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十一軒目 調査

自分たちは日向ちゃんの部屋を後にし、一階へと戻ることにした。


目的は、陽介の家で気になっていた場所、「トイレ」だった。しかし、日向ちゃんの部屋を出た瞬間、前にいた幽子がふと頭を上げ、何かを見つめていた。


その視線に引き寄せられるように、自分も上を見上げた。そこには、薄暗い廊下の壁に貼られた御札があった。白い紙に赤い文字、まるで何かを封じ込めるかのように…。


「おかしいな、階段にもなかったっけ?」と記憶を辿りながら、二人の後ろを歩いていると、幽子はさらに斜め上の方向に視線を向けた。

自分もそれに合わせて目を向けると、やはりそこにも御札が貼られていた。


不気味な感覚が背筋を走り、周囲に気を配りながら一階へと向かう。心臓が高鳴り、足音が響くたびに、静寂の中に潜む何かの気配を感じる。


一階に着くまでに、気づけば五枚の御札が貼られていたことに気づいた。

最初に来たときは全く気がつかなかった……


いや、視界には捉えていたのだろう。ただ、家の空気の悪さや、美奈子さん、日向ちゃんのことが気になり、目に入らなかったのだ。


玄関の近くに、さらに二枚、いや、三枚の御札が貼られている。恐らく、あれもそうだろう。日向ちゃんの部屋からトイレまでの道すがら、八枚の御札が目に入った。中には目立たないように、隠されているものもある。


この家には、一体何枚の御札があるのだろうか?そんな疑問が頭をよぎると同時に、「御札はあまり張ってはいけないんだよなぁ」ということも思い出していた。


御札とは、ある意味で「道路標識」のようなものだ。こちらに来てはいけない、こちらには入れない、逆に言えば、こちらには出られないという境界線を示すものだ。

やたらに貼って良いものではないと聞いている。


ましてや、陽介の家は明らかにおかしい。自分には不思議なものを見る能力はないが、内にも外にも何かが潜んでいるようなこの家に、こんなに御札を貼って良いものなのか、疑問が胸をよぎった。


「ねぇ、幽子、御札なんだけど…」と口を開きかけた瞬間、彼女はすぐに反応した。「御札だろ!もちろんダメだぞ」と。今日の自分と幽子は、まるで意志が通じ合っているかのように、反応が早かった。


幽子との会話が少し聞こえたのか、陽介が顔を向けてきた。「御札?御札がどうしたの?」と、疑問の色を浮かべている。


自分は少し誤魔化すように、「御札、けっこう張ってあるなぁって思ってさぁ、これ、誰が張ったの?」


陽介は少し考え込んでから、「最初は母さんが張っていたかなぁ?昇太が亡くなってから、さらに張っていたね。

自分的には気味が悪いから反対したんだけど、母さんの気持ちが晴れればと思って黙ってみてたよ。

階段のやつは自分が張ったかな。ほら、幽霊見たって言っていたからさぁ、念のために張ったんだよ。」と答えた。


自分は「ふーん」と言いながら幽子の方を見た。彼女は静かに頷き、「あとでまとめてやろう」と告げた。


陽介は「なんだろう?」と首をかしげていたが、特に気にせずに「ここがトイレだよ」と言ってきた。


陽介の家に来た時、何度か使ったことがあるトイレ。外観は特に変わりない入り口だが、問題は中にあった。


陽介が代表してドアを開けた。

見た目はよくある洋式のトイレで、掃除も行き届いており、芳香剤の香りが漂う。

確かに、綺麗なトイレなのだが…、なぜか落ち着かない。


怖い話のように誰かに見られているという感覚ではなく、どこか不安を掻き立てるような、変な気持ち悪さがあった。


照明が暗いわけではないのに、何故か全体が暗く感じるのも、その要因なのだろうか。久しぶりに見るトイレの中を改めて観察してみるが、やはり特におかしいところは見当たらない。


ただ、一点……、トイレの入り口付近に張ってある御札を除いては…。


幽子に話を聞いてみると、「う~ん、中に何かいるわけではないのだが……、しんいちが言ってたように、嫌な感じは確かにするなぁ。怖いと言うのか、落ち着かないというのか…。住んでる君には悪いが、一人では入りたくはないなぁ」と、顔をしかめて陽介を見つめた。


陽介は驚いた顔をしていたが、すぐに表情を和らげ、「自分はそこまで気にならないのですが……、そうですかぁ……」と告げた。


幽子は少し考え込んでいるようだったが、やがて「まぁ!良い。あと1ヶ所調べておかないところがあるんだ、先にそこを調べよう」と言った。その言葉に、自分と陽介は思わず顔を見合わせた。

