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学園心霊ミステリー『幽子さんの謎解きレポート』  作者: しんいち
Report4 契約の箱

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73/122

四箱目 待ち合わせの場所

次の休日がやってきた。

6月の梅雨の季節、空はどんよりとした雲に覆われ、湿気を含んだ空気が肌にまとわりつく。

そんな中、天気予報を確認すると、幸いにも今日は雨は降らないとのこと。薄暗い雲の合間から、時折微かな光が漏れ出すのが見えた。


ミス研のメンバーたちは、蔵の掃除のために駅近くのコンビニで待ち合わせをしていた。

始めは人数も多いことから、バスでお屋敷の近くまで行き、そこから歩くという案も出ていた。

しかし、関口さんが「親父と伯父さんが車を出してくれるって言ってたから、駅とかで待ち合わせはどう?」と提案してくれたおかげで、みんなはその申し出に甘えることになった。


自分は幽子を誘って駅前のコンビニに向かった。コンビニの前には、少し早めに到着したメンバーが集まり、賑やかな雰囲気で待っていた。

彼らの会話は、これからの掃除の計画や、蔵の中にある不思議な道具についての噂話で盛り上がっていた。


時折、雲の隙間から差し込む光が、彼らの笑顔を照らし、期待と楽しみが入り混じった表情を浮かべさせていた。


自分たちが近づいてくるのを見て、メンバーの一人が手を振りながら大きな声で呼びかけた。「しんいち、幽子ちゃん、こっち!こっち!」その声に反応して、自分も手を振り返し、彼らの元へと急いだ。まだ全員が揃っていないため、しばしの雑談を交わしながら待つことになった。


その時、幽子はメンバーの中で唯一の女子である一年生の「椿ちゃん」の方に向かっていき、優しげな声を掛けていた。不思議なことに、人間嫌いなはずの幽子が、自ら話しかけている姿は不思議な光景だった。

椿ちゃんは驚いた表情を浮かべ、緊張した様子でその場に立ち尽くしている。「ゆ、幽子さん、お、おはよう」と、彼女の声は震え、まるで幽子の存在を怖がってる感じがした。


椿ちゃんの本名は「藤原 椿(ふじわら つばき)」と言い、少し古風な綺麗な名前の女の子だ。


ミス研には、女性の先輩たちが何人か在籍しているが、彼女たちは普段、部活に姿を見せない「幽霊」と言う名前の部員だった。

その中で、椿ちゃんは真面目に部活に参加する数少ない女子部員の一人だった。彼女の姿は、まるで静かな湖面に映る月のように、周囲の喧騒とは一線を画していた。


椿ちゃんの性格は、非常におとなしく、真面目であった。彼女は少しオタク気質を持ち、特にオカルトに対する興味は人一倍強かった。

彼女を例えるなら、図書室の片隅で一人静かに本を読んでいる姿を想像させる、内向的なものであった。


見た目も彼女の性格を反映しているかのように、メガネをかけ、三つ編みにした髪は、今時の女子とは異なり、どこか地味な印象を与えていたが、その目鼻立ちは可愛らしく、お洒落をすれば、きっと変わるのではないかと思う容姿をしていた。


自分と彼女とは同じ一年生として、話をする機会があった。彼女がオカルトに興味を持ち始めたのは、小学生の頃のことだった。

町営の図書館で、ふと手に取ったオカルトの本が、彼女の心を掴んだのだという。


その本の中に描かれた不思議な世界に魅了され、彼女はその後、オカルトの虜になってしまった。しかし、元々の人見知りと、女子でオカルト好きというレアな趣味のため、友達は少なかったそうだ。


高校に入ってミス研に入部したのも、同じ趣味を持つ仲間と語り合いたいという強い思いからだったとの事だった。


そんな彼女に幽子は学園祭の時から良く話しかけていた。人見知り同士、何か感じたのであろう。

ただ、幽子の「不言不語の術」が、ミス研の中で唯一、椿ちゃんにだけは通じているらしく、椿ちゃんは少し怯えたように目を伏せていた。

彼女の心の中には、幽子に対する恐れと同時に、どこか憧れのような感情が渦巻いているのだろう。


しかし、そんなことはお構いなしに、幽子は椿ちゃんに向かって楽しげに話しかけ続けていた。

どうやら幽子は椿ちゃんのことを気に入っているらしく、片思いのような一方通行の感情が、彼女の表情からはっきりと伝わってきた。

自分はその様子を微笑ましく眺めながら、心の中で「こんな感じが片思いなのかな」と思った。


そんな幽子を横目に自分は先輩たちと雑談をしていた。自分は雑談の中で、先輩に愚痴をこぼした。「聞いてくださいよ。幽子のヤツ、金に目が眩んで参加したんですよ。」と小声で言ったつもりなのだが、その声が聞こえたのか、幽子は驚いた表情を浮かべて振り返り、「おい!しんいち。君は人の悪口を公然と言うのはやめた前、そんな訳ないじゃないかぁ。人の善意を何だと思っているんだ。」と猛反論してきた。彼女の声には、少しの怒りとともに、どこか可愛らしさも感じられた。


