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学園心霊ミステリー『幽子さんの謎解きレポート』  作者: しんいち
Report4 契約の箱

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十六箱目 奥の手

静寂の空間に響き渡る、白いドレスを纏った女の叫び声。「ヴァーギャー、ウワーァ」と、まるでこの世のものとは思えない響きが、幽子の心に緊張を走らせる。彼女は刀の切先をその女に向け、威嚇するように女の周りを回りながら、自分と椿ちゃんのいる方向へと身を寄せてきた。


「二人とも、大丈夫か?」幽子の問いかけに、自分は全身の痛みに耐えながら「うーん、なんとか……」と答えた。隣にいる椿ちゃんは、しっかりとした口調で「ちょ、ちょっと痛かったけど、わ、私は大丈夫です。」と無事を伝えた。

彼女の無事を知った自分は心の中で「良かった……」と呟いた。


幽子は続けて言った。「しんいち、立てるか?いや、早く立て!お前、丈夫だけが取り柄だろ。」その言葉に、自分は「無茶言うなよぉ……」と思いつつ、体を起こそうとした。痛みとダメージで少し目が回り身体がよろける。そんな時、横にいた椿ちゃんが力強く自分を支えてくれた。


「ありがとう、ゴメン」と思わず口にすると、椿ちゃんは首を横に降り「わ、私こそ、庇ってくれて、あ、ありがとうございます」とうつむきながら小さく答えた。


しかし、そんなやり取りをしている間も、幽子は警戒を続けていた。白いドレスの女は叫び声を上げながら暴れ回り、幽子の刀を恐れ、十字架の方向へと逃げていく。その姿は、まるで悪夢の中の幻影のようだった。幽子の目は鋭く女を睨み、その場の空気を引き締めていた。


自分と椿ちゃんは幽子の側に近づき、自分は彼女に「ありがとう!助かったよ。」と感謝の言葉を伝えた。その言葉に、幽子は自分をチラリと見て少し微笑んだ。


「しかし、何をしたの、幽子?水みたいなものが出てたけど、かっこ良かったよ。」自分は興味津々で尋ねてみた。


幽子は困惑した表情を浮かべ、「はぁ!知るわけないだろ。なんだこの刀は?威嚇のつもりで抜いたら急に水しぶきが舞ったんだよ。」と答えた。


「幽子がやったんじゃないの?」自分の驚きの声に、彼女は「当たり前だろ。なんか昔、おばあちゃんに見せてもらった『退魔刀』に雰囲気似てたから、もしかしてと思って使ってみたんだけど、確か『むらさめ』って言ってたよなぁ、この刀?しんいち何か知らないのか?」と問いかけてきた。


自分はにわか知識を振り絞り、「確か八犬伝の…」と言いかけたその時、話を聞いていた椿ちゃんが会話に入り込んできた。「あ、あの、『むらさめ』って里見八犬伝の『村雨』のことですか?」


自分が「たぶん」と答えると、椿ちゃんは目を輝かせながら言った。「私、漫画で少し読んだことがあって、確か殺気を放って抜くと水が出るって書いてあった気がするんです。でも、刀の水にあんな効果があるとは書いてなかったけど。」彼女は白いドレスの女を見つめながら続けた。


椿ちゃんの言葉に「これやっぱり本物なの?」と驚きつつ、幽子が持つ神聖な輝きを放つ刀を見つめる。

希望の光に思える刀の輝きに自分は「やったじゃん、幽子!今ならこの刀で茶々とあいつを倒せるよ。」と白いドレスの女を見たのだが……。


しかし、幽子は「いやいや!無理ぽいぞ」と言いながら、鞘を捨て、刀を両手でしっかりと握り締めた。


白いドレスの女は顔を押さえながら、どす黒い眼差しで自分たちを睨みつけていた。

「Qu'est-ce que cette épée ? Blesser une reine comme moi ? Je ne vous pardonnerai pas. Je vais vous tuer, vous tuer, vous tuer.≪なんだその剣は?女王である私に傷をつけるとは。貴様ら許さぬ。殺す、殺す、殺す。≫」彼女の怒声が響き渡った。


言葉は理解できなかったが、殺気を帯びたその声から女の意志が伝わってきた。「ゆ、幽子どうする?何か作戦ないの?」自分は藁にもすがる思いで幽子に尋ねた。彼女の表情は真剣そのもので、次の行動を考えているようだった。


