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学園心霊ミステリー『幽子さんの謎解きレポート』  作者: しんいち
Report6 前編 生き写し

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七枚目 星野さんの災難

そして次の日。

朝から自分は冴えないため息をついていた。


椿ちゃんのお願いとはいえ、桔梗さんに声をかけることにためらいを感じていたのだ。しかも、その内容があの旧校舎にまつわることだけに、ますます気が重くなる。こんなことで声をかけて「変な人」と思われたらどうしようという不安が、心の中でぐるぐると渦巻いていた。


「取りあえず昼休みに声を掛けよう」と覚悟を決めていたものの、昼休みが近づくにつれて、自分のため息はますます加速していった。まるで心の中の不安が、時間と共に膨れ上がっていくかのようだった。


そんな自分のため息を聞いていた幽子は、心配そうにこちらを見つめ、「また、冴えないため息をついてどうしたんだ?疲れているんじゃないのか?」と問いかけた。


そして幽子は「ほら!これ食べて元気出せ?」と言って、ポケットからチロルチョコを大量に取り出して差し出してきたのだった。


幽子は明るい声で「チロルの新作だぞ!君にもおっそ分けしてやろう。」と言ってきたのだ。その言葉に、自分は思わず興味を引かれて。包み紙を見つめると、「チョコレートパラダイス.クリーミードリーム味」と書かれている。もう一つは「シュガーラブリー.ハニーリボン味」……。

なんだこの長い名前は?二つ目なんて、何味か全く想像がつかない。


「なかなか美味しいんだぞ。さぁ君も食べたまえ」と幽子は笑顔で勧めてくる。自分は「う、うん、ありがとう……」と受け取った。


その後、昨日の出来事を幽子に話してみると、彼女は「アハハハ、それは大変だな。まぁ頑張ってくれ。」と他人事のように言った。その言葉に、自分はさらに「はぁ……」とため息をついて、幽子から貰ったチョコの包み紙を外していった。


お昼休みを告げるチャイムが鳴る。心が決まらずモヤモヤしていると、幽子が「まだ悩んでいるのかぁ?さっさと言ってしまえば良いじゃないか!」と急かしてきたのだった。


その瞬間、自分の心に悪魔が囁いた。「じゃあ幽子が言ってきてよ。女子同士なんだから言いやすいじゃん。」と、幽子に押し付けてしまえば良いじゃないかと思い付いたのだ。


すると彼女は「はぁ!なんで私が行かなきゃならないんだ。頼まれたの君だろ?」と真っ当なことを言ってくる。


だが、ここは負けじと自分は言い返した。「幽子だってミス研のメンバーじゃん。協力するって言ってたし、だったら幽子が言いに行ったっておかしくないよ。」まさに暴論だとは分かっていたが、それでも他人に押し付けたかった。


幽子は「いやいや!何言ってるんだ君は!それに私がそういうの苦手だと知ってるじゃないか?いい加減にしたまえ」と、猛烈に反論してきた。


そんなやり取りをしていると、「二人ともどうしたの?」と女の子の声が聞こえてきた。自分と幽子が声の方向に顔を向けると、そこには星野沙織さんが立っていた。おそらく幽子と一緒にご飯を食べるつもりだったのだろう、お弁当箱を片手に、自分たちのやり取りを見ていたのだ。


星野さんの姿を見た幽子は、すかさず彼女に助けを求めた。「聞いてくれよ、星野さん。しんいちのヤツ……」と、幽子は一連の流れを説明し始めた。星野さんは幽子の話を聞きながら、苦笑いを浮かべて「またなの…」と呟いた。


すると、意外にも星野さんは「別に良いじゃん、幽子ちゃん。それくらい手伝ってあげればぁ」と、自分の味方をしてくれたのだ。

幽子はその言葉を聞いて不満そうに顔をしかめ、「なんだよ、星野さんまでぇ。私が人嫌いって知ってるだろ。とにかく私はぜっっったい嫌だからな!」と、頬を膨らませて怒っていた。


あわてた星野さんは「冗談だって、もう幽子ちゃん、機嫌直してよ」と、まるで子供をあやすように彼女をなだめた。そのやり取りを見ていた自分の耳元で、再び悪魔が囁いてきた。


「ねぇ!星野さんが頼んでみてよ。」


その言葉に星野さんは驚きの声を上げた。「エーーぇ、何で私が?」と、当然の反応を示した。

自分は彼女の悲鳴を無視するかのように続けた。「ほら、自分も桔梗さん苦手だし、幽子もこの通りだし、となるとこの場にいる社交的な人って星野さんだけじゃん。星野さんが適任だよね。」


