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学園心霊ミステリー『幽子さんの謎解きレポート』  作者: しんいち
Report5 幽子の誕生

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九幕目 忍び寄る怪異

僕たちがやる演目は何かおかしい……。

そんな事に気が付いたのは学芸会の準備が始まり残り1ヶ月を切った頃だった。


最初の頃は、特に問題は感じなかった。配役が決まった後、各グループで細かな設定を話し合う時間があった。僕たちの演目「ワガママ姫」は、日本の昔話を基にした物語で、どこか懐かしい雰囲気が漂っていた。


しかし、日本の昔話の設定において、真っ先に浮かび上がるのは衣装の問題だった。全員が着物を着る必要があり、男子はちょんまげのカツラを被らなければならない。そうしなければ、物語の雰囲気が台無しになってしまう。


特に困ったのは、主人公のお姫様役だ。二人で同じ役を演じることになったため、同じ着物が必要になる。だが、果たして同じ着物を見つけることができるのだろうか?その疑問が、次第に僕たちの心を重くしていった。


「同じ着物が見つからなかったら、どうする?」と、仲間の一人が不安そうに呟いた。僕たちは顔を見合わせ、沈黙が流れた。やがて、誰かが口を開いた。「少し内容を改編してみるのはどうだろう?」その提案は、まるで暗闇の中に差し込む一筋の光のようだった。


そうして、僕たちは新たな方向性を模索し始めた。日本の昔話の枠を超え、自由な発想で物語を再構築することにした。


衣装の問題を解決するために、物語の舞台を異国の地に移すことも考えた。そうすれば、衣装も多様性を持たせることができるのでは?と言う意見が出て、僕たちはそれを採用して物語を再構築していった。


そして決まったのは、中世のヨーロッパ、あるいは異世界ファンタジーの舞台で、主人公の名は「アリス姫」。彼女の周りには、執事やメイドたちが仕え、華やかな物語が繰り広げられる。


そんな中、セイラが演じる「幽子」という役名は、そのまま残すことが決まった。多くの意見が集まり、セイラと「幽子」のイメージがぴったりだという声が上がったからだ。


セイラの見た目は、まさに「和風美人」で、彼女の美しさは、着物を纏った姿を想像させ、多くの女子たちから「セイラさんは絶対に着物の方が似合うよ」との推しが寄せられた。そんな彼女の役名が変わらないことに、皆が納得したのだ。


配役決めの際には「どうなってしまうのか?」と不安が広がっていたが、いざ始まってみると、和気あいあいとした雰囲気の中で準備が進んでいった。笑い声が響き、仲間たちとの絆が深まる中、台本が完成し、設定や小道具の準備も着実に進んでいく。


そして本番の1ヶ月前、劇の練習が本格的に始まると、何か異変が起こり始めた。最初は些細なことだった。グループに分かれて練習をしていると、突然教室の中に「ゴトン」と大きな音が響き渡り、クラス中が一斉に静まりかえった。


「えっ、なに?」、「何か落ちたんじゃない?」と不安が広がるが、確認しても特に変わった様子はなく、気を取り直して練習に戻った。しかし、その後も同じような現象が繰り返される。「ギィィィ」と椅子を引く音や、「ガタガタ!ガタガタ!」とまるで地震が起こったかのような音が教室を包み、時には「ガシャ」と机の上の物が落ちることもあった。


最初は誰も気に留めなかったが、次第にその頻度が増すにつれ、異変に気づく者も現れた。

「えっ!怖くない?」、「おかしくない?」と不安の声が上がる中、セイラだけはその現象に気を止めず、一人気合いを入れていた。


執念とは恐ろしいもので、セイラはすでに多くのセリフを丸暗記しており、台本を持たずに練習に臨んでいたのだ。彼女はかなり頭が良いのだが、ここまで凄いと感心する。


そんな彼女の前で、台本を持って棒読み状態の秀之に対して、「そんな短いセリフも覚えていないのかぁ!しっかりしたまえ。」と挑発する余裕すら見せていた。


顔を真っ赤にしながら言い返せない秀之を見て、セイラは満足そうにほくそ笑んでいた。

恐らくセイラはこれがやりたくて必死にセリフを覚えてきたのであろう。

その光景を見て、僕は「ほらっ!セイラを煽るなんて事するからだよ」と思いつつ、少し同情もしてしまった。


話はそれたが、教室の中で起こる異変は、このあとも続き、等々、怪我人まで出始めた。

怪我をしたのは主人公役の二人だった、しかも同じ日に。


貴子は塾の帰り道、自転車のブレーキが突然効かなくなり、無情にも壁に激突したそうだ。一方、めぐみは学校帰りに交通事故に遭ってしまった。幸い、二人とも軽傷で済んだが、その事実は瞬く間にクラス中に広がった。


