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学園心霊ミステリー『幽子さんの謎解きレポート』  作者: しんいち
Report5 幽子の誕生

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十二幕目 星空の異変

「あら!私の事?なにか用かしら。」


セイラの声が耳に届いた瞬間、僕の心に一瞬の寒気が走った。彼女の表情は、まるで緊張が解けたかのように優しい微笑みを浮かべていた。


しかし、その口調はいつもと違い、どこか違和感を覚えた。彼女の瞳は、口元の笑みとは裏腹に、何か悪意を秘めているように見えたのだ。


「役に入り込んでいるのか?」という疑念が頭をよぎるが、まるで別人に声をかけてしまったかのような気まずさが僕を襲い、言葉をかけることができなかった。


その時、グループのリーダーが「Bグループの人、集まってください。」と号令をかけた。セイラはその声に反応し、再び前を向いた。僕は声をかけるタイミングを失い、ただ彼女の背中を見つめるしかなかった。


「気のせいなのか?」と不安が胸をよぎる。整列している仲間たちの中で、僕はセイラの背中を見つめ続けた。彼女の微笑みの裏に潜む影を感じながら、僕はみんなと一緒に教室の中に入っていった。


教室の扉を開けると、そこには大勢の保護者たちが待ち構えていた。拍手が響き渡り、温かい歓迎の声が僕たちを包み込む。リーダーが前に立ち、劇の説明を始める。その声は緊張感を漂わせ、僕の心臓はドキドキと高鳴った。


セイラのことが少し心配だったが、そんな不安も、保護者の前に立つと一瞬で消え去る。大勢の視線が集まる中、僕は自分に言い聞かせる。「頑張るぞ!」と、気合いを入れる。


リーダーの挨拶が終わると、みんなで声を合わせて「よろしくお願いします!」と、保護者たちに向けて挨拶をする。その瞬間、心の中に高揚感が広がり、期待と緊張が入り混じる。挨拶を終えた僕たちは、一度廊下にはけていく。


劇の幕が上がる

いよいよ、僕たちのグループの劇が始まった。教室の中に、主人公A役の貴子とお城の使用人役の面々が入ってきて、各自の定位置につく。緊張感が漂う中、ナレーション役が声を張り上げる。「むかーし、むかし、ある国の、あるお城に……」その言葉と共に、物語が幕を開けた。


僕の出番は第二幕からだ。台本を手に取り、もう一度段取りとセリフの確認をする。先ほどの出来事が気になり、セイラの方を見ると、彼女は同じグループの女の子と楽しそうに話していた。「やっぱり気のせいかぁ、何だろう?さっきのは……」と疑問が頭を過るが、僕は続けて台本を読みつつ、劇の様子も見守っていた。


劇は順調に進んでいる。第一幕はコメディータッチの内容で、貴子が演じる「アリス姫」が無理難題のワガママを言い放ち、使用人たちを翻弄していく。会場からは笑い声が響き渡り、掴みはバッチリだった。演技が進むにつれて、みんなの集中力が高まり、練習通りに上手くできている。僕も会場からの笑い声に釣られ、自然と笑顔がこぼれた。


そして、いよいよ第一幕のラスト、お姫様が転んで亡くなるシーンに差し掛かる。貴子が「もう!何で私の言う事が聞けないのよ。お前たち、もう首よ!」と使用人たちに言い放つ。その迫真の演技に、会場は静まり返る。


貴子は廊下の方に歩き出し、「キャーア」と大袈裟に声を上げて転んだ。その瞬間、会場に「バチンッ」と大きな音が響き渡った。保護者たちや舞台の使用人役も一斉に静まり、「えっ!なに?」という表情で周囲を見渡す。廊下でその様子を見ていた僕たちも、「えっ!どうしたの?」、「なんの音?」と小声でざわつき始めた。


一瞬、間が空いたが、舞台では「アリス様、大丈夫ですか!」、「アリス様ーぁ」と劇が続けられていた。第一幕は直ぐに終わる、僕たちもすぐに準備に取り掛からなければならない。少し動揺しながらも、第二幕の準備が慌ただしく始まった。


