十箱目 謎の教会
「教会?教会って何だ!」
幽子の声が梯子の下から響き渡る。自分は思わず「だから教会だって……」と呟いて口をつぐむ。
目の前に広がる光景をどう説明すればいいのか、言葉が見つからなかったのだ。
その時、関口さんが冷静に声をかけてきた。「しんいち、落ち着いて。今見えてる物を教えてくれないか?」彼の優しく落ち着いた声は、まるで暗闇の中に差し込む一筋の光のように、心を和らげてくれた。自分は深呼吸をし、視線を前に向けた。
「え~と、まず十字架が見えます。おそらく自分の身長と同じくらいの……、教会にあるのと同じような立派なやつです。」言葉が口をついて出ると、少しずつ自分の心も落ち着いていくのを感じた。
関口さんはさらに続けた。「他には何か見えないか?」その問いは、まるで周囲の状況を一緒に探るように冷静に聞いてきた。自分は懐中電灯を手に取り、光を十字架の周囲に当てた。光の帯が暗闇を切り裂き、目の前の景色を浮かび上がらせる。
その瞬間、十字架の背後にあるステンドグラスが目に飛び込んできた。光に照らされて、色とりどりの模様が煌めき神聖な雰囲気を醸し出していた。自分は思わず息を呑み、「ステンドグラスが見えます。あと、十字架の前に椅子みたいのも見えますね。」言葉が自然と流れ出て、心の中の緊張が少しずつ解けていくのを感じた。
他に懐中電灯の光を灯すがそれ以外は特に変わったところは見当たらない。自分は一旦梯子を降り、下で待っていた3人にさらに上の状況を詳しく説明する。そんな時、興味津々の幽子が目を輝かせて言った。「ちょっと私も見てくるよ。藤原さん、これ頼む!」と、刀が入った箱を椿ちゃんに渡し、彼女は梯子を上がっていく。
教会の方角に懐中電灯を向けた時、幽子の声が薄暗い空間に響き渡る。「おーぉ!しんいちの言う通りだな。確かに教会に見えるよ!」彼女の驚きと興奮が、その場の空気を一変させるかのようだった。
梯子の上から、幽子は関口さんに向かって冷静に問いかけた。「部長、これからどうするのだ?一旦戻って叔父さんたちに伝えるか、このままみんなで上に上がって調べてみるか?君の家のことだ、君が決めたまえ。」と決断を迫った。
関口さんは顎に手を当て、少し考え込んだ。彼の目は、まるで科学者の様に何かを見つけることへの探求心で輝いていた。「このまま調べてみようか、自分も早く見てみたいしね」と、彼は決断を下した。その言葉には、冒険への渇望が溢れているようだった。
幽子はその言葉を聞いて、満足げにニヤリと笑い「そうこなくちゃ!流石、オカルト部の部長だ。では私は一足お先に上がって待っているぞ。」と言ったあと、椿ちゃんに向かって「そうそう、藤原さん、私が上に上がったらその箱を私に渡してくれ。二人に取られては叶わんからな」と言い残し、彼女は軽やかに梯子を上がっていった。
自分は思わず「オカルト部じゃねぇーし、もう取らねぇーよ」と突っ込みを入れたくなったが、
「まぁ良いか……、確かにオカルト部だし」と言う気持ちになり、自分は心の中で笑いながら、「次は誰が上がりますか?」と、2人に尋ねた。
屋根裏部屋の薄暗がりに、三人は次々と足を踏み入れた。幽子が懐中電灯をかざす先には、不思議な影を作り出し、関口さんと椿ちゃんは驚きの表情を浮かべた。「本当に教会に見えるね」と関口さんは、どこか感動したように呟いた。
「じゃあ、近くで見てみるか」と幽子が言うと、興味津々の自分と関口さんは即座に賛同した。しかし、椿ちゃんは少し慎重になり、「大丈夫かなぁ」と言いながら幽子の腕を掴んで歩を進めた。
懐中電灯の光が進むにつれて、十字架の姿が次第に明確になっていった。その十字架はカトリック系のキリスト像がついている十字架で、大きさは台座を含めると自分と同じくらい、装飾も施されており、立派な佇まいを見せていた。
