十八箱目 考察
二階からは、ミス研のメンバーたちが自分たちを探す声が聞こえてきた。自分は居場所を知らせようと、屋根裏部屋の入り口に向かおうとしたが、「痛っ」と身体の痛みが走り、一瞬動けなくなってしまった。
その様子を見た椿ちゃんは、心配そうに、「しんいちくん、そこにいて。わ、私、行ってくるから。」と、優しく声をかけてくれて入り口まで歩き出した。
自分は思わず「ゴメン、ありがとう!」と彼女の背中を見送り再び腰をおろした。
そんな中、関口さんは「う~ん」と唸り声を上げながら未だに起き上がれず、幽子は「おい死ぬな!」「起きろーお」と焦りの声が部屋中に響いていた。
自分はその様子を見ながら「ありゃ重症だな……」と苦笑いを浮かべたあと、目の前にある十字架を眺めながら、考えにふけっる事にした。
屋根裏部屋に足を踏み入れた時から、心の中に疑問が渦巻いた。「この部屋はいったい何なんだろう。」隠されるように置かれた教会。最初に浮かんだのは「隠れキリシタン」というワードだったが、自分はすぐにその考えを否定した。
このお屋敷は大正時代に建てられたと聞いている。おそらく、この蔵もその時期に造られたものだろう。あの時代には、キリスト教が再び日本に入ってきていたはずだ。だから、隠れキリシタンの可能性は薄いと考えた。
ふと、噂に聞いた「宣教師が使っていた」という話が頭をよぎる。この建物も、その時に建てられたのではないかと、自分は思索を巡らせた。
確かに、蔵としては少し異様な印象を受ける。奥行きがあり、まるで玄関のような入り口が存在し、十字架やステンドグラスが飾られている。これらのことから、教会として建てられたのではないかと直感した。
十字架の大きさを考えると、後から屋根裏部屋に運び込まれたとは考えにくい。入り口が狭すぎるのだ。この建物が造られた時に、すでにそこにあったものだと考える方が自然だ。
では、なぜ屋根裏部屋に隠すように置かれていたのか?宣教師が教会として建てたのなら、堂々とそのままにしておけばよいではないか。心の中で、疑問がせめぎ合う。
その時、自分の視線はロザリオで巻かれた箱に移った。おそらく、宣教師が持ち込んだものであろう。だが、なぜあんな物を日本に持ち込んだのか?なぜ、あの箱を十字架の前に置いて崇拝するように配置していたのか?考えが次々と浮かんでは消えていく。
その中で、一つの考えが頭をよぎった。「悪魔崇拝なのか?」オカルトを調べていく中で、そんな話を耳にしたことがあった。
宣教師の振りをして悪魔崇拝すると言う事は考えられるが、この辺の事は椿ちゃんが詳しそうだからあとで詳しく聞いてみるか?と思った。
それとやはり気になるのは、この屋根裏部屋に置かれた照明についてだ。最近の物ではないにしろ比較的新しい設備に、電気が点くことを考えると関口さんのおじいさんが着けたことは間違いない。
彼はいつからこの教会の事を知っていたのか?たまたま見つけた可能性もあるがそれならば息子の静馬さんや、関口さんのお父さんに話していても良いはずだ。でも二人はこの教会については自分たちに語ってはいなかった。
もしかしたら宣教師、さらに悪魔崇拝と関係してるのか?とつい、点と線を無理矢理繋げたくなってしまう。
自分は上手く考えがまとまらず、モヤモヤしてるとふと脳裏に、いつも聞いているYouTuberの「オカルトラジオ」さんの事を考えていた。
「いつもすごいオカルト考察をする彼らなら何か分かるかも知れないなぁ?今度この話をまとめて投稿でもしてみるかぁ」と考えていると、突然、入り口付近から懐中電灯の明かりが自分に照された。
「しんいち!大丈夫かぁ?」と、自分を照らしてきたのは同じ一年生の啓介だった。懐中電灯の眩しさに片手で光を遮りながら、聞き覚えのある声にすぐに啓介だと気づいた。
