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学園心霊ミステリー『幽子さんの謎解きレポート』  作者: しんいち
Report5 幽子の誕生

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一幕目 星空との出会い

Report5は全18話になります。

『幽子』こと『佐々木 星空』が何故幽子と呼ばれるようになったのか?

お楽しみください。

自分には少し変わった友人がいる。彼女の名前は幽子、もちろんあだ名だ。


友人たちは、自分が彼女のことを「幽子」と呼ぶのを聞いて、彼女の本名が「幽子」だと勘違いすることもある。しかし、彼女の本名は「佐々木 星空(セイラ)」という、可愛らしい名前だ。

だが、幽子自身はこの名前をとても嫌がっている。


今回は、彼女のあだ名「幽子」の誕生の話をしたいと思う。


高校生になってから、幽子のあだ名についてよく聞かれるようになった。部活の仲間や、彼女の友人である星野さんからも、「どうして幽子ちゃんは『幽子』って呼ばれているの?『星空(セイラ)』も可愛いのに。」と尋ねられることが多い。


自分はその都度、名前にまつわるエピソードを話してあげている。特に幽子から口止めもされていないので、気軽に話すことができた。


聞いたみんなは口々に「幽子さんらしいね!」とか、「幽子ちゃんぽくて面白い。」と笑っているが、実は幽子のあだ名に関するエピソードはそれほど面白い話ではない。当時の関係者からすると、むしろ少し怖いエピソードだと思うのだが……。


せっかくの機会なので、幽子の過去……、まだ彼女が「星空(セイラ)」と呼ばれていた頃の話を少ししたいと思う。


セイラとの出会いは、今でも鮮明に思い出せる。僕が小学3年生になったばかりの4月、僕が通う合気道の道場でのことだった。近所のおばあちゃん、後に月静さんと呼ぶことになるその人に連れられて、セイラは道場にやってきた。


始めて会った彼女の第一印象は、長い髪の毛が印象的で可愛く、綺麗な子だなぁと思った。


しかし、同時に悪い意味で「人形みたいだな。」とも思っていたのだった。その表情の無さに少し怖さを感じ、挨拶をしても返事がなく、まるで自分の存在を無視されているような気がした。


ただ、道場の先生や月静さんから「引っ越してきたばかりで友達もいないし、大人しい子だから仲良くしてあげてね。」と言われ、さらに両親と一緒に住んでないことが分かり、てっきり「両親が亡くなったのかな?」と勘違いしてしまい、「自分が友達になってあげよう!」と心に決め、彼女に話しかけることにした。


後になって知ったことだが、セイラの両親はもちろん生きており、現在も健在である。


彼女が喋るようになるまでには、少しばかり時間がかかった。学校での出来事や、最近流行っている漫画やアニメの話をするうちに、少しずつ彼女の心を開いていった。


道場では、僕が一年先輩だったため、受け身のやり方や簡単な技を教えたり、乱取りを一緒にやったりもしていた。独り言のように彼女に話しかける日々が続いていったのだ。


そんなある日、セイラが僕に彼女が持つ「霊感」の事を告白してきたのだった。道場の帰り道、彼女は突然「実は私と……」と話を切り出してきた。


彼女が霊感を持っていると告白した瞬間、僕は心の底から歓喜した事を今でも覚えている。


当時の僕にはオカルト的な話をできる友人がいなかったからだ。「怖いから嫌だ!」と言う友人も多く、オカルトを信じない、あるいは馬鹿にするようなことを言う人も多かった。


テレビの影響もあったのだろう。オカルト特番では、肯定派と否定派が論争を繰り広げ、否定派の頭の良い芸人や学者が肯定派を論破する様子が人気だった。その番組が終わった後には、「やっぱりオカルトなんてヤラセだよね!」といった声が聞こえ、自分は肩身を狭く感じていた。


そんな時に、目の前に霊感を持つ人が現れたのだ。まるでマーベル映画に出てくる特殊能力を持つヒーローのように思えた。心の中から「絶対に友達になりたい!」という強い思いが湧き上がった。


その日から、僕はセイラにオカルトの話を次々と聞きまくっていた。「幽霊ってどんな風に見えるの?」と始まり、続けて、「学校にも幽霊いるの?」、「町のどこら辺に幽霊見えるの?」と次々と彼女に質問を投げかけた。

今まで話しが出来なかったうっぷんを晴らすように本当にいろいろな話をしたと思う。


しかし、セイラからしたら僕の反応は予想外だったとの事だった。彼女は僕の態度に驚き、戸惑っていたらしい。人間嫌いの彼女にとって、霊感の話をすれば、いつものように気味悪がって離れていくと思っていたのだ。ところが、僕がグイグイと迫るものだから、彼女は「しまった!」と思ったそうだった。


後から聞いた話によれば、僕のオカルトへの熱意があまりにも強すぎて、セイラは少し怖がっていたという。学校で僕を見つけると、隠れて逃げてしまうこともあったらしい。まるでストーカーのように扱われていたことを知り、僕はショックを受けつつも、自分の行動を反省したこともあった。


その頃から、セイラは半ば諦めたように僕の話を聞き、よく喋るようになってきた。勘違いする人も多いが、彼女は決して喋るのが嫌いなわけではなく、慣れてしまえば意外と饒舌になるのだ。実際、この頃になるとセイラは頻繁に僕の家に遊びに来るようになっていた。その目的は、僕に合うためではなく、僕の母と話すためだった。


うちの母は少し変わっている。


初めてセイラを家に招待したとき、母は目を輝かせて「やだ!しんいち、彼女でも出来たの?」と聞いてきた。まだ小学校3年生の僕に対してだ。


僕が、同じ道場に通っていることや、月静さんの孫だと教えると、母は「へぇ~、月静さんのお孫さん!」と興味津々で、セイラに話しかけ始めた。


セイラは最初こそ戸惑っていたが、どうも変わり者同士、すぐに意気投合したようだった。

母はまるで娘が出来たかのように、セイラを可愛がり始めた。彼女たちの会話はいつも楽しそうで、僕もその様子を見ているのが心地よかった。


その頃から、セイラは僕の家に来ては母とおしゃべりをし、夕飯を一緒に食べて帰るようになっていく。いつの間にか、うちにはセイラ専用の茶碗と箸、湯飲みが存在するようになってもいた。まるで彼女が家族の一員であるかのように、母はセイラを温かく迎え入れていたのだった。


そういえば、セイラとはその年の夏に家族でキャンプにも行った事があった。母が「セイラちゃんも誘ってみたら。」と言って僕が彼女を誘ってみるとセイラは「めんどくさい。」と言いつつも、けっこう楽しそうにしていたと思う。


その後の彼女は今の幽子と変わらなくなってきていた。家に帰って部屋を開けると「おう!」と挨拶をしながら部屋の漫画を読んでいる事も度々あり、いつの間にか彼女が勝手に家にいる事が僕に取って普通の日常へと変わっていったのだった。


そして、セイラと出会って1年程経った頃だったと思う。彼女が転校してきた理由を知った。

彼女は昔いじめられていたと言う事実と共に……。





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