無茶な理論を押し付けると、星野さんは困惑した表情を浮かべた。すると、幽子が自分の意見に呼応するように星野さんに呟いた。


「確かに、星野さんが適任じゃないのか。」


流石は幽子だ。長年の付き合いがあるだけあって、自分のやりたいことをすぐに理解してくれたのだろう。抜群のタイミングで星野さんに攻撃を仕掛けてきたのだ。


星野さんはさらに驚き、「えっ!幽子ちゃんまで何言ってるのよ。私も人に話しかけるの苦手なんだって。それに私、オカルト部の部員じゃないでしょ」と、至極真っ当な意見で反論してきた。


自分は心の中で「オカルト部じゃなくてミス研なんだけど」と思いながらも、「いやいや!ここは星野さんしかいないじゃん、頼むよ」と懇願した。すると、幽子も続けて「しんいちの言う通りだなぁ。この場でこのミッションが出来るのは星野さんしかいないよ。」と、二人がかりで彼女に迫っていった。


まさにとばっちりである。


星野さんは可愛く頬を膨らませ、「もう!二人して嫌なこと押し付けて……。分かったわよ、行けば良いんでしょ」と言い、ついに桔梗さんの方へと向かっていった。


自分と幽子は「ごめん」、「頼んだぞ」と声援を送りながら、笑顔で彼女を見送った。星野さんの背中を見つめていると、横にいた幽子がポツリと呟いた。


「しんいち、一つ言っておくが、星野さんはあぁ見えてもなかなか怖いんだぞ。あとの責任は君が取れよ。」


その言葉が耳に残る。自分は思わず「う、うん」と答えたが、背中には嫌な汗が流れていた。

星野さんが無事に桔梗さんに交渉できるのか、心の中で祈りながら、同時に怒った星野さんの姿を想像して不安が膨らんでいくのを感じていた。


星野さんが桔梗さんに近づいていく。その後ろ姿からは、緊張がひしひしと伝わってくる。心の中で祈るような気持ちを抱えながら、彼女の動きを見守った。


星野さんが桔梗さんに話しかけると、違うクラスの女の子に声をかけられた桔梗さんは、少し驚いた表情を浮かべた。その瞬間、星野さんは少し恐縮した様子で、何かを一生懸命に説明しているようだった。


その時、桔梗さんと星野さんがこちらを振り向いた。桔梗さんは、まるで挨拶をするかのようにコクりと頷く。自分も思わずその仕草につられて、同じように頷いてしまった。


しばらくの間、二人は話を続けている。やがて、二人の表情が和らぎ、笑顔で会話を交わしているのが見て取れた。どうやら交渉は上手くいったようだ。桔梗さんは広げていたお弁当を元に戻し、立ち上がると、お弁当を持って星野さんと一緒にこちらへと歩み寄ってきた。


星野さんは自信満々な態度で、「ほらっ!連れて来たわよ」と告げた。その言葉に、自分と幽子は思わず笑顔になり、「ありがとう」、「流石、星野さんだなぁ」と彼女の機嫌を取り戻すように持ち上げた。


その時、桔梗さんが柔らかな声で「こんにちわ」と挨拶をしてきたのだ。緊張していた自分は、思わず「こ、こんにちわ、始めまして」と言ってしまった。初めてではないのに、変な挨拶をしてしまったことに内心焦りを感じてしまった。


桔梗さんは少しクスっと笑いながら、「あの、星野さんから少しお話伺ったのですが……」と、育ちが良さそうな丁寧な口調で尋ねてきた。


自分は取りあえず、「すいません!お昼ご飯中に。先ずは自己紹介させてください。自分は杉本 真一(すぎもと しんいち)と言います。ミステリー研究部に所属しています。あとこっちは佐々木 星空(ささき せいら)です。彼女も自分と同じミステリー研究部に所属しています。」と、簡単な紹介をした。


幽子は人見知り全開で、素っ気なくコクりと挨拶をすると、桔梗さんが「幽子さんですよね。クラスのみんなが噂してて、一度お話してみたかったんですよ」と、興味津々な感じで幽子に話しかけてきた。


自分は「どんな噂なんだ?」と気になりつつ、幽子を見ると、彼女は満更ではない表情を浮かべて「エヘヘ」と頭を掻きながら照れていた。相変わらず、乗せられやすい性格だ。


そんな会話を聞いていた星野さんは、「ダメですよ桔梗さん。この二人ちょっとおかしいんだから、仲良くしちゃあ」と、先ほどのことを根に持っているのか、まだ少し怒っているようだった。


自分は苦笑いを浮かべながらも早速、調査の件を話そうとすると、幽子が「ちょっと待てしんいち」と自分を制止て、「桔梗さんもお弁当を持ってるようだから、みんなでいつもの場所でお昼ご飯を食べながら話してはどうだ。」と、提案してきた。


自分は幽子の提案に乗り桔梗さんに「どうですか?」と尋ねると、彼女は笑顔で「はい!」と答えてくれた。

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