「幽子が気になる場所?どこだろう?」と心の中で疑問が湧く。


「じゃあ外に出ようか」と幽子が明るく答えると、自分達は疑問にも似た驚きの表情を浮かべ「えっ外?」と思わず声が漏れてしまった。


そんな自分達の反応を尻目に、幽子は背負っていたリックサックから何かを取り出した。

彼女が手にしたものは、一つ目は以前、陽介が書いたこの家の間取り図。

もう一つ目は、二本の曲がった針金状の棒だった。


自分はその棒を見つめ、「ダウジング?」と呟いた。


幽子が取り出したのは、水脈を探るためのダウジングロッドだった。しかも、見た目からしてかなりしっかりとした本格的なものだった。


「ダウジングだよねぇ、そ、それどうしたの?」と自分が尋ねると、幽子は嬉しそうに答えた。


「おばあちゃんから借りてきたんだ。ほら!おばあちゃんは占いとかもやってるから、ダウジングを使った探し物や、普通に地質調査の依頼で使ったりしてるんだよ」


幽子の祖母、月静つきしずさんは、地元でも有名な拝み屋であり、相談役、占い師など多くの肩書きを持つ人物らしい。噂では、地元の名士や国会議員までもが彼女の元を訪れるという都市伝説があるほどだ。


「これでこの家の周りを少し調査するんだよ。こう見えても私もダウジングには自信があるんだ!」と、幽子は自信満々に言ってきた。


「例えばだぁ『私に災いを持って来る人物を教えて下さい…………』ほら、当たっただろ!」と、明らかに自分の方向にロッドの先端が向いているのを見て、自分は思わず「はっ?」と気が抜けた声が漏れてしまった。

ニコニコと笑顔を浮かべる幽子の視線を外し、「へぇ~凄いね」と素っ気なく返事を返し、陽介はそんなやり取りを見て苦笑いを浮かべていた。


幽子は外に出ると、明るい空の下で言った。「じゃあ手始めに、家の回りから調べてみるか。」


陽介の家は、入り口付近に広々とした駐車スペースがあり、リビング側には小さな庭が広がっていた。家々の間隔もゆったりとしていて、どこか落ち着いた雰囲気が漂っている。


幽子が先頭に立ち、自分たちは家の周りをぐるりと歩き始めた。路地を進むと、幽子が手に持つロッドがゆっくりと開き始めた。


何かの反応だ。


自分は幽子から渡された間取り図に、印をつけていく。


さらに歩を進めると、リビング近くの小さな庭でも反応があった。自分は再び印をつけた。

その後も周囲を回り続けたが、他には特に反応は見られなかった。


この結果をみて、幽子は悩む……、いや!どこか険しさが浮かんでいた。しかも、その表情にはどこか不安げな影も見え隠れしているようだった。


普段は冷静で知的な彼女にしては、本当に珍しい光景だ。彼女のそんな姿を目の当たりにすると、自分は心のどこかでザワっとしたものを感じていた。


「どうしたの、幽子?」と声をかけるも、彼女は答えず、ただ視線を地面に落としていた。

その姿に、自分も思わず胸が締め付けられるような感覚を覚え、彼女が不安が、まるで自分にも伝わってくるようだった。


「もう少し範囲を広げてみようか」と、幽子がようやく口を開いた。彼女の提案に、自分は頷き、再び歩き出すことにした。

住宅街の静けさが、自分達の心の中の緊張感を一層際立たせているように感じられた。


周囲から見れば、ダウジングをしている三人組はなかなかシュールな光景だろう。しかし、自分たちはそんなことを気にせず、周辺を歩き続けた。

すると、さらに二か所でダウジングの反応が見つかった。


自分は、その場所から先ほど印をつけた陽介の家の間取り図を何気なく見比べていた。

すると、脳内に一本の線が浮かび上がてきた。

もう一度、図を見つめ直す。

その瞬間、心の奥にとてつもない疑惑が芽生え、「あれ、陽介の家の中に水脈が通っているんじゃないのか?」と、思わず呟いてしまった。


隣で間取り図を見ていた幽子は、何も言わずにただ自分の方を見つめていた。その視線は何気ない静かな雰囲気だが、何も語らない彼女に自分はどことない不安を感じてしまう。


陽介がその様子に気づいたのか、少し期待を込めたように「二人とも、何か分かったの?」と問いかけてきた。


幽子が静かに口を開き、「だいたい分かったよ。ゆっくり話したいから、君の部屋に行かないか?頼んでおいた物も見せて欲しいし」と答えた。


その言葉には、落ち着いた響きがあったが、どこかピリピリとした感じがしている。

陽介は一瞬戸惑った様子を見せたが、すぐに頷き、自分たちを部屋へと案内した。ん

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