先輩は苦笑いを浮かべながら、「まぁ、まぁ」と場を和ませ、「幽子ちゃんらしくて良いじゃないかぁ。」と自分に言ってきた。その言葉に、幽子は「フンッ」と自分にそっぽを向いて、また片思いの女の子に話しかけていた。

周囲の雰囲気が和やかになり、メンバーも全員揃った頃、2台のワゴン車がコンビニに入って来た。


車の助手席には関口さんが座っており、彼の目がこちらに向くと、嬉しそうに手を振ってきた。車が止まると、関口さんは軽やかに車から降り、「お疲れ!今日はみんなよろしくね!」と元気よく挨拶をしてきた。その声には、彼の温かい人柄がにじみ出ていた。


その後、2台の車から運転手の中年の男性が降りてきた。彼らは優しそうな面持ちで、すぐに兄弟だと分かるほど似ていた。関口さんが彼らを指差しながら、「親父と伯父さんの静馬(しずま)さん」と紹介してくれた。彼の声には誇らしさが感じられた。


自分たちが「よろしくお願いします」と挨拶をすると、お父さんの方がにこやかに、「こちらこそよろしくね、いつも智哉(ともや)がお世話になってるね。」と返してくれた。その言葉には、感謝の気持ちが込められているのが伝わってきた。

智哉(ともや)」とは、もちろん関口さんの名前であり、彼が周囲にどれほど愛されているかを物語っていた。


伯父さんの静馬さんも、優しい眼差しで私たちを見つめながら、「今日忙しいのにみんなありがとうね。じゃあ早速送るから、みんな車に乗って」と告げた。その言葉には、自分たちへの気遣いと温かさが溢れていた。

自分たちは、静馬さんの言葉に応えるように、笑顔で車に向かって歩き出した。心の中には、これからの時間への期待が膨らんでいた。


自分と幽子、椿ちゃんともう一人の一年生「啓介(ケイスケ)」の4人は静馬さんの車に乗る事になり、三年生、二年生の先輩達は関口さんのお父さんの車に乗る事になった。


駅から黒気味山の中腹にあるお屋敷までは、車で15分から20分ほどの道のりだった。

車内は、楽しい会話で盛り上がり、笑い声が響いていた。「……訳で、彼女、お宝目当てで参加してるんですよ。」と自分が冗談交じりに話すと、幽子はすかさず反論した。

「だから、違うと言ってるじゃないかぁ。君はしつこいぞ!」その声には少しの怒りと、でもどこか楽しんでいる様子が見えた。


静馬さんはそのやり取りを見て、笑いながら言った。「流石に何でもって言う訳にはいかないけど、本当に気になった物があったら持って帰って大丈夫だよ。正直、あの蔵の中は何が入っているのか分からなくてねぇ。」と、関口さんが言ってた通り本当にくれるらしい。気前が良いことである。


その言葉に、幽子は目を輝かせて「ほら!伯父さんも良いと言ってるじゃないかぁ」と本音が漏れた。彼女のキラキラした表情に、車内の雰囲気はさらに和やかになった。


その時、啓介が真剣な表情で口を開いた。「部長からも聞いていたけど、蔵の中に入ってる物って本当に分からないんですね。あのお屋敷も結構古いものみたいだけど、いつからあるものなんですか?都市伝説的な噂も聞きますけど。」彼の質問は、自分たちがずっと気になっていたことだった。


静馬さんは、穏やかな笑みを浮かべながら丁寧に説明してくれた。「蔵の中は本当に分からなくてねぇ。父さんが生きてた頃は、何故か蔵の中に入れて貰えなくて、一度壊そうとした時も『先祖から受け継いでいるものだから』と頑なに反対されたんだよ。」その言葉には、何処か関口さんのお爺さんに対しての疑念のような感情が感じられた。


さらに彼は続けた。「お屋敷の方は父さんの話だと、大正時代の物みたいでね。先祖はこの辺一帯の地主だったみたいだよ。君の言う都市伝説は聞いた事があるけど、全く迷惑な話さぁ。噂を聞いて心霊スポットのように夜、人が来てるみたいだけど、無断で入って問題になった事もあるんだよ。」彼の苦笑いには、そんな噂に対する困惑が滲んでいた。


「昔、この土地に来た宣教師が使ってた話はどうやら本当みたいだけど、秘密結社やら政府の施設みたいな噂は全部ウソだからね。」静馬さんは、笑いながらも真剣な眼差しで自分たちに語りかけた。


自分たちは静馬さんの興味深い話に「へぇー」と感嘆の声を上げながら、楽しい会話を続けていた。彼の話の中には、歴史の重みや家族の絆が感じられ、心が温かくなる瞬間だった。


「もう少しで着くね」と静馬さんが言った。その言葉に、期待が高まる。車の窓の外には、西洋風の重厚な門が姿を現し、自分たちを迎えていた。まるで、異世界への扉が開かれるかのような、神秘的な雰囲気が漂っていた。



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