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学園心霊ミステリー『幽子さんの謎解きレポート』  作者: しんいち
Report4 契約の箱

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十四箱目 白いドレスの女

椿ちゃんの「なんで閉まったんですか」という問いかけに、自分の頭の中は真っ白になり、言葉が出てこなかった。


最初は幽子がいたずらでドアを閉めたのかと思ったが、四つん這いの状態の彼女もまた、入り口の方をじっと見つめている。自分の視線に気づいたのか、幽子がゆっくりとこちらを振り向いた。


彼女の目は驚愕に満ち、まるで「なぜ閉まったんだ?」という無言の問いが心の中に響いてくるようだった。自分の鼓動が尋常ではないくらい脈打ち、冷たい汗が背中を流れていく。「彼女のいたずらではない。風で閉まるようなドアでもない。じゃあ、あの現象はなんたんだ。」


その瞬間、頭の中に一つの考えが浮かんだ。この状況は、まさにホラー映画の定番のシーンそのものだ。恐怖がじわじわと心を侵食していく。自分はそっと関口さんと椿ちゃんの顔色を伺った。二人もまた、自分と同じことを考えているのだろうか。血の気が引き、少し震えているように見えた。


「大丈夫、落ち着け」と心の中で呟き、自分は震える声を悟られないように二人に語りかけた。だが、その言葉は自分自身をも慰めるためのものだった。


「な、何ですか?い、今の現象は?関口さん、分かりますか?」自分は平静の振りをしながら関口さんに問いかけた。彼は恐怖に満ちた目でこちらを見つめ、震える声で答えた。「し、しんいち、こ、こんなの『アレ』に、き、決まってるじゃないか!」


その言葉が耳に入った瞬間、腕に鳥肌が立っていた。椿ちゃんにはもう聞くまでもなかった、自分の腕を掴んでいる手から彼女の震えが伝わってきている。彼女の恐怖が、まるで自分の体に共鳴するかのように感じられた。


その時、突然「ガタガタ!ガタガタ!ガタガタ!」という音が響き渡った。箱を置いている台が、大きな音を立てて揺れ始めたのだ。全員の視線が一斉にその台に集まる。もう限界だった。


「キャー!無理です!」椿ちゃんの悲鳴が響き、彼女は入り口の方へ駆け出していった。自分と関口さんも、たまらずその後を追った。


幽子は、箱の方を呆然と見つめている。自分は急いで彼女に声をかけた。「なにやってるんだよ幽子!早く逃げるよ!」その言葉に反応した彼女は、ようやく我に返り、刀の箱を持って一緒に駆け出した。


関口さんはすでに入り口の取っ手を掴み、必死になって開けようとしていた。「どうしたんですか、早く!」と自分は促すが、関口さんは焦った表情で「開かないんだ。」と呟く。まるで岩でも持ち上げるかのように力を込めて引いているが、入り口はピクリとも反応しない。


自分も加勢に入るが、入り口はまるで床と一体化しているかのように動かない。椿ちゃんは今にも泣き出しそうな表情を浮かべ、立ち尽くしていた。


大慌てで入り口をこじ開けようとする中、幽子は相変わらず箱の方をじっと見つめていた。彼女の異変に気づいた自分は、恐る恐る声をかけた。「ゆ、幽子、どうした…の?」


彼女は「や、ヤバいやつが出てきた。」と自分に呟いてきた。


彼女の言葉が耳に入ったのか、関口さんは入り口を開けるのを諦め、椿ちゃんと一緒に箱の方へ向き直った。


先ほどまで揺れていた台は、いつの間にか静まり返っていた。音のない静寂が周囲を包み込み、まるで時間が止まったかのような不気味な空気が漂っていた。恐怖が心の奥底から湧き上がり、逃げ場のない状況に、自分たちはただその様子を伺う事しか出来なかった。


この場の恐怖に耐えきれなくなった自分は小さな声で彼女に問いかけた。「なに、ヤバいやつって?幽子、何が見えるの?」


幽子は自分に視線を合わせることなく、冷静に前を見つめ答えた。「女だ!白いドレスを着た外国人の女だ。」その言葉が耳に届いた瞬間、関口さんが言った「マリー・アントワネット」という言葉が頭をよぎった。「まさか本当に彼女がいるのか?」そんな考えが脳内を支配して、自分は思わず幽子の背中にゆっくりと回り込んだ。


その様子を見た関口と椿ちゃんも、恐る恐る幽子の背中に寄り添ってきた。自分たちの不安が伝染するように、彼らの表情も緊張に満ちていた。


そして、幽子の視線がゆっくりと彼女の後ろにいる自分たち向けられ、彼女は冷静な口調で聞いていた。「おい!君たち、もしかして私を盾にする気じゃないだろうな?」


その瞬間、自分たちの中の恐怖が一気に爆発した。「当たり前じゃん、幽子。祓うって言ったんだから、祓ってよ!」自分の声が思わず大きくなり、周囲の静寂を破った。椿ちゃんも続けて、「そうですよ!私、嫌って言ったのに、幽子さんが開けようって言ったじゃないですかぁ。責任とってください!」と、彼女の声には怒りが滲んでいた。


