Report0 プロローグ~僕の変わった友人
読者皆様始めまして、作者のしんいちと言います。
これより本編が始まります。
先ずは主人公、二人の出会いの話になります。
どうぞお楽しみください。
彼女との出会いは、小学校二年生の春休みのことだった。数日後には三年生に上がるという、黄昏時の静けさが漂うある日のことだ。
僕はいつものように、近所にある合気道の道場へと足を運んでいた。日中の春の心地よい温かさとは裏腹に、夕方を過ぎたこの時間は、少し肌寒さを感じさせる。道着を身にまとった僕は、「上着を着てくれば良かったかな?」と、心の中でつぶやきながら、町の風景を眺め歩いていた。
街路灯の柔らかな光に照らされた桜の木々は、薄いピンクの花を開き始めていた。春の訪れを告げるその姿は、まるで夢の中のように幻想的で、心を和ませる。まだ五分咲きといったところだが、街路灯の光を浴びた桜の花は、どこか神秘的で、見る者を魅了してやまなかった。
道場の入り口にたどり着くと、道場には明かりが灯っていて、道場の中から賑やかな声が漏れ聞こえていた。そんな中、入口の脇には、三つの人影が立って何か話をしているようだった。
中央に立つのは、この道場の主、「白石先生」だった。少し細身の小柄な先生だがいつも優しく、丁寧にいつも指導してくれる良い先生だ。
その隣には、近所で見たことがある女性が立っていた。
皆から「月静さん」とか「月静おばさん」と、呼ばれている中年の女性が親しそうに先生と話していた。
そして月静さんの横で、彼女の袖をつかんでいる黒髪の少女が二人の会話をつまらなそうに上を見上げて立っていたのだ。
子供たちの笑い声や、大人たちの談笑が入り混じり、心地よい騒音が耳に届く。
僕は、にこやかに会話を続ける白石先生と月静さんの横を、「先生、こんばんは」と、邪魔をしないように軽く挨拶をしながら通り過ぎていった。
すると白石先生が「しんいち!しんいち、ちょっと!」と呼び止めた。
僕が振り返ると、にこやかな笑顔の先生が手招きしている。僕は「はい?」と疑問に思いながらも元気に返事をし、先生の元へ駆け寄っていく。
「しんいち、紹介するよ。今度、道場に入る『佐々木 星空』さんだ。君の家の近所に引っ越してきたばかりで、君と同い年みたいだから、仲良くしてあげてね。」
先生はそう言うと、僕の隣にセイラと呼ぶ少女を連れてきた。
「星空さん、こちらは『杉本 真一くん』だよ。道場の一年先輩だから、色々教えてもらってね。」と、先生から紹介を受けて、僕はセイラと言う少女に目を移した。
彼女は、艶やかな黒髪のロングヘアーで、人形のように整った顔立ちをしていた。子供ながらに「綺麗な子だなぁ。」と僕は見惚れてしまった。
しかし、僕を見つめる彼女の瞳は、威嚇するようにキッとこちらを睨んで、人を寄せ付けないオーラを全開に纏っていた。僕は「うぁ!怖い子だなぁ。」と内心悲鳴を上げていた。
その時、先生の隣に立っていた月静さんが、僕の顔をじっと見つめて言った。
「あら、杉本さん家の子かい。今度、家にに引っ越してきた、私の孫のセイラだよ。まだ引っ越したばかりで友達がいないから、仲良くしてあげてね。」
月静さんは笑顔で僕にそう言うと、僕は「あっ、はい!」と元気良く返事をし、改めてセイラを見つめた。
セイラは、僕を見つめる瞳をさらにキッとさせ、威嚇するように睨みつけてきた。僕は「やっぱり怖い子だ…。」と改めて思った。
これが、のちに「幽子」と呼ばれる事になる少女との出会いであった。そして、これから多くの事件に関わっていくことになる相棒との、ちょっと苦い出会いでもあった。
二人の大人に頼まれたものの、正直なところ、当時の僕はセイラとの関係に戸惑っていたのだ。
彼女は僕が何を話しかけても、「フン!」と横を向き、無視を決め込んでいたからだった。
それでも、彼女が纏う人を寄せ付けない雰囲気にはすぐに慣れてしまっていた。馬鹿正直な僕は、先生の頼み事を無下に出来ず、「うぁ、怖いなぁ」と思いながらも渋々、彼女に話しかけていたと思う。
そんな二人の状態が続く中、僕は次第に彼女の置かれている状況に気付いていった。道場の送り迎えはいつも月静おばさんと一緒で、彼女の両親を見たことがなかったのだ。
さらに、学校ですれ違っても彼女はいつも一人で、教室の横を通った時には、窓の外を寂しそうに眺める彼女の姿を目撃してしまったのだ。
流石の僕も、子供ながらに彼女には複雑な事情があるのではないかと察し、「よし!僕が絶対に彼女の心を開いて友達になってやろう。」と一大決心をしたのだった。
それからの僕は、彼女と仲良くなろうと必死に頑張った。無視をされようが、何度も話しかけ続けた。きっと多少意地になっていたのもあるのだろう。
友達のこと、変わった母のこと、流行りの漫画やアニメのこと、学校の先生に怒られたこと、好きなオカルトのこと、何でも話したと思う。
学校にも彼女を誘って行き、合気道の道場では一緒に乱取りをしたり、技を教えてあげたりもした。すると、彼女も面倒臭そうにではあるが、次第に僕の問いかけに答えてくれるようになっていった。
