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学園心霊ミステリー『幽子さんの謎解きレポート』  作者: しんいち
Report4 契約の箱

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最終話 カドワラ

病院に行ってからの、その後の話になる。


自分たちが病院に行っている間に、作業は無事に終わり、入れ違いで訪れた鑑定士もその成果を見ていったという。


部員たちの話によれば、蔵の中からは思いもよらぬ高価な品々が見つかり、まるで某鑑定番組の生放送を見ているかのような盛り上がりを見せていた。


その中でも特に目を引いたのは、自分が見つけた「村雨」と名付けられた刀だった。鑑定士はその刀を手に取り、首をかしげながら「これはかなりの名刀ではないか?」と呟いた。


しかし、調査の結果、「村雨」という名の刀は存在しないことが判明し、偽物ではないかという見解が示された。とはいえ、鑑定士は「ぜひ、売って欲しい」と熱心に頼み込んできたが、関口さんのお父さんはその申し出を断ったそうだ。


そして蔵の取り壊しは、一時中止となった。静馬さんが話していた通りだった。後日、幽子の祖母である月静さんの紹介で、「鷹沢」と名乗る神父が連絡を寄せてきた。彼は教会と箱を見に来ると言ってきた。


鷹沢さんは状況を確認し、「この箱は私の方では……、また後日の伺います」と言い残し、帰っていった。


そして数日後、今度は三人の外国人神父を連れて鷹沢さんが再びやって来た。そしてようやくあの箱を処分することができた。

しかし、持ち去る際には「なぜこの箱がここにあるのか?」、「教会は誰が作ったものなのか?」、「先祖の方は何をされていたのか?」と、次々と根掘り葉掘り質問を浴びせられたとの事だった。


そして現在、いろいろな事があったが無事に蔵の解体は進んでいるとの話を関口さんから聞くことになった。


そして自分だが、次の日、全身の痛みに襲われ、動くことすらままならなかった。


アドレナリンが出ていたのか、あるいは緊張のせいなのか、次の日になると痛みはまるで体がバラバラになってしまうかのようだった。


悶絶しながら、母に訴えたが、彼女は「大丈夫よ!生きてるし。それに病院に行ったところで、レントゲンを撮って診察されるだけで、治るわけじゃないでしょ」と言い放ち、自分を放っておいた。


その苦しみの最中、幽子が漫画を借りに家に来た。自分の痛みを知る由もなく、彼女は「アハハハ」と笑いながら、「これ借りてくぞ。」とだけ告げて去っていった。


疎外感に襲われながらも、自分は心の中で「俺は不死身の杉本、俺は不死身の杉本、俺は不死身の杉本だ!」と念仏を唱え、必死に耐え続けた。


ようやく助けが訪れたのは、幽子からの話を受けて、椿ちゃんが心配そうに見舞いにやって来てくれた時だった。


彼女のか細い声が耳に残る。「し、しんいちくん、だ、大丈夫?」その瞬間、彼女の存在から放たれる優しさに包まれ、まるで天上からの光が差し込むかのような後光が彼女を照らして見えた。思わず胸が熱くなり、涙がこぼれそうになるのを必死にこらえていた。



彼女が帰った後、幾分痛みが引いていた自分は、ベッドに横たわりながら思索にふけっていた。頭の中を巡っていたのは、あの箱を持ち込んだとされる宣教師のことだった。


彼らが本当にその箱を日本に持ち込んだのだとしたら、いったい何の目的があったのだろう? 幽子が言っていたように、あの箱の呪いがフランス革命後のフランスを悲惨な状況に陥れたのなら、宣教師たちもまた、この日本を同じように混乱に巻き込もうとしていたのではないか。


思い返せば、あのお屋敷が建てられたのは大正時代だと聞いた。大正時代といえば、関東で起こった大災害もその頃だった。日本はその後、軍国主義の時代に突入し、度重なる戦争で焼け野原となり、そして二つの大きな爆弾が落とされた。まるで、箱の呪いが発動したかのように…。


悪魔信仰をしていたからという理由だけでは、あまりにも単純すぎる気がした。もしかすると、都市伝説の世界で語られる秘密結社が関与しているのではないかと、考えが膨らんでいく。


そんなことを思いながら、ふと笑いが込み上げてきた。「考えすぎかな……」と、自分自身のオカルトマニアぶりに少し反省しつつ、再び思考の海に沈んでいった。


次の日になり、母さんから「しんいち、昨日来たあの可愛いお嬢さんは誰なの?彼女なの?」と聞かれた事は言うまでもない。


母さんには同じ部活の人と言うことと、蔵での出来事を話、恐らく心配で来てくれたのであろうと告げると、「そうよねぇ。あんな可愛い子しんいちには勿体ないもの。」と言っていた。

自分にはどんな人がお似合いなのか聞いて見たかったが、椿ちゃんを「彼女」と思われた事は悪い気はしなかった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


自分はそんな事を思い出しながら「カドワラ」の開店を待っていた。心の中には、過去の思い出がふわりと浮かんでは消えていく。十分後、看板が「OPEN」に変わり、自分たちは期待に胸を膨らませながら店内に足を踏み入れた。


店内は、ラーメン屋とは思えないほどお洒落で、白を基調とした店内はまるでカフェのようだった。柔らかな光が差し込み、心地よい空間が広がっている。厨房の奥には、人気YouTuberのオカルトラジオの木村さんがいた。「うわっ!本物だぁ」と心の中で叫びながら、自分と幽子はカウンター席に腰を下ろした。


