表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/79

一箱目 お使い

自分には少し変わった友人がいる。

名前は幽子、もちろんあだ名である。

彼女には変わった能力が何個かあるのだが、その中の1つに霊感と言われる物がある。

そんな彼女と一緒にいるといろいろと不思議な体験を経験出来る

そんな彼女と体験したエピソードを1つ紹介しよう。


それは、高校一年生の7月のある休日のことだった。青空が広がる中、自分は幽子と一緒に愛知県に足を運んでいた。しかし、けして遊びに来たわけでも、ましてやデートなんて可愛い理由ではない。幽子の祖母、月静(つきしず)さんから頼まれたお使いのために、彼女の付き添いとして同行していたのだ。


幽子は時折、月静さんからこうしたお使いを頼まれることがあるらしく、よく出かけている。

大抵は、自分が住んでいる町から数駅先のお寺や神社に届け物をするのだが、極まれに今回のように遠方まで行くこともあるそうだ。


「お使いくらい一人で行けばいいのに」と思うかもしれないが、実は一つの問題があった。それは、幽子がいつも口にしている「不言不語の術」という名の、人を寄せ付けない術のことだ。


たいそうな名前をつけているが、実際には人間嫌いの幽子が、自分に近づかないように人見知りのオーラを発しているだけなのだが、この術が時に、厄介になる場面が多々あるのだ。


その中の一つに、道に迷った時と言うのがある。


これは月静さんから聞いた話なのだが、以前、幽子に遠方のお使いを頼んだときのことだ。

行きは何とか無事だったものの、帰り道で買い食いをしようと寄り道をした結果、幽子は迷子になってしまったらしい。


帰る時間を大幅に過ぎても戻らず、当時は携帯電話も持っていなかったため、連絡も取れずに月静さんは心配でたまらなかったという。


結局、幽子が帰ってきたのは夜も遅く、半分泣きべそをかいての帰還だったと聞く。

その時、月静さんが「誰かに道を聞けば良かったじゃないか?」と尋ねたところ、幽子は「道を聞こうとしたら、みんな私のことを避けるように逃げちゃって、道を教えてもらえなかった」と訴えていたそうだ。


自分はその光景を思い浮かべ、思わず大笑い……、いやいや!涙をこぼして聞いていた。

幽子の人見知りのオーラが、周囲の人々を恐れさせてしまったのだろう。


今回の目的地も、かなり分かりにくい場所らしい。「心配だから、しんいち、一緒に行ってあげて欲しい」と月静さんから頼まれたとき、最初は少し用事があったので断ろうかと思った。

しかし、行き先が愛知県と知った瞬間、自分は二つ返事で行くことに決めた。


さらに、月静さんから旅費をもらい、「これで美味しいものでも食べてきな」と言われて、バイト代までも手に入れてしまった。

幽子の方は、「私一人でも大丈夫だよ!」と強がっていたが、自分が行くことが決まった瞬間、どこか安心した様子で、「足手まといになるなよ」と嬉しそうに強がっていた。


電車を降りて外に出ると、まだ午前中の早い時にも関わらず、夏の日射しが容赦なく照りつけてきた。まだ梅雨は明けていなかったが、カラッとした暑さが心地よく、湿気はほとんど感じられない。まるで梅雨の終わりを告げるかのような、清々しい陽気だった。


自分はスマホのナビ機能を使い、幽子と一緒に目的地へと向かう。いまだ旧式の携帯電話しか持っていない幽子にはできない芸当だ。少し鼻が高くなるのを感じながら、彼女の横を歩いた。


幽子は月静さんから預かった紙袋を片手に、軽快に歩を進めている。その姿は、まるで何か特別な使命を帯びた冒険者のようだった。

電車の中でも幽子に尋ねたが、自分は袋の中身がとても気になって仕方がなかった。

彼女は「たまに頼まれるんだけど、中身は分からないし、おばあちゃんからも触ったり中を覗いてはダメだと言われてる」と言っていた。


宅配サービスが充実している昨今、わざわざ幽子に頼んで手渡しで渡さなければならない物とは、一体何なのだろう。

しかも、数々の都市伝説的な話がある霊感おばあちゃん、月静さんの頼みだ。

どんな恐ろしい物が入っているのか想像するだけで、この暑い中でも全身に鳥肌が立つ。

気にはなるが、触れない方が良いと思い、足早に目的地へと向かった。


自分たちが着いたのは、大きなお寺だった。重厚な木の扉が静かに佇むその場所は、どこか神聖な雰囲気を醸し出している。

玄関で呼び鈴を鳴らすと、優しそうなお坊さんが出てきた。彼の穏やかな笑顔に、少しほっとする。用件を告げると、「月静さんのお孫さんだね。話は聞いているよ。暑い中ご苦労様。」と労いの言葉をかけられた。その言葉に、心の中の緊張が少し和らいでいった。