「まぁ、何とか」と返事をするが、啓介の興味はすぐに周囲の教会に移っていった。「うぁ!すげ~。本当に教会じゃん!」と興奮気味に屋根裏部屋に上がってくる。すると、さらに入り口から三年の先輩が、モグラのように顔を出してきた。
先輩も啓介と同様に、「おーぉ!しんいち大丈夫か?」と心配そうに声をかけてくれるが、すぐに「すげ~!何これ?」と、またもや教会の方へと興味が移っていった。
「あの~、自分、死にそうなんだけど!」と思いながらも、その後も同様のやり取りが二回ほど続き、やっと自分は助けてもらえることになった。
啓介が「椿ちゃんから軽く話聞いたけど、本当に何があったの?それにこれ何?」と矢継ぎ早に質問を投げかけてくる。自分は啓介と先輩に、先ほど起こったことを簡潔に説明した。話を聞いた啓介と先輩は、床に転がる箱を見つめ、少し顔色が変わっていった。
先輩は「あ、あれ開けない方が良いんだな。啓介!あの箱ちょっと回収しておいて」と指示を飛ばすが、啓介は「え~ぇ!」と不満そうな顔をしながらも、恐る恐る回収しに行った。
他の二人の先輩たちは、関口さんと幽子のところに向かい、「部長!大丈夫ですか?」や「おい!関口、大丈夫かぁ!」という声が響いていて介抱されていた。
自分は先輩に「そういえば、椿ちゃんはどこに行ったんですか?」と尋ねると、先輩は少し考えてから、「今、下に行っておじさんたちに説明してるんじゃないかなぁ。多分もうすぐ来ると思うよ」と答えた。
その言葉に少し安心したが、すぐに先輩は「それよりもしんいち、大丈夫?ちょっと服脱いで怪我見せてみな、骨折れてるんじゃないの?」と、自分の不安を煽るようなことを言ってきた。
心臓がドキリとする。自分はTシャツを脱ぎ、背中の怪我を見せると、先輩は「うわーぁ」と悲痛な声を上げ、顔を歪めた。「あ~ぁ、だ、大丈夫じゃないかなぁ」と、ひきつった笑顔を浮かべながら言った。
思わず「安心させるなら、もう少しちゃんとやってくれ」と心の中で呟きながら、ひきつった笑いを返す。先輩の不安そうな顔を見ていると、自分の痛みが一層際立って感じられた。周囲の混乱の中で、少しでも安心できる瞬間を求めていたが、その期待はなかなか叶わなかった。
その後、少ししてから静馬さんや関口さんのお父さん、そして他のミス研のメンバーたちが屋根裏部屋に集まることになった。薄暗い部屋の中、彼らの姿が次々と現れる。彼らから労いの声をかけられる度に安心感が増していった。
その頃には、関口さんも復活してお腹をさすりながら、「全く……、幽子くん、少しは手加減してくれよ」と、幽子に文句を言っていた。彼の声には、少し余裕が戻ってきたようだった。
全員が揃ったところで、自分たち四人はこの場所で起こった出来事を説明した。静馬と関口さんのお父さんは、互いに顔を見合わせながら「おやじから聞いてる?」、「いや!始めて知った……」と、いろいろと相談している様子だった。彼らの真剣な表情が、事の重大さを物語っていた。
話を終えると、ミス研のメンバーたちは散り散りになり、教会見物を始めながら楽しそうに談笑していた。その中で、幽子がコッソリと気配を消しながら何かをしているのが目に入った。彼女はこのどさくさ紛れに、刀を回収していたのだ。
自分の視線に気が付いた幽子は、まるでイタズラを見つかった子供のようにビクッと反応し、自分を見つめ返してきた。思わず首を振りながら、「ダメ!銃刀法!銃刀法!」と声に出さずに口をパクパクさせて注意をした。
彼女は諦めがつかないのか、未練がましい顔を浮かべ、刀を持って相談しているおじさんのところに割り込んで交渉を始めた。その姿は、まるでオモチャをねだる子供のようだった。
自分は「いつになったら病院に連れて行ってくれるんだろう」と、痛みに耐えながら思っていた。そんな時、横に座っていた椿ちゃんが心配そうな顔で「しんいちくん、大丈夫?」と声をかけてきた。彼女の優しい眼差しに、少しだけ心が和らいだが、自分は彼女の顔を見ながら黙って首を横に振っていた。