関口さんも負けじと、「これ、幽子くんの責任だから、任せたからな」と、みんなで幽子の背中を押していた。


幽子は慌てて手を振り、「ち、ちょっと待て!確かに開けようって言ったのは私だけど、『アレ』を呼び出したの君らじゃないかぁ。名前呼んでただろ!」と抵抗してきた。その言葉には、彼女の焦りと戸惑いが色濃く表れていた。


彼女の言いたいことは分かる。だが、今この状況を解決できるのは、幽子しかいない。自分たちは生け贄……ではなく、彼女の背中に隠れ、彼女を支える存在であるべきだ。恐怖に震えながらも、自分たちは心の中で彼女に祈った。どうか、自分たちを救ってくれと。


その時、頭の中で「カチッ」とスイッチが降りるような音が響いた。次の瞬間、目眩が襲い、耳の奥で「キーン」と響くような頭痛が走った。「痛っ!何これ」と思わず頭を抱えると、関口さんと椿ちゃんも同じように頭を触り、苦しそうな表情を浮かべていた。


「うーん…、大丈夫ですか?」と声をかけると、関口さんは苦虫を潰したような顔で、「いや!急に頭痛がして……」と呟いた。そして自分が椿ちゃんの方に顔を向けると、彼女は恐怖に満ちた目で指を指し、「しんいちくん、部長、ま、前見てください」と震える声で言った。彼女の目は怯え、ガタガタと震えているのがはっきりと分かった。


自分たちの視線が彼女の指差す方向に向けられると、自分と関口さんは「うっ!」と言う声と共に目の前の光景に息が止まった。そこには、幽子が言っていた白いドレスを着た外国人の女性が、まるで現実の一部のように立っていた。


彼女は透けてはいない……。まるで本物の人間が突然現れたかのように、鮮明に映し出されていた。古びた白いドレスに紫の靴を履き、白銀の長い髪が光を受けて輝いている。彼女の美しさは、まるで時を超えたかのように、自分たちの目を奪った。


年齢は30代……いや、20代後半だろうか。透き通った白い肌に高貴な顔立ちを持つ彼女は、マリー・アントワネットの肖像画で見たことのある顔とはまるで違っていた。その妖艶とも言える表情は、教科書の中の彼女とは別の存在のように感じられ、とても美しいかった。


彼女は、箱の近くにある十字架をぼんやりと見つめていた。十字架に当たるスポットライトが彼女を照らし出し、まるで舞台の上に立つ女優のように華やかでありながら、どこか神聖な雰囲気を漂わせていたのだった。


「な、なんで見えるの?」と、自分は心の中で震えながら呟いた。霊感なんてものは持っていない。過去に一度だけ幽霊を見たことがあったが、その時は「たまたま相性があって見えただけだよ」と幽子に言われたことがあった。


しかし、今回はその時とは違う。幽子以外の三人が同時に見えているのだ。自分は混乱し、震える声で幽子に尋ねた。「ゆ、幽子、あのぉ……、自分にも幽霊見えるんだけど、これってどういう事なの?」


彼女は何も反応しない。聞こえなかったのか?と思い、もう一度声をかけるが、背中越しの彼女は振り向きもせず、無反応のままだった。

嫌な予感がする。そして、再度彼女に質問をした。


「ゆ、幽子さん……、自分たちに何かしたでしょう?」


その質問に幽子はピクリと反応したかと思ったら、ゆっくりと自分たちの方に振り向き、にやりと不気味な笑顔を見せた。「君たちが悪いんじゃないか、私を盾にして逃げようとして。私だってあれは流石に怖いんだぞ。みんなで恐怖を共有しようじゃないかぁ。」


その言葉に全身に鳥肌が立った。「ヤバい!幽子を追い詰め過ぎた」と一瞬後悔の心が過ったが、自分の口から出た言葉は全く違った。

「何したんだよ!どういうことか説明しろよ!」という声が、青ざめて止まっていた関口さんと椿ちゃんの耳にも届いたのか、彼らも続けて幽子に詰め寄った。「ちょっと、幽子くんちゃんと説明してくれ」、「ゆ、幽子さん、な、何したんですか!?」と、絶叫に近い声が響いた。


幽子は笑顔のまま、「君たち、私の背中に触れていただろ。その時に君たちの中に入って霊感のスイッチを全て下ろしてみたんだ。な~に、大丈夫!半日もしたら元に戻るはずだから。エヘヘヘヘ」と不敵に笑った。


その言葉に、自分の心臓がドキリと跳ねた。「幽子マジで笑えないから!なに突然知らない能力発揮してるんだよ!」と、思わず声を荒げた。

椿ちゃんも続けて、「そうですよ!幽子さん、私、本当に怖いんですから!それに元に戻るはずってどういう事ですか?元に戻らない事もあるんですか?」と、悲鳴にも似た言葉を浴びせた。


その時、突然関口さんが「シッ!」と鼻に人差し指を当てて「みんな静かに。」と伝えてきた。彼の声には緊張感が漂い、自分たちの醜い争いは一瞬にして中断された。


「どうかしたんですか?」と小さな声で関口さんに尋ねると、彼は警戒するように「まえ!まえ!」と口をパクパクさせて伝えてきた。その様子に、自分たちの心にも緊張感が伝染していく。


「えっ!」と、自分たちは関口さんが見ている方向にゆっくり視線を移した。


そこには、白いドレスの彼女がこちらを見つめていた。彼女の顔は、先ほどとはまるで違う、憎悪に満ちた恐ろしい表情で……。


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