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五体目 真相

夕暮れの空の下、自分と幽子は並んで歩いていた。


今日一日の出来事が、まるで遠い夢のように思えるほど、今の自分の心には安堵感が満ちていた。


「今日の小林さんのお祓い、ホントに無事に終わって良かったよぉ。」


そう口にした瞬間、隣を歩く幽子の反応に、ふとした違和感を覚えた。


「んっ?」

微かに眉をひそめた彼女の声には、どこか引っかかるような疑問が滲んでいた。


自分は足を止め、改めて問い直した。

「お祓いの件だよ。上手くいったんだろ?」


幽子はしばらく考えるように目を細め、やがて肩の力を抜いたように笑いながら言った。


「あぁ、お祓いかぁ……お祓いはしてないぞ。」


その瞬間、自分の頭の中が真っ白になった。

言葉が耳に入ってきているのに、意味だけが理解できない。


「はぁーー!? え、今、なんて言ったの?」


自分の声が少し裏返った。幽子は悪びれもせず、あっけらかんともう一度繰り返した。


「だから、お祓いはしてないって言っているだろ。」


彼女のその無邪気な笑顔は、どこまでも自然体で――それだけに、なおさら混乱させられた。


「……えっ、それってどういうこと? 小林さんには生き霊が憑いてなかったってこと?」


ようやく出てきた言葉に、幽子はほんの一瞬、考えるような表情を見せた。だがすぐに、いつもの真剣な眼差しに戻る。


「いや、ちゃんと憑いてたよ。生き霊はね。でも、憑いてたのは――告白してきたっていう女の子じゃなくて、星野さんだった。」


その一言で、思考が完全にフリーズした。


「……え? 星野さん……って、小林さんに憑いてた生き霊って、星野さん?」


言葉を絞り出すと、幽子はため息混じりに応える。


「そう言ってるだろう? さっきから二回も同じこと聞いてくるなよ。」


その口ぶりにムッとしながらも、胸の奥で別の違和感が膨らんでいく。


――何かがおかしい。


ふと、ある記憶が脳裏をよぎった。


「……あれ? でも小林さんが見たって言ってた黒い人影、あれって髪が長く見えたんじゃなかったっけ? 星野さんって、ショートカットだよな?」


思わず口にした疑問に、幽子は一瞬、目を細めると、静かに呟いた。


「どこから説明しようか……」


その声には、どこか決意のような響きがあった。

しばらく沈黙が流れた後、彼女は顔を上げて、自分の目をまっすぐに見つめた。


「まず、しんいち。お前は“幽霊”って、どういうものだと思ってる?」


唐突な質問に戸惑いながら、俺は頭をひねる。


「……人の魂? 生きてた頃の姿が残った……そういうもの、かな?」


自信のない答えに、幽子は苦笑を浮かべた。


「うん、お前らしい普通の答えだな。」


ムッとした表情を向けると、彼女は慌てて手を振って続ける。


「ごめんごめん、馬鹿にしたわけじゃない。ただ……私はね、幽霊って“データ”みたいなものだと思ってるんだ。」


「データ?」


その言葉の意外さに、自分は思わずオウム返しする。幽子は頷いて、説明を続けた。


「そう。分かりやすく言うなら、幽霊はDVDのディスクみたいなもの。で、それを再生するプレーヤーが、私たちの“肉体”なんだ。」


少し考えたあと、ようやくなんとなく意味がつかめた気がした。


「……ってことは、霊感って“再生能力”みたいなものか?」


「そういうことだ!」


幽子は嬉しそうに頷いた。


「私や祖母みたいに強い霊感を持つ人は、4KのBlu-rayを、4Kテレビで観るような感じだな。細部までくっきり見える。でも普通の人はそうじゃない。せいぜいDVDプレーヤーでVHSを映してるみたいな、そんな感じだと思ってくれ。」


彼女の言葉に、見えない世界が少しずつ輪郭を持って現れてくる。


「小林さんの場合は……多分、再生能力がそんなに高くなかったんだと思う。星野さんの生き霊を、“女の黒い影”くらいにしか再生できなかった。それで、髪が長く見えた……のかもしれない。」


それを聞いて、自分は内心で納得しかけた。けれど、やっぱり釈然としない部分が残る。


「でも、やっぱり引っかかるな……。髪の長さって、そんなに違って見えるか?」


その疑問に、幽子はニヤリと口元を緩めた。


「ふふん、それなんだよ。だからね、小林さんに“あるテスト”をしてみたんだ。」


「……もしかして、あの“霊感テスト”ってやつ?」


自分が尋ねると、幽子は誇らしげに頷いた。


「そう。あれ、実は“霊感”を測るためのものじゃない。“シュミラクラテスト”って言って、無意識のイメージを引き出すためのテストなんだよ。」


「シュミラクラ……?」


「人間ってね、曖昧な形や情報を見ると、脳が勝手に意味のあるイメージに変換しちゃうことがあるんだ。生き霊や霊って、まさにそれに近い存在だから、小林さんがどう見ていたのかを知るには、ああいう方法が有効なんだよ。」


幽子の目は真剣そのもので、まるで新しい真実の扉を開けていくようだった。


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