっとアルヴェインが回収してくれたのだろう。

 

「私、宝石店の前で寝ていませんでしたか?アルヴェイン様が運んでくれたのですか?」


 寒い雪の中で寝てしまったことを思い出してリリーが聞くとアルヴェインは不満そうな顔で頷いた。


「雪の中で死なれても気がかりだからな。たとえトカゲでも!」


「ありがとうございます。寒くて、寝てしまいました」


 トカゲ姿のリリーが頭を下げるとアルヴェインは顔を顰める。


「手袋をしていたから何とか触ることが出来たが、もう二度と俺に触らせるような状況を作るなよ。フェルナンが言うにはトカゲは低温に弱いようだから、あまり寒い所に居ないことだな」


 トカゲを触った時を思い出したのかアルヴェインは身震いをしている。


「そんなに嫌がらなくてもいいじゃないですか。そうだ、寒い中頑張って偵察に行って良かったですよ!大変です、アルヴェイン様!やっぱりフェリシア姫はこの城を乗っ取るつもりですよ」


 大きな声で言うリリーにアルヴェインは軽く頷く。


「それはもう聞いた」


「違うんですよ!フェリシア姫が愛人に当てた手紙が宝石店にありました。薬を入れて私を殺したことが書かれていたんです。侍女に飲ませた薬は効果があったから長髪男にも使いましょうってかいてありました!」


 リリーが言うと、アルヴェインの眉がピクリと動く。


「長髪男?まさかと思うが俺の事か?」


 アルヴェインの黒く長い髪の毛を見ながらリリーは頷く。


「そうですよ!長髪男なんてあだ名はアルヴェイン様しか考えられませんから。結婚式の後に私のように薬で殺す予定ですよ。その後に愛人と城に住むつもりですよ」


「なるほど。長髪男と呼ばれるとは俺も舐められたものだ」


「怒るのはそっちですか?」


 低い声を出すアルヴェインにリリーが言う。


「俺だって好きで伸ばしているわけではない。訳があってこの髪型なんだ、それを馬鹿にされるとは思わなかった」


「馬鹿にはしていないと思いますが、愛人と暮らすためにアルヴェイン様を殺そうとしているのもありえなくないですか?」


「確かにそれもあり得ないな。俺を殺そうなんて100年早いわ!それで、証拠の手紙は持って来たのか?」


 静かに怒っているアルヴェインはリリーを睨みつけた。


「持っているように見えますか?手紙が無くなっても不自然だろうし、トカゲ姿では持てませんでした」


「使えないトカゲだな」


「酷いですよ。こっちだって大変だったんですから」


 トカゲ姿のままムッとするリリーにアルヴェインはため息をついた。


「トカゲに期待した俺がバカだったか。フェリシア姫を追放しよう。俺の怒りを買っておいて、領地に置いておけるほど俺もお人よしではない」


「はい!私も成仏したいのでフェリシア姫の罪を暴いてほしいです!」


 リリーが頷くとアルヴェインも頷いた。


「初めて意見が一致したような気がするな。とりあえず、リリーはその姿を生かしてフェリシア姫から情報を集めてくれ」


「はい」


「俺を長髪男と呼んだフェリシア姫を後悔させてやる」


 アルヴェインは怒りを込めて握りこぶしを作っている。


(そんなに長い髪の毛が嫌なのかしら。素敵なのに)


 さらりとした黒く長い髪の毛のおかげで闇の王のような怪しい雰囲気を醸し出しているアルヴェインの姿を見上げる。

 切れ長な黒い瞳と目が合ってリリーはトカゲのくせに胸がときめいた。


(やっぱり私はアルヴェイン様が素敵だと思うわ)


「アルヴェイン様はフェリシア姫に気があるとかは無いんですか?」


 リリーが何となく聞くとアルヴェインに睨まれた。


「ある訳がない!王の命令で仕方なく引き取っただけだ!あの女が愛人と遊ぼうがどうでもよかったが、俺を殺そうとするならばもう放っておけん。手癖まで悪いんだからとんでもない女だ。俺が死んだあとあの女に領地を経営できると思うか?」


 怒りを込めて言うアルヴェインにリリーは首を振った。


「思いません。でも、フェリシア姫はとても可愛いから……。姫様も自分に惚れない男は居ないって言っていたぐらいですし」


「あほな男しか引っかからんだろう!金に目がくらんだ男だけだ!常識がある人間ならあんな女と関わらないだろう!フェリシア姫の歴代の恋人たちを思い出して見ろ、みんな阿保ばかりだろう」


 アルヴェインに言われてリリーはフェリシア姫が遊んでいた男性達を思い浮かべる。

 確かに遊びで付き合うにしても姫が付き合うような男達ではなかった。

 トカゲ姿のリリーが頷くのを見てアルヴェインは鼻を鳴らした。


「それ見ろ。あんな女を引き取ったのが間違いだったな。こんなことなら誰かと結婚しておくべきだったな」


 吐き捨てるように言うアルヴェインにリリーは首をかしげる。


「ご結婚したい相手が居たんですか?」


「居ないから未だに独り身なんだ!」


 怒鳴るように言われてリリーは首をすくめながらもフェリシア姫に少しも愛が無いのを確認して嬉しくなる。


「アルヴェイン様は素敵だからいくらでもご結婚相手がいたでしょう」


「こんな田舎に来る女性は居ない!何もない町、雪に閉ざされた寒い気候。それに加えて俺はほとんど砦に行っているから城を任せられる女性はなかなか居なかったんだ」


「……フェリシア姫には領地の経営は無理だと思いますけれど」


 湯水のようにお金を使うフェリシア姫を思い浮かべながらリリーが言うとアルヴェインは頷く。


「あの女に期待は微塵たりもしていない!王がフェリシア姫の侍女達がしっかりしているから経営を変わってやってくれるだろうと言ってたが……」


 アルヴェインに言われてリリーは目を細めた。


「私たちにやらせるつもりだったんですね。何となく理解できましたよ」


 ことあるごとにフェリシア姫の代りに仕事をしていた記憶がよみがえる。

 

(フェリシア姫にコキ使われて、その挙句に嫁入り先でもそれ以上に働かされるところだったのね)


 


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