「この劇、ヤバいんじゃないの?」

「辞めた方が良いんじゃないか…」


不安の声が教室の隅々に響き渡る。生徒たちの顔には緊張が走り、心の中で渦巻く恐れが表情に表れていた。しかし、その中で秀之たちは冷静さを保ち、「気のせいだよ。」と主張する者もいて、クラスは少しずつ混乱の色を深めていった。


温子先生は、怪我人が出てしまったことに驚きを隠せず、彼女は僕たちのグループに劇の変更を提案したが、貴子とめぐみはまるでその提案を耳にしていないかのように、頑なに拒んだ。

「もう時間がないし…」「別に大丈夫ですから、やります。」その言葉には、何か不気味な決意が感じられた。


周囲のメンバーも、あれだけ不安を口にしていたはずなのに、いつの間にか「大丈夫です。」と急に意見を変える者が現れた。まるで、何かに取り憑かれたかのように、彼らの心には不思議な力が働いているかのようだった。



不気味と言うなら、セイラの様子もまた、どこかおかしかった。劇の練習中、彼女はしばしばあらぬ方向を見つめ、真剣な表情を浮かべていた。

その視線は、まるで何かを威嚇するかのように鋭く、睨んでいるようだった。


教室で起こっている異変が気になり、何度かセイラに尋ねてみたが、彼女の返答は微妙だった。「ちょっと考え事をしてたんだ。」と、どこか誤魔化すような口調だったり、「偶然じゃないか!私は特に感じないぞ。」と、まるで他人事のように言ったり。彼女は本当に何も感じていないのか?、それとも何かを隠しているのか、真意を測りかねた。


さらに気になるのは、劇の練習が始まった直後にセイラから渡された「お守り」だった。

彼女は「この前、おばあちゃんと神社に行ってきて、その時に買ってきた。普段世話になっているからお礼だ。必ず身につけておいてくれ。」と言って、僕にその小さなお守りを手渡した。


その時は素直に喜び、「ホント!ありがとう。」と受け取ったが、今になってみると、やはり何かが引っかかる。


普段のセイラなら、「何で私が君にお土産を買って来なければならないんだ。」と不満を漏らすはずなのに、今回は何故か特別だった。


そもそも、このお守りには何のご利益があるのだろうか。普通なら「交通安全」や「厄除け」といった文字が書かれているはずなのに、何も記されていない。


まさか、この事を見越して月静おばちゃんに作ってもらったのか?だからこそ「必ず身につけろ」と言ったのではないか?そんな恐ろしい想像が頭をよぎる。


「アハハハ、考えすぎ!考えすぎ!」と自分に言い聞かせながら、お守りをギュッと握りしめ、背中に冷や汗が流れていった。


そして学芸会までのカウントダウンが始まったある朝、僕はいつも通りセイラの家に迎えに行った。玄関のドアを無用心に開け、「おはよう!」と元気よく挨拶しようとした瞬間、リビングから月静さんが顔を出した。彼女は人差し指を鼻に当て、「シーーィ」と静かにするように促し、反対の手で手招きをしてきた。


「なんだろう?」と不思議に思いながら、月静さんの態度に引き寄せられるように、忍び足でリビングに入っていった。そこには、月静さんが待っていた。彼女は小声で「しんいちに頼み事があるんだけど」と言ってきた。


僕は小声で「頼み事ってなんですか?」と尋ねてみると月静さんは、「今度あんた達の学校で学芸会があるんでしょ?セイラ、毎日自分の部屋でセリフの練習をしていて、頑張っているみたいなの。」


「へえー」と相づちを打つと、月静さんはさらに話を続けた。「それで、私が応援しに行くよって言ったら、あの子『恥ずかしいから来なくていいよ!』って言って、学芸会の日にちを教えてくれないの。」


僕は小声で「それなら直接学校に聞けば分かるんじゃないんですか?」と提案した。すると月静さんは首を振り、「いやいや、後でそのことが分かるとあの子のことだから、きっと怒るだろうから、学芸会のことはしんいちから聞いたことにしてほしいの。私は聞いてないのに、しんいちが勝手に教えてくれたみたいに。」


その言葉に、僕は少し悩んだ。月静さんの気持ちも分かる。セイラが頑張って劇の練習をしている姿は、確かに珍しい光景だ。そんな孫娘の晴れ姿を見たい気持ちも理解できる。しかし、僕が教えたことになったら、後で僕がセイラに怒られないだろうか?


「うーん」と唸っていると、月静さんは次の一手を打ってきた。「大丈夫!絶対にしんいちに迷惑かけないようにするから。それに、タダとは言わないよ。欲しい物があれば買ってあげるから。」


その言葉に、「欲しい物かぁ、流石に高額の物はあれだから、千円くらいの物なら……」と、すでに買収されている自分に気づいた。


僕は快く日にちと時間を暴露……、いやいや、細かく教えて上げ、月静さんの計画に賛同して話は終わった。


そして学芸会の当日、いよいよあの事件が勃発することになる……。

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