オープンしたばかりの店内は、木村さんがまだあわただしく準備している。生配信で見たことのある彼の姿は、カッコ良く優しそうで、まるで画面から飛び出してきたかのようだった。自分は、何をどう声を掛けようかと考えながら、心臓が早鐘のように打ち鳴っていた。


幽子も注文を決めたようで、自分が代表して声を掛けることにした。「肉塩ラーメン2つと唐揚げも2つで」と少し緊張しながら注文すると、木村さんは元気な声で「ありがとうございます」と返してくれた。その瞬間、内心で「うぁ!木村さんと喋っちゃった!」と飛び上がりたい気持ちになった。


幽子は、子供のようにラーメンが来るのを待ちわびていた。いつもなら突っ込みを入れるところだが、今の自分にはその余裕がなかった。ラーメンが出来たタイミングで、オカメンであることを伝えようと、それだけで頭がいっぱいだった。


しばらくすると、木村さんが「肉塩ラーメンお待ちどおさま。」と声をかけながら、ラーメンを手渡してくれた。澄んだスープに柔らかそうな肉と大根が浮かんでいる。見た目にも美味しそうなラーメンに、思わず目が輝いた。


一口食べてみると、澄んだスープなのにコクがあり、驚くほど美味しい塩ラーメンだった。「うわっ!うまッ」と心の中で唸ってしまう。浮いている大根を口に運ぶと、味がしっかり染み込んでいて、ラーメンとの相性は抜群だった。


そして自分は、木村さんに話しかけるために、一呼吸おいて「あのぉ……」と声をかけた。木村さんは「はい!」と明るい声で振り向き、こちらを見てくれた。


「オカルトラジオ見てます。」


と緊張しながら伝えると、木村さんは照れくさそうに「あっ!ありがとうございます。」と返し、カウンターから出てきた。


彼は棚から何かを取り出し、「これどうぞ!」と言ってオカルトラジオのステッカーをプレゼントしてくれたのだ。その瞬間、心の中で「え!マジ、オカラジのステッカーじゃん。」と驚きと喜びが溢れた。思わぬプレゼントに、思わず笑顔がこぼれる。


カウンターに戻った木村さんに、さらに「この前はありがとうございました。」と告げると、木村さんは何だろうという顔でこちらを見返してきた。自分は少し緊張しながらも、「この前採用して貰った『悪魔の箱』を書いた者なんですが……」と話を続ける。すると木村さんは「あーーぁ!いや、こちらこそ良い話ありがとうございます。」と丁寧に返してくれた。


その後、彼は「もしかして隣にいる彼女ってあの話に出てきた『幽子さん』ですか?」と尋ねてきたので、自分は「あぁ!はい。」と頷き、幽子を紹介した。


幽子は唐揚げを頬張りながら「ん?」と木村さんを見つめていた。木村さんは笑顔を浮かべ、「お話通り面白い子だねぇ!」と自分に話しかけてきた。


自分もつられて笑顔を浮かべ、「面白いですよ。」と答えた。肉塩ラーメンを食べながら、その後も少し木村さんと会話を楽しんでいると。木村さんが「ラーメン美味しいですか?」と自分たちに尋ねてきた。


自分は「めっちゃ、美味しいです。」と心の中の素直な感想がそのまま口から出てきた。


幽子の方はチュルチュルとラーメンを満足そうにすすりながら食べていた。その感想は……、まぁ!聞くまでもなかった。














追伸


そして、これは幽子と愛知県から帰ってきた後の不気味な出来事の話である。関口さんから、箱のその後や蔵の解体がようやく決まったことを聞いた時、彼は二つの箱を手渡してきた。


一つ目は、某鑑定番組に出てきそうな古びた湯飲みだった。静馬さんからの「怪我までして頑張ってくれたお礼」とのことだが、売ればそこそこの値段になるとの事だ。


そしてもう一つの箱……。見覚えがある。


御札がビッチリと張られたその箱は、あの時に見た箱なのでは?関口さんは「幽子くんが君が欲しがっていたから上げて欲しいと頼まれてね。しんいちもオカルトマニアと言うのか…、物好きだねぇ」と、少し顔をひきつらせながら渡してきた。


自分はすぐに幽子いたずらだと思い、すぐに彼女に文句を言いに行った。しかし、幽子はとぼける様子も無く冷静に言い放った。「私がそんなこと言う訳ないだろ。だいたい部長のヤツとはそれほど親しくもないしな。君、『アレ』に一目惚れでもされたんじゃないのか?かわいい人形だ、大事にしてやれ。」


その言葉を聞いた瞬間、背筋に冷たい汗が流れ落ち、全身の血の気が引いていくのを感じた。そんな自分をよそに、幽子は「それより聞いてくれ、昨日私の元に刀が届いてな。叔父さんが綺麗に修理してくれたみたいなんだ!今度……」と、幽子は楽しそうに話し続けているが、恐怖で固まっている自分の耳には届かなかった。


現在、湯飲みは自分の愛用の品となったが、御札が張られた箱は……、その恐怖から未だに開けることができずにいる。夜な夜な箱からカタカタと音がするが「気のせい!気のせい!」と思い、過ごしている。



エピソード完読ありがとうございます。

もしよろしければ、感想、評価等よろしくお願いいたします。


新しいエピソードまでしばしお待ちください。

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