12
城と町を繋ぐさ跳ね橋を超えてアルヴェインは馬を走らせて町へと降りて行く。
チラチラと雪が降る中、寒さに震えながらリリーはアルヴェインの胸ポケットから頭を出した。
かなりのスピードで町へ降りると、フェリシア姫が行っていた宝石店の前で止まる。
「ついたぞ」
「ありがとうございます。サラっと中に入って何か証拠を掴んでくるんで必ず回収してくださいね」
ポケットから出ながら言うリリーにアルヴェインは明らかにめんどくさそうな顔をする。
「わかった。1時間後にここを通るから居なかったら帰るからな。勝手に帰って来い」
「酷い!必ず回収してくださいね。寒さで死んでしまいます」
器用に宝石屋のドアに張り付いたトカゲを見てアルヴェンは鼻で笑った。
「もう死んでいるから大丈夫だろう」
「よくないです!」
トカゲ姿のリリーが抗議するのを横目で見てアルヴェインは騎士団の人たちと去っていってしまった。
「本当に回収してくれるか心配になってきたわ」
リリーは文句を言いながらも寒さで体が鈍くなってくる。
早く中に入ろうとドアの隙間にトカゲの体を入れた。
するりと部屋に入り宝石店の中を見回す。
一階は店舗になっており二階へと続く階段が奥にある。
店内は誰もおらず、薄暗い。
(今日はお休みのようね)
リリーは寒さを感じながらも二階へと上がり、フェリシア姫が前回愛人と過ごしていた奥の部屋へと向かう。
人が居ないのなら好都合だ。
室内は寒いが、動けなくなるほどではない。
一番奥の部屋へと向かいドアの隙間から中へと入る。
薄暗い室内はソファーと机が置かれておりリリーが想像していたよりも普通だった。
暖炉の前に毛皮が敷かれておりきっとフェリシア姫はここでくつろいでいたんだろうなと冷めた目で見ながらリリーは部屋を見回す。
「なにか、宝石を売っているような証拠があればいいんだけれど。なんせ、トカゲだから物を触るのも一苦労よね」
ため息をつきながらリリーは机の上に置かれている書類を見ようとよじ登った。
机の上には整頓された書類がまとめられて箱に入っていた。
リリーは器用にトカゲの爪を使って一枚づつ捲っていく。
どれもお客さんからの注文や発注などの書類ばかりだ。
「こんな所に証拠なんて無いわよね」
リリーが諦めかけたころ、フェリシア姫の文字が書かれた手紙を見つけて手を止める。
偶然紛れてしまったのだろう、見覚えのある便箋に書かれた文字はフェリシア姫の筆跡だ。
もっとよく見ようと書類の中に体を入れて背中に紙を乗せて書かれている内容を読み始めた。
「フェリシア姫はかなりこの愛人に入れ込んでいるわね」
愛するレニーとはじまり、冒頭はいかに彼を愛しているかということが書かれていた。
ただのラヴレターかと呆れながら読んでいたリリーの目が留まる。
「なに、これ。”長髪男と結婚した後は、すみやかにご退場を願いましょう。私たちの未来の為に。あのお城はわたしのものよ”……はぁ?それってアルヴェイン様を追い出すってこと?」
トカゲ姿のリリーは顔を顰めて怒りで大声を上げた。
「信じられない!私を殺しておいて、アルヴェイン様も追い出して城を乗っ取るつもりね!」
鼻の穴を大きくしてリリーは手紙の続きを読み進める。
「”侍女で試した結果、かなり効果があった例の薬。とても良かったので長髪男にも使いましょう。すべては結婚後に行う予定です。早くあなたと、過ごす日々が楽しみだわ”ってこれは殺すつもりでしょう!」
ワインに薬が入っていたのかと腹が立ってくる。
口から泡を吹いて倒れたのは毒のせいだったのだ。
「間違いなく私みたいに殺すつもりよ!」
リリーは怒りに震えながら手紙を持って帰ろうかと悩む。
「これを持って帰れば確かに私を殺したことも、アルヴェイン様を殺そうとしていることも証明できる気がするけれど、手紙が無くなったら怪しまれるわよね」
悩みながらもリリーは手紙を持って帰ることを諦めた。
手紙が無くなったことを不審に思われたらこれから先、いろいろ調べることが困難になるかもしれないとリリーは書類を戻す。
「まぁ、この姿では紙をどうやって持って帰ればいいか分からないわね」
ため息をつきながら他にも何かないかと探すが、さすがに外に出しているほど馬鹿ではないようだ。
「机の中も見たかったけれど無理ね」
時計を見るとアルヴェインが迎えに来ると言っていた1時間を過ぎていることに気付きリリーは慌てて部屋を飛び出す。
「ひぃぃ、アルヴェイン様に回収してもらわわないと困るのよ」
ドタバタと足音をさせながら宝石店の入口の隙間から外へと出る。
見つかりやすいように塀の上へと登って待つがアルヴェインが来る様子はない。
寒い風が吹きリリーは震えながら空を見上げる。
灰色の雲に覆われた空から大粒の雪が落ちてくるのを見上げて息を吐いた。
「寒いわね。この体だと寒さに弱そうだけれど、どうなっちゃうのかしら」
トカゲという未知の体に不安感を感じながらリリーは体を震わせる。
大きなトカゲが塀の上に乗っている様子を誰も気にすることなく、速足で通り過ぎていく。
馬車が通り過ぎるたびにリリーはため息をついた。
「なんでこんなことになっちゃったんだろう。フェリシア姫は許せないけれどこんな体になってしまうぐらいなら死んで蘇るなんてしたくなかったわよ」
簡単に死ねなかった自分を悔やみながらしょぼんと頭を下げた。
積もった雪が顎に当たりリリーは仕方なくそのまま寝そべる。
冷たい雪に全身を包まれて寒さと同時に眠くなってくる。
ウトウトしながら目を閉じた。
「アルヴェイン様、回収してくれるかしら」
呟きながらもリリーは本格的に眠くなってくる。
(駄目よ。寝たら本当にアルヴェイン様は私を置いて行くわ)
そう思いつつも瞼がおもくなり目をつぶった。