幽子は「ふうーーぅ」深く息を吐き、何かを決心したように静かに告げた。「私の奥の手を使うよ。」


彼女とは長い付き合いだが、「奥の手」という言葉を聞くのは初めてだった。自分の胸は不安でざわつき、思わず「奥の手って?」と小声で尋ねた。


「心配しなくて良いよ!二人は黙って見ててくれれば大丈夫だ。」幽子の静かでありながら決意に満ちた言葉が返ってきた。


彼女は刀を右手に持ち替え、前にかざすと、左手で刀身を握った。次の瞬間、右手を少し動かし、「うっ!」と痛みの声が漏れた。まるで儀式のような一連の動作を終えた幽子は、左手を開いた。彼女の手は鮮血で真っ赤に染まり、傷口からは血が溢れ出ていた。


自分たちは彼女の行動の意味が分からず、呆然としていた。しかし、彼女の鮮血を見て、我に返った。「な、なにしてるんだよ!」と心配の声を上げた。椿ちゃんは驚きのあまり声も出せず、支えてくれている身体が震えているのが伝わってきた。


幽子は自分の顔を見つめ、「大丈夫だ、心配ない」と真剣な表情で言った。彼女は刀を床に置き、左手にいつもつけている黒い数珠を外した。そして、鮮血で紅く染まった左手でその数珠を「ギュッ」と握りしめた。


「我が血を喰らいし『髪玉(かみだま)』よ。我が(めい)に応えよ。」彼女はそう唱え、左手をゆっくりと開いた。


自分は黙って彼女の行動を見守っていたが、左手を開いた瞬間、胃液が上がってくる感覚に襲われた。幽子が握っていた数珠は、彼女の血を吸ったかのように赤黒く膨らみ、まるで心臓のように「ドクン、ドクン」と小さく脈打っていた。


その異様な光景に、自分と椿ちゃんは言葉を失い、脈打つ数珠をただ見つめていた。周囲の空気が重く、緊張感が漂う中、白いドレスを纏った女が自分たちに向かって叫び散らしてきた。


「Que faites-vous, vermisseaux ! Assez, ceux qui ne s'agenouillent pas devant moi maudiront leur destin et mourront. Ceux qui osent me défier ne seront pas tués facilement. Préparez-vous.≪貴様らなにをしている!もうよい、私の前にひざまずかぬ者は、全ての運命を呪って死ぬがよい。逆らう者は楽には殺さぬからな。覚悟しろ≫」


その声が響くと同時に、箱を置いてある台が「ガタガタ、ガタガタ」と揺れ始め、少しずつ浮き上がっていく。あんなものが飛んできたら、今度こそ一溜りもない。自分は思わず「幽子!」と叫んでしまった。


しかし、幽子は何事も起きていないかのように冷たい視線を白いドレスの女に送り、左手を女の方へと向けた。そして、静かに口を開いた。


「我が命に応えし髪玉たちよ。不動の炎をまとい、我を守りたまえ。」


その瞬間、幽子の左手にあった数珠が、ものすごい勢いで弾け飛んだ。自分と椿ちゃんは驚きの声を上げ、「わぁ!」、「キャー」と叫びながら目を伏せてしまった。急な出来事に驚き、「うぁ!ビックリしたぁ」と思いながら、再び目を開けた。


異様な光景が広がっていた。無数の火の玉が空中に浮かび、赤黒い炎をまといながら、ゆらゆらと揺れている。驚きのあまり、自分は周囲を見回した。


十数個はあろうかという火の玉が、幽子と自分たちを中心に浮遊し、まるで自分たちを守るかのように存在していた。椿ちゃんも目を見開き、その光景に驚愕し、「な、何ですかこれは?」と自分に身体を寄せて怯えていた。


「分からない……」と、自分は一言返すのがやっとだった。異様でありながらも、どこか幻想的なこの光景に、自分と椿ちゃんはただ困惑するしかなかった。


その時、突然「ガタン」と大きな音が響いた。自分たちは音のする方向に顔を向けると、浮いていた台が床に落ち、白いドレスの女はキョロキョロと周囲を警戒するように見回していた。


女の表情には明らかに焦りが浮かんでいた。先ほどまでの威圧的な視線は消え、怯えた様子が見て取れた。


その瞬間、幽子が躊躇なく言葉を唱えた。「不動の炎をまといし髪玉たちよ。我が敵を滅ぼしたまえ、『火円(かえん)』!」


幽子の声に応えるように、自分たちを取り囲んでいた火の玉が猛然と白いドレスの女のもとへと集まり、女を取り囲んだ。すると、女は「ウワーーーァ」と叫び声を上げ、炎に包まれていった。



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