十字架の前には小さな木製の台が置かれ、その上には一つの箱と、左右対称に三股の蝋燭立てが並んでいた。さらに、その台の前には同じく木製の椅子が二脚、静かに佇んでいた。
次に、自分たちはステンドグラスに目を移した。そこにあったのは、宗教画ではなく、幾何学模様の美しいステンドグラスだった。どうやら窓のように開く構造になっているらしい。ステンドグラスの裏にあるドアを開けると、日の光が差し込み、まるで宝石のように輝くのではないかと想像した。
「何なんですかこの場所は?、お父さんから何か聞いてないんですか?」と自分が関口さんに問うのだが、彼は首を傾げ、少し困惑した表情を浮かべた。「一度も聞いたことないねぇ。もしこんな話を聞いていたら、掃除のよりも先に、ミス研のメンバーを連れて調査に来ていたよ。」彼はステンドグラスの美しい模様を眺めながら、何か考えている感じに答えてきた。
自分は心の中で「確かに関口さんならそうするだろうなぁ」と思いながら、天井付近にライトを移した。「しかしこの部屋は電気とかついてないんですかねぇ?」と問いかけると、関口さんも同じように天井を見上げライトを動かしていた。。
「屋根裏部屋だからねぇ、そんな設備ないんじゃないのかなぁ?」と関口さんが言ったその瞬間、彼の目が何かを捉えた。「あれ、ライトじゃないか?」と、教会側の角にある何かを光りが捕らえた。さらに「あっ!こっちにも一つありますね。」自分は反対側の角にもう一つのライトを見つけ報告をした。
だが、そのライトを見た瞬間、自分は少し違和感を感じとった。この古びた場所に似つかわしくない新しいライト。もちろん最近取り付けられたものではなく、恐らくここ10年か20年の間に設置された、後付けの現代風のライトだった。
自分の頭に一つの仮説が思い浮かび、自然とそれを口に出した。「このライト新しいですよねぇ……。もしかしてなんですが、関口さんのおじいさんってこの場所知っていたんですかねぇ。」自分の言葉に、関口さんは驚いたようにこちらを見つめた。
「あぁ!あり得るかもねぇ!」彼の目が輝き、少し考え込むようにしてから続けた。「だからおじいちゃん、取り壊しを反対したのか?」と呟き、また少し考えているようだった。
そんな会話を聞いていた幽子が「まぁ、取りあえず電気を点けてみようか。しんいちの言う通りならまだ電気生きてるんじゃないか。」と言いながら、彼女はどうやらライトのコードに添って懐中電灯の明かりを照していく。
「おっ!あったぞ。しんいち、そっちのスイッチは見つかったか?」と言う彼女に、「ちょっと待って」と、自分も同じように懐中電灯を照らしながらコードを追っていく。そして「こっちも見つかったよ。じゃあ幽子点けてみようか」と彼女に語りかけた。
幽子は「じゃあ点けるぞ!」と言う掛け声と共に「ガチャッ」と静寂を破るようにスイッチを入れた。自分も幽子と同じタイミングでスイッチを入れると明かりが灯る。
部屋の角に設置された真新しいライトは、十字架の方に向けられ、まるでコンサートのスポットライトのようにその神聖なシルエットを照らし出していた。自分は思わず「おーぉ」と驚きの声が漏れた。関口さんと椿ちゃんもその光景に目を奪われ、「凄いね!」、「素敵!」と感嘆の声を上げていた。
しかし、そんな賑やかな雰囲気の中で、幽子だけは冷静にその光景を見つめていた。彼女の視線は、次第に何かに引き寄せられるように動き、そして口を開いた。「ライトも点いたことだし、さっそくあれを調べようじゃないか。」彼女は不敵な笑みを浮かべている。
彼女が言う「あれ」とは……、箱のことである。
十字架の前に置かれた木製の台の上にある箱だった。自分もその存在に気づいていたし、もちろん関口さんや椿ちゃんも気づいていたに違いない。
その箱は、ロザリオと呼ばれる十字架のネックレスにぐるぐる巻きにされていて、禍々しいオーラを放っていたのだ……。




