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学園心霊ミステリー『幽子さんの謎解きレポート』  作者: しんいち
Report5 幽子の誕生

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三幕目 星空の過去

「当時の私は霊感というものがどういうものか、全く分かってなかったんだ。」と、いよいよセイラは転校してくる事となった理由(わけ)を語り始めた。


霊感のスイッチを入れてしまった彼女は、様々な「モノ」が見えるようになったと言った。それは小さな子供にとって、決して楽しいものではなく、一言で言えば、それは「お化け」と呼ばれる恐ろしい存在だった。


最初、誰も彼女の言葉を信じなかっそうだ。友達は「嘘つき!」と彼女を非難し、セイラは孤独に苛まれるようになっていった。彼女の両親も、友人を亡くしたショックからくるものだと考え、病院に連れて行ったりもした。しかし、医者の診断は何も解決しなかったのだ。セイラの両親は、藁にもすがる思いで、セイラの母方の祖母である月静さんに相談することになった。


月静さんは、セイラの様子を見て深いため息をついたという。「この子は無茶したねぇ…」と、彼女は頭を抱えたそうだ。その言葉は、セイラの霊感のスイッチが壊れてしまったことを示していた。無理にそのスイッチを押してしまったため、元に戻すにはかなりの時間がかかるという話だった。


月静さんは、取りあえずセイラに数珠を手渡し、「必ず持っていてね」と優しく伝えてきた。しかし、彼女が渡した数珠は、セイラにとっては気休め程度の効果しかなかっみたいだった。


実際、セイラは強い「霊力」を持っているらしい。オカルトの話でよく聞かれる隔世遺伝というもので、月静さんの力を強く引き継いでいるとのことだった。確かに、友達に会いたいという強い気持ちがあったとはいえ、まだ小さな子供が無理に霊感のスイッチを押すことができたのだ。彼女の力のほどは、当時の僕でもよく理解できた。


そのためか、セイラが小学校に入学してからも、彼女はしばしば「お化け」という存在に気づき、見続けていくことになる。取り憑かれることも何度かあったらしく、そのたびに月静さんの元へ行き、お祓いを受けていたらしい。


両親は「友達が怖がるから、霊感のことや幽霊のことは喋ってはダメよ」と言っていたが、当時のセイラにとっては「なんで?」という気持ちが強かったとの事だ。


「危ないから教えてあげてるのに。」、「聞かれたから教えているのに。」と、彼女は親切心から素直に教えているだけなのに、周囲の反応に戸惑いを感じていたという。彼女の心の中には、理解されないもどかしさが渦巻いていたはずだ。


セイラは、小学生になってからというもの、友達と呼べる存在は誰一人としていなくなってしまった。気味が悪い事をいう彼女の元には誰も近づ来たがらなかった。


まれに、彼女の特異な能力について耳にした者たちが、興味本位で近づいてくることもあったが、それも長続きはしなかった。彼らはすぐに気味悪がり、セイラから離れていったのだ。


そんな事が続き次第に、セイラは一人でいることに慣れてしまった。周囲の人々に対する失望や諦め、そして疑念が心の中に芽生え、彼女は極力人との関わりを避けるようになり、言葉を交わすことも少なくなっていった。おそらく、この時の彼女の気持ちが、現在の彼女が人を寄せ付けないオーラを放つ原型となっていたのだろう。


そして、セイラが小学2年生になった時、ついに事件が起こることとなる。


当時、彼女のクラスの担任の先生は「赤井 美子(あかい よしこ)」という名の若い新米教師だった。初めて受け持つクラスに対して、彼女はまだ不慣れで、生徒たちからからかわれることも多かったが、その初々しい対応は可愛らしく、生徒たちからも人気があった。

そして、セイラ以外の生徒たちには優しい先生だったそうだ。


セイラの耳に入った話によれば、この赤井先生はオカルトや心霊系の話が全くダメな人だったのだ。小学2年生が話すような怖い話でも、耳をふさいで「やめて!」と叫ぶほどの恐怖症に近い状態だったという。