その時、セイラの様子が目に留まった。彼女は会場をじっと見つめ、頬には薄い不気味な笑みを浮かべていた。その表情は、何か不穏なものを感じさせる。


すると第一幕を終えた面々が、会場から引き上げてくる。「なんの音だったの?」と小声で話す彼らを尻目に、僕は会場に入り、第二幕の準備を始めた。ナレーション役が出て、準備が整うまでの時間を稼いでくれる。僕は「何だろう?さっきのセイラの表情は」と思いながら、手早く準備を進めていく。


セイラは大きな箱に入り、登場まで中で待機しなければならない。彼女が箱に入ると、舞台の端の方に運ばれていった。


そして、ついに第二幕が始まった。


主役は交代し、ここからは「めぐみ」がアリス姫の幽霊役を演じることになる。しかし、会場の雰囲気が何かおかしい。第二幕に入ると、第一幕とは打って変わって、徐々にシリアスな話へと変わっていくのだが、冒頭から会場の空気は重苦しい。観客たちの表情も、緊張感に包まれている。


めぐみが舞台に立つと、彼女の声は静かに響き渡った。「えっ!、何これ?私の死んでしまったの……」その言葉が発せられると、会場の空気が一層張り詰めた。僕はその瞬間、セイラの不気味な笑みが頭をよぎり、心の中に不安が広がっていくのを感じた。


そんな中、会場ではさらに不思議な現象が起こり始めていた。教室に飾られていた掲示物が、突然「ドサッ」と音を立てて落ちる。先ほどの音まではいかないものの、「パチッ、パチッ」とまるで電気が弾けるような乾いた音が、時折響いていた。


その度に、会場にいる保護者たちは周囲をキョロキョロと見渡し、少しざわつき始めていた。彼らの不安が伝染するように、会場の雰囲気は一層緊張感を増していく。そんな状況の中、めぐみは演技を続けていたが、彼女の声には少し動揺が混じっているのか、セリフが固く感じられた。


廊下の方で舞台を見守っていたクラスメイトたちも、次第に不安を抱え始めた。「少しおかしくない?」、「なんかヤバくない?」と、動揺する者が現れ、彼らの視線は舞台から離れ、周囲の異変に向けられていく。


僕もその雰囲気に飲まれそうになりながら、出番を待っていた。心の中で不安が渦巻くなか、ついに、僕の出番がやってきた。緊張と期待が入り混じる中、僕は一歩前に出た。



今の場面は、アリス姫が街中に出て、自分のワガママを聞いてくれる者を探すシーンが展開されていた。


幽霊役の面々は散り散りに所定の位置に着き、僕は幽霊の演技をしながら、お姫様から声をかけられるのを待っていた。


会場の雰囲気は、やはりおかしかった。舞台に立つと、その違和感が一層際立つ。時折聞こえる「パキッ」、「ガタッ」という物音が気になり、会場を包み込む重苦しい空気に押し潰されそうな感覚に襲われた。


その時、視界の端にセイラの祖母、月静さんの姿が映った。いつの間にか来ていたのだ。「月静おばちゃん、間に合ったんだ!」と少し安堵したが、彼女の表情はいつもとは違っていた。真剣な眼差し……、怒ったような険しい表情が、僕の心に不安を呼び起こす。


「何だ、あの表情?」と疑問に思っていると、お姫様役のめぐみが声を張り上げた。「あら!そこの貴方。私はこの国の姫なのよ!私の言う事を聞いてちょうだい。」その言葉が、僕に向けられた。


いよいよ僕のセリフだ。僕は一歩前に出て、堂々と宣言した。「姫さま?もうそんなものは関係ないね。私たちは幽霊なんだ!自由な私たちにはそんな威厳は通用しないよ。」上手く言えた。内心、安心していると、客席から強い視線を感じた。目を向けると、月静さんの何か訴えるような真剣な眼差しで僕を見つめていた。


劇は続いている。元の位置に戻り、再び月静さんの方を見た。お姫様役のめぐみちゃんの声が会場に響く中、僕は月静さんと目が合った。彼女は何かを伝えようとしているのか、幽子が入っている箱の方に視線を移し、軽く首を二回振った。


