三箱目 ワケ
言われてみれば、関口さんは典型的なオタクの風貌を持ちながらも、どこかお金持ちのお坊ちゃん的な佇まいを漂わせていた。
彼の眼鏡の奥には、知識欲と好奇心が宿っているようで、話すたびにその目が輝いている。
彼の服装はカジュアルでありながら、どこか高級感が漂っていて、確かに彼の家柄を物語っているかのようだった。
「3年前くらい前だったかなぁ、おじいちゃんがまだ生きている頃に、実家のお屋敷の状態を見てもらったんだけど……」関口さんは少し遠くを見るような目をしながら、思い出を語り始めた。「お屋敷の方はまだ大丈夫だったんだけど、蔵の方がねぇ……」
彼の声には、懐かしさと共に不安が混じっているように聞こえる。「どうやら蔵の外壁に、少し崩れた箇所があって、大きくひび割れた箇所もあってねぇ…、取り壊そうって話になったんだけど、その時、何故かおじいちゃんが反対してね。その時は壊せなかったんだよ。」
彼の言葉には、祖父への敬愛と、同時にその決断に対する複雑な感情が滲んでいた。おじいさんの強い意志が、先祖の歴史を守るためのものであったことを、関口さんは理解していた。
しかし、最近おじいさんが亡くなり、三回忌も終わった今、実家のお屋敷がこのままでは勿体ないという話が持ち上がっているという。
「今、親父たちが相談していて、映画やドラマの貸しスタジオにしようとか、貸し別荘にしようとか話しているみたいだけど、その時に流石にあの蔵は危ないから壊そうって話になってね。」彼の声には、少しの戸惑いと複雑な感情が混じっているように聞こえた。
「それで、親父のほうから僕に誰か蔵の掃除を手伝ってくれる人いないかと相談が来たんだよ。」関口さんは、少し照れくさそうに笑った。
そんな時だった、部員の一人が手を挙げて質問を投げかけた。「蔵の中って、どんな感じなんですか?」その問いは、皆の興味を引きつけるには十分だった。
関口さんは一瞬、考え込むように眉をひそめた。「それが、良く分からなくてさぁ」と、少し困ったような表情で答えた。「元々、おじいちゃんが蔵の管理をしてたんだけど、生きてた頃は親父や叔父さんも入れてもらえないほど厳重にしてたみたいなんだ。この前、親父が叔父さんと一緒に中を確認したみたいだけど、かなり物があるみたいでね。」
彼は続けて、少し興奮した様子で話を進めた。「ただ、その中に何が入ってるかまでは確認してないみたいなんだよ。」その言葉には、未知の世界への期待感が込められていた。蔵の中には、もしかしたら家族の歴史や、忘れ去られた宝物が眠っているのかもしれないという想像が、彼の心を掻き立てていた。
「親父の方からは、バイト代も少し出すし、もし蔵の中で欲しいものがあったらくれるなんて、気前の良いことも言ってたから……」関口さんは、少し照れくさそうに言葉を続けた。「だから、みんな良かったら手伝ってくれないかなぁ。」と彼は手を合わせ改めててお願いをしてきた。。
その瞬間、部室の空気が一変した。皆の心に、蔵の中に何があるのかという好奇心が芽生え、手伝うことへの興味が高まっていくのを感じた。
関口さんの提案は、ただの掃除ではなく、彼の家族の歴史を探る探求心や、お宝を探す冒険心をくすぐるのに充分だった。彼の言葉に、仲間たちの心が動き始めていた。
関口さんの提案に、部室は賑やかな賛同の声で満ちた。ほとんどの部員が快くOKを出す中、ただ一人、副部長の木村さんだけが少し困ったような表情を浮かべていた。「行きたいんだけど、腕の怪我がまだ治ってなくて…それに、家のお店を手伝わないといけないんだ」と、彼は申し訳なさそうに言った。
木村さんの腕には、学園祭の時に負った怪我のために包帯が巻かれており、その痛々しい姿が彼の心情を物語っていた。普段は元気いっぱいの彼だが、今はその思いを胸に秘めるしかなかった。
この部活は元々、普段から参加する人が少ないため、蔵の掃除に参加するメンバーは結局、自分を含めて七人ほどに決まった。少人数ではあったが、自分たちの心には冒険への期待が膨らんでいた。
木村さんの不在は少し寂しいが、彼の分まで頑張ろうという気持ちが自分の中に芽生えていた。
そして関口さんが「ありがとう」とお礼を言って「じゃあまた、時間と集合場所は後で伝えるからと」メンバーに言った。
そして、幽子が今、自分たちと一緒に蔵の掃除を手伝いに来ている理由は、実のところ、彼女が勝手に着いてきたからだ。
自分は当初、彼女を誘うつもりなどなかった。
幽子を誘ったところで、彼女の反応は目に見えていた。「面倒くさい!」、「なんで蔵の掃除なんて手伝わなきゃいけないんだ?」と、きっとそう言うだろう。
関口さんから聞いた話では、「かなり大きい蔵」だということだったが、ミス研のメンバーが七人もいるし、もちろん関口さんやその伯父さん、お父さんも手伝いに来るので、人数は十分足りていた。
それに、あまり人数が多すぎると、移動も大変だし、バイト代もその分出さなければならなくなる。だから、特に幽子を誘う理由はなかったのだ。
しかし、日常的な会話の中で、ふと「今度の休みに……」と関口さんの蔵の掃除の話を持ち出した瞬間、幽子の反応は予想外だった。「今度の休みかぁ。私も予定空いてるから、仕方ない、行ってやろう」と、まるで自分が蔵の手伝いを誘ったかのような口調で、彼女は勝手に参加を宣言したのだ。
急な彼女の参加表明に、自分は焦りを感じながら言った。「いやいや!ミス研のメンバーもそれなりにいるし、別に幽子が来なくても大丈夫だよ」と、心の中で必死に彼女を引き留めようとした。しかし、幽子は目を輝かせて言った。「私がやる気になって行ってやろうと言うのに、何だその言い草は!人の好意を無にするなんて、人としてどうかと思うぞ!」
その言葉に、思わず言葉を失った。彼女の熱意に押され、結局「わ、分かったよ。関口さんに言っておくよ」と、何か納得いかない気持ちを抱えながら了承してしまった。
幽子と別れた後も、彼女の言葉が頭の中でぐるぐると回っていた。「はっ!」と、突然閃いた。幽子が参加したい理由が分かったのだ。彼女の目的は……「蔵の中のお宝」だった。
自分は、どうせ幽子は来ないだろうと思い、つい「欲しいものがあったら蔵の中の物をくれるんだって」と口を滑らせてしまった。その瞬間、彼女の目がキラリと光ったのを今でも思い出す。あの時の彼女の表情は、まるで獲物を見つけたライオンのようだった。キラキラと輝く眼差しの奥には、宝石や金貨が煌めいていたに違いない。
「まったく~ぅ!金に目がくらみやがったな。」と、自分は呆れた気持ちを抑えきれずにいた。今からでも断わってやろうかと一瞬迷ったが、心の奥底で「まぁ、良い。絶対に働かせてやる」と決意を固めた。
その後、幽子も行くことを関口さんに告げると、関口さんはちょっと喜んでいる感じだった。