おそらく、誰かがセイラの霊感について話をしていたのだろう。赤井先生は一応は、セイラに対しても笑顔で優しく接していたが、その笑顔は明らかに「作り笑顔」で、少しひきつっているようにも見えたそうだ。セイラもそのことに気づいていたため、彼女とは距離を置くことにしていたとの事だった。


そして、3学期が始まったばかりの頃、その日の赤井先生の様子がいつもと違っていた。彼女の表情は暗く影を落としているようで、少しオドオドしている様子が見て取れそうだ。


その異変に気付いた生徒たちが、休み時間に赤井先生に理由を尋ねたという。セイラはその場にいなかったため、詳しい話は聞いていなかったが、耳に入ってきた情報によれば、赤井先生は前日の夜に恐ろしい体験をしたらしい。金縛りにあったのか、あるいはラップ音を聞いたのか、彼女はその後、一睡もできなかったという。


その話がクラス中に広まった授業中、クラスの男の子がイタズラを思いついたのだろう。静まり返った教室に突然「ガシャン!」と筆箱を落とし、「触ってないのに落ちた!」と騒ぎ始めた。


いつもなら、すぐにイタズラだと見抜き、「もう✕✕くん、ダメでしょ」と一喝するところだっただろう。しかし、その日の赤井先生は違っていた。前日の出来事が頭を過ったのか、彼女は「キャー!」と叫び、頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。


さらに、クラスの誰かが「え!何か変な声聞こえない?」と口にした瞬間、教室はパニックに陥った。イタズラのつもりで言ったのか、ただの空耳だったのかは分からないが、その一言でクラス中が恐怖に包まれた。「キャー」、「やめて―」、「こわい!こわい!」と叫ぶ声が響く中、「まだ聞こえる!」とその場を煽るような絶叫も混ざっていたと言う。


そんな中、セイラは一人冷静にその様子を傍観していた。彼女には何も聞こえず、筆箱の件もいつものイタズラだとすぐに理解していたため、周囲がなぜパニックになっているのか不思議でならなかったそうだ。


その時だった。


冷静にその様子を見ていたセイラに、違和感を覚えた生徒の一人がセイラに向かって叫んだ。


「セイラ、お前が何かやったんだろ!」


セイラが霊感があることはクラス中の周知事実であった。叫んだ生徒もその事を思い出し思わず言った一言であろうが、その一言でクラス中の敵意が一斉にセイラに向けられることになった。彼女はただの傍観者であったはずなのに、いつの間にか恐怖の中心に立たされてしまったのだった。


集団心理というものであろう、教室の中の、セイラに向けられた敵意の視線は、まるで彼女を取り囲む炎のように迫ってきた。流石のセイラも、その瞬間、恐怖に震えたそうだ。


そんな時突然、赤井先生が立ち上がり、涙を流しながらセイラを睨みつけ、「もぉう、こんな子イヤッ!」と、ヒステリックな声が教室に響き渡った。授業中にもかかわらず、彼女はその場から逃げ出してしまったとの事だった


その後の事は、僕でも想像がついた。恐怖の状況は一変し、先生を慕う生徒たちの非難の声が、セイラに向けられる事となった。


「ひどい!」「いい加減にしろよな!」「先生かわいそうでしょ!」と、彼女への攻撃が止むことはなかった。


そして、セイラはその場にいられなくなり、ランドセルを持って帰ってしまったとの事だった。


「悔しいとか腹立たしいとか、そんな感情はなかったな。ただ、こんな奴等もうどうでもいい、という諦めに似た感情が湧いてきたよ。」と、セイラは淡々と語っていた。


その言葉を聞いた時、僕は涙がこぼれそうになっていた。セイラに同情したのではない。むしろ、怒りに似た感情が心の中で渦巻き、同時に悔しさが押し寄せてきたのだ。


手をギュウと握り涙をこらえながら、僕は彼女に尋ねた。「その後はどうなったの?」その言葉には、決して興味本位の気持ちはなかった。少しでもセイラが救われた内容を聞きたかったからだ。しかし、彼女から返ってきた話は、僕の期待とはかけ離れたものだった。



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