その意味は分からなかったが、セイラに異変が起きていることは伝わってきた。そして同時に、この会場で起こっていることが、気のせいではなく本物の心霊現象であることも理解してしまった。


月静おばちゃんは、セイラと同じく霊感を持つ人だ。その彼女が僕に何か異変を伝えようとしているのは、もうそれ以外考えられなかった。


僕自身も、教室で起こっていた異変について心霊現象なのかと疑ってはいたが、初めて体験する心霊現象に対して、怖さを紛らわすために否定していたのだろう。


オカルト好きと言いながら、「自分の周りでは起きない」、「自分は霊感はないから大丈夫」と、他人事のように考えていた。しかし、今、目の前で起こっている現実は、もはや否定できないものだった。


ただ、今の僕にはどうすることもできなかった。劇は進行中で、中断など許されない。高鳴る心臓の音を感じながら、僕は舞台の行く末を見守るしかなかった。


その時、廊下から「はぁ、幽霊って暇だなぁ」という声が響き、秀之が演じる男の子の幽霊役が軽やかに棒を振りながら入ってきた。


彼の役は、生前に騎士になることを夢見ていた少年で、お姫様の幽霊と出会い、彼は木の棒を高く掲げ、「僕は騎士になることを夢見ていました。こんなところでお姫様と出会えるとは。」と、忠誠を誓うシーンを演じる。


そしてお姫様の幽霊を演じるめぐみが、優雅に微笑みながら「幽霊って面白くないですわ!貴方、何か面白いものを見つけてきてちょうだい。」その無理難題に秀之は、セイラが演じる「幽子」を紹介すると言うシーンになる。


そして、まさに今、めぐみと秀之はそのシーンを演じている。セイラが演じる「幽子」との出会いのシーンが、もうすぐやってくる。


僕は、先ほどの月静おばちゃんのことが頭から離れず、嫌な汗が流れ落ちていった。舞台の上では、秀之とめぐみのやり取りが続いているが、僕の心は不安でいっぱいだった。


そして、二人はいよいよ、セイラが隠れている箱の近くまで来ていた。予定では、お姫様役のめぐみが「何よ、この汚い箱は!」と言って箱を蹴る。それを合図に、セイラが勢いよく箱から飛び出し、「バーーァ」とお姫様を脅かすというシーンだった。


秀之とめぐみのやり取りが終わり、いよいよめぐみがセリフを言い終え、箱を蹴る。


しかし……、セイラは姿を表さない。


段取りが狂ってしまった。僕は心配になりつつも、「どうしたの?セイラ」と思いながら、様子を伺った。


箱の近くにいるめぐみと秀之も、セイラの登場を待っているが、彼女は一向に出てこない。会場が少しざわつき始め、秀之の表情には焦りが見えた。


そんな時、めぐみが機転を利かせ、アドリブで「何も起こらないじゃないの、何よこんな箱!」と、先ほどよりも強めに箱を蹴り上げた。


すると……。


箱の中から「スーーゥ」と、セイラがゆっくりとうつむいたまま姿を現した。


段取りが全く違う。周囲の幽霊役のみんなも何が起こっているのか分からず、不安な表情を浮かべてそのやり取りを見守っていた。


立ち上がり一瞬、間を置いたセイラがめぐみと秀之の方にゆっくりと顔を上げると、彼らはまるで金縛りにでもあったかのように動きを止め、やがて手が震え始めた。


何が起こっているのか、自分の角度からはよく分からない。めぐみの頭が邪魔で、セイラの表情が見えなかった。


そして、セイラがゆっくりと手を上げると、めぐみは耐えきれなくなったのか、「キャーーァ」と悲鳴を上げて教室から逃げ出していった。あまりの出来事に、僕は唖然としてめぐみを目で追った。


すると、めぐみがいなくなった正面から異様な気配を感じる。僕は恐る恐る再びセイラのいる正面に目を移すと、そこにいたのは……、


セイラではなかった。



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