お茶を勧められたが、自分たちはまだ行く場所があったので、丁重にお断りをした。

幽子は少し残念そうに見えたが、自分達は紙袋を住職さんに渡すと、彼は「確かに受け取りましたと月静さんにお伝えください」と丁寧に挨拶し、自分たちを見送ってくれた。その瞬間、何か大切な役割を果たしたような満足感が胸に広がった。


用事が終わった自分は、幽子に「じゃあ、目的の場所に行こう」と胸を踊らせて告げた。


自分の言う目的の場所とは愛知県の豊橋市にあるとあるラーメン屋だった。


愛知県豊橋市は、愛知県南部に位置し、豊川と太平洋に面した歴史ある港町である。

隣の静岡県や名古屋市からもアクセスが良く、昔から交通の要所として栄え、現在も商業と産業が盛んな都市だと聞く。

毎年開催される豊橋祇園祭や豊橋まつりなどのイベントも魅力的で、特産品には豊橋カレーや豊橋メロンがあると聞いている。


自分の目的地は、豊橋鉄道の札木駅から歩いて一分ほどのところにある「カドワラ」というラーメン屋だった。なぜ自分がそこに行きたいのか?

それは、応援しているオカルト系人気YouTuber「オカルトラジオ」のメンバーの一人、キムラさんが経営しているお店だからだ。


オカルトラジオは、自分がYouTubeを聞き始めた頃からの特別な存在であり、今や多くのオカルト系YouTuberに影響を与える存在でもある。自分のイチオシのYouTuberたちで、彼らの動画はいつも新しい発見と楽しさを提供してくれた。


メンバーは、キムラさん、トモさん、ケイスケさんの三人組。彼らは的確な考察と面白い雑談を織り交ぜながら、視聴者を飽きさせない様々な楽しい企画を展開している。その魅力に引き込まれ、自分はいつも彼らの動画を楽しみにしていた。


実を言うと、自分の目的は「カドワラ」に来ることだけではなかった。先月、幽子とミス研のメンバーたちに起こった奇怪な体験談を「悪魔の箱」というタイトルでオカルトラジオに投稿したところ、すぐに採用されて動画にアップしてもらったのだ。


キムラさんの声に乗って自分の話が語られていった時、感動のあまり涙がこぼれそうになった。自分の体験が、あの人気YouTuberの声で語られるなんて、夢のような出来事だった。


そのお礼を言いたくて仕方がなかった。カドワラが近づくにつれ、胸が高鳴り、ワクワクが止まらなかった。そんな自分を見て、幽子は冷ややかな目線を送り、「君は本当にオカルト好きだなぁ」と呆れたように言った。


さらに、「その『カドワラ』って本当に美味しいのか?夏のこんな暑い中でラーメン食べるのか?」と疑問を投げかけてきた。

自分は空かさず反論した。「めっちゃ美味しいって噂だよ。有名なのは肉塩ラーメンって言って、あっさり系なのに深みがあるスープで、レビューも高いんだって。

他にも唐揚げが美味しいって話で、胸肉なのにパサパサしてなくて、まるでモモ肉を食べているみたいにジューシーなんだってさ。夏場なら冷やし豆乳担々麺も人気だって聞いたよ!」


自分の熱意に、幽子は少し引き気味に「分かった!分かった!で、そのお店は何時からオープンなんだ?」と聞いてきた。

自分は「11時半からみたいだから、このまま着くと10分くらい待つかも」時計を見ながら答えた。


幽子は少し嫌な顔をして「この暑い中10分も待つのか?」と不満を漏らしたが、待ちきれない自分にとっては、10分なんて数秒と変わらなかった。


いつもと立場が逆転している二人は、一路カドワラに向かった。「多分ここら辺だと…」と自分が探していると、幽子が指を指して「これじゃないか」と言った。白い外壁の店舗は、一見したところカフェのようなお洒落なお店だった。


まだお客さんは来ていない。自分たちが一番乗りだった。店の前に立つと、ワクワクから緊張のドキドキへと感情が変わっていく。お店の看板はまだ「closed」の表示になっている。自分と幽子は待っている間、自分は投稿した話を思い出していた。あの時の緊張感や恐怖が、心の中で鮮明に蘇ってきた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