その小さな変化に、僕は心の中で小さな喜びを感じていた。彼女との距離が少しずつ縮まっていることを実感し、彼女が答えてくれる度に心のなかで「よし!」とガッツポーズをしていたのだ。
そんな時だった。
当時、僕とセイラは合気道の道場の行き帰りをいつも一緒にするようになっていた。帰り道はいつも彼女の家まで送り、その後に近所にある僕の家に帰るのが習慣になっていたのだ。
そんなある日の帰り道、突然「おい!しんいち。」初めて彼女の方から声をかけられた。
その瞬間、僕は驚きで目を丸くし、セイラは立ち止まり、「少し話がある。」と言った。
そして彼女は自分に纏わる特別な能力、「霊感」について打ち明けてくれたのだった。
その話を聞いた瞬間、僕の胸は高鳴り始めた。「うわ!マジで」と、思わず感嘆の声を上げてしまったのだ。
僕は昔からオカルトが大好きだった。不思議な話や怖い話、奇妙な話を聞くたびに、いつもワクワクしていた。僕の部屋には、両親にねだって買ってもらったオカルト本が何冊も並んでいる。
しかし、僕の周りにはそんな話をできる友人が一人もいなかった。時には耳を塞ぎ、激しく恐がる者もいれば、そんなものはないときっぱり否定する者、さらには馬鹿にする者もいた。
そんな中で、目の前に霊感を持つという人物がいるのだ。
僕の胸の高鳴りは最高潮に達し、「えっ!本当に?」、「どんなものが見えるの?」、「怖い体験あるの?」、「えぇ!教えてよ!」と、気づいた時には彼女に矢継ぎ早に質問を投げかけていた。
僕の反応に焦ったセイラは「えっ!えっ!」と明らかに戸惑いの表情をしていた。
目は泳ぎ、「ちょっと待て!ちょっと待て!待てって。」と動揺しながら僕の質問をかわしていく。
セイラに止められた僕は「なんだよぉ?」と不満の声を上げた。
セイラは「ゼェ、ゼェ、ゼェ、ゼェ」と息を荒げ「お、お前、おかしいんじゃないのか?霊感あるんだぞ。普通は怖がるものだろ?」と、どこか期待を裏切られたように、不思議そうな顔を僕に向けてきた。
僕は「はぁ!なに言ってるのさぁ。霊感だよ!マジで凄いじゃん。」と、沸き上がる思いを抑えられずに「それでさぁ、幽霊ってどんな感じに見えるの?」と質問を続けようとする。
セイラは「ちょっと待て!ちょっと待て!落ち着け、しんいち。」と再び僕を制する。
僕は、お預けをくらったライオンのように「なに!」と不満を露わにした。
セイラは僕を諭すように「良いかしんいち。霊感だぞ、私は幽霊が見えるんだ。時には危ない奴も近寄ってくることもあるし、回りに迷惑かける事もあるんだ。普通はなぁ、私の事を怖がって近寄らないものなんだ。そもそも私に友達がいないのもこの霊感のせいなんだぞ。」と、捲し立てるように僕に言い聞かせてきた。
そんな彼女に、僕はあっけらかんと「それが?」と答えた。「人は人だよ。俺、怖くないし。」とさらりと言うと、セイラは唖然としていた。
そんな彼女の様子を見て、僕はさらに言葉を重ねた。
「それに、俺たちもう友達じゃん。友達がいないなら、ずっと僕がそばにいるよ。」
その言葉を聞いたセイラは、まるで憑き物が落ちたかのように目をパチクリさせ、「もう勝手にしろ。」と振り向き、何か怒ったように歩き出した。
「待ってよ、良いじゃんちょっと聞かせてよ。」
僕はその後もしつこく彼女に問いかけていた。
それからも、セイラに会うたびに僕は霊感や怖い話について尋ね続けた。後に彼女から聞かされたのだが、「当時のお前はストーカーのようで怖かったぞ。」と言われ、反省しつつもショックを受けたことがあった。
ただ、その頃からだろうか。セイラが僕に話しかけるようになったのは。彼女の表情は柔らかくなり、笑顔を見せることも増えていった。彼女の笑顔を見るたび、何故か僕は嬉しくなってしまう。
そんな彼女とは、高校生になった今でも友人であり、謎を解決していく相棒でもあり、小学5年生から同じクラスのクラスメイトでもある。
ただ、これに関しては、何か他の意志が介在しているのか、はたまた呪いなのか、少し戦々恐々としている。
現在の彼女は、「不言不語の術」と名付けた人見知りのオーラのせいで、相も変わらず友達は少ないが、それでも以前に比べて人と接するようになり、自分以外にも友人が少なからずできて、今ではみんなから「幽子」と呼ばれる少し変わった女の子に成長していた。
そんな幽子とは、今後様々な不思議な事件に関わっていくことになっていく。失敗もあり、嫌な目にあったこともあったが、その一つ一つが自分たちを成長させ、次へと繋がっていくことを信じている。
そんな幽子と一緒に体験した事件の数々をこれから語っていきたいと思う。
お読み頂きありがとうございます、お楽しみいたたけたでしょうか?
これから二人の物語が始まります。
二人が高校生になり様々な事件に関わっていきます。
二人の成長する姿をお楽しみ頂けると嬉しくおもいます。
もし宜しければ応援よろしくお願いいたします。