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六体目 暗示

「シュミラクラって、まさか……あの、顔に見える点のやつ?」


そう問いかけると、幽子は満面の笑みで頷いた。


「まさにそれだよ。さすがオカルト好きのお前なら、わかってると思ったぞ。


まぁ、他にもいろいろと考えてきたのだが、小林さんからいろいろ話を聞いて、最終的にこの方法がいいかなって思ってな。」


その目はどこか自信に満ち、光を宿していた。


幽子は得意げに語り始める。


「最初に見せた心霊写真……あれ、正確には“シュミラクラテスト”というより、“思い込みテスト”って呼ぶ方が近いかもしれないな。」


空気がわずかに震えた気がした。


「はっきりと幽霊が写ってるのは二ヶ所だけ。他はね――ただのそれっぽい影だよ。でも、お前たちは、もっとたくさん見えたって言ってただろ?」


彼女の声は、まるで耳元で囁く呪文のように響いた。


「えっ……?」


思わず漏れた自分の声に、幽子は楽しげに頷く。


「実はな。写真を見せる前に、“この中には何体もの霊がいる”って言ったの、覚えてるか?」


「あれがお前たちにかけた“暗示”ってやつさ。」


その一言が、自分の思考をかき乱す。


「人ってのはね、『いる』って言われると、“探そう”とするんだ。だから、二体しかいないのに、四つ、五つって言ってしまう。それは、お前だけじゃなくて、星野さんも同じだ。でも、小林さんの『七体』って数字……それだけは、ちょっと多すぎると思わないか?」


幽子の言葉が心の奥に静かに沈んでいった。


「つまり、小林さんは思い込みが強いタイプ。そして、見えないものを“補正”して見ようとする力も強い。彼の“髪の長い人影”ってやつも、そのせいかもしれないのぞ。」


自分は、ふと疑問を抱く。


「思い込みや補正能力が……その髪の長い影と、どう関係あるんだ?」


幽子は少し考えたあと、意味深な笑みを浮かべて問い返してきた。


「しんいち、オカルト好きならこんな事を思ったことはないか?――最近の怪談に出てくる幽霊って、やけに“髪の長い女”が多いと感じたことは……?」


一瞬、思考が止まる。


たしかに。白いワンピースに、長い黒髪の女……。映画に影響された定番すぎるほど“恐怖”の象徴だ。


「分かっただろ。あれはもう、“恐怖の型”なんだ。」


幽子の目が真っ直ぐこちらを見つめる。


「小林さんの中にある“幽霊=髪の長い女”って固定観念が、曖昧な黒い影を、勝手に“そう見えた”ように補正してしまった。私の考えでは――それが、彼の見た『髪の長い生き霊』の正体だと思う。」


まるで霧が晴れていくように、思考が整っていくのを感じた。


「じゃあ……結局、小林さんに憑いていた霊って……?」


「さっきも言った通り、星野さんの生き霊だよ。」


そう言って、幽子は静かに頷いた。


「それにな私ははっきり見たんだ。小林さんの背後にいたのは、髪の長い幽霊じゃない。星野さんの生き霊だった。」


納得しつつも、ふと気になる点が残っていた。


「それなら、どうして……お祓いをしなかったんだ?」


自分の問いに、幽子は二本の指を立てて言った。


「理由は二つある。」


彼女は眉間にしわを寄せながら、ゆっくりと語り始めた。


「一つ目は――生き霊という存在自体が厄介なんだ。もし告白してきた女の子の生き霊だったら、祓うのも簡単だったと思う。でも、星野さんの場合は……少し特殊だったんだ。」


「特殊って?」


「星野さんは一見、穏やかで優しそうに見えるがだけど、たぶん……相当嫉妬深くて、小林さんへの執着心が強い。彼女、かなりの独占欲の持ち主なんだと思う。」


「まさか……そんなふうには見えなかったけど。」


「そうだろう?だから、私はちょっとした“罠”を彼女に仕掛けたんだ。」


にやりと笑った幽子の顔に、ゾクリと背筋が冷えた。


「まず一つ目だ、小林さんに聞いたんだ。“最近、誰の相談を受けることが多い?”ってね。」


――思い出した。あの時、小林さんは「女性が多いかな」と答えた。


「あの瞬間の星野さんの顔……お前、見てなかっただろ?私は見たよ。ほんの一瞬、ぞっとするほど怖い顔になった。」


「……マジで?」


「マジだよ。」


幽子の目が怪しく輝いていた。


「もう一つはな、“お祓いのフリ”をしたんだ。」


「……フリ?」


「そう、彼の手に触れたとき。あの瞬間も、星野さんの反応を見てたんだ。」


息を呑んだ。


「いやーー、あれはなかなかに凄かったぞ!彼女に本当に殺されるかと思った。流石の私も久々にゾクゾクしたよ。しんいちは、彼女のあの殺気に気づかなかったのか?」


幽子の顔は、まるで遊園地の絶叫マシンを満喫する子供のように輝いていた。


そんな彼女に苦笑いをしつつも、すっかり話に引き込まれていた自分は「それで?」と、彼女の話の続きを促した。幽子はその期待に応えるように、さらに話を続ける準備を整えているようだった。


自分の中で、バラバラだったピースが、ようやく一つの像を結んでいくのを感じていた。



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