第1章「湯けむりと追憶の夜」
からめるです!
これで仲間が全員揃います。
楽しく読んでいただけますと幸いです。
「あなたが、噂の新入りね?」
女性が口を開く。その声は落ち着いていながらも、どこか鋭さを含んでいた。
シエルは思わず姿勢を正す。
(この人……ただ者じゃない)
そんな予感が、胸の奥に芽生えた――。
ーーーーー
「んもぉ〜!かわい〜〜っ!」
唐突に飛びつかれ、豊満な胸元に顔をうずめられる。
「むぐっ……な、なにこれっ……」
予想外の展開に、シエルの思考が一瞬で停止する。
「こいつは、バルナ。俺たちの仲間だ」
ヴォルドの声がすぐそばから聞こえた。
「リラさんの弟子だった」
その言葉に、シエルはバルナの腕の中で目を見開く。
「お母さんの……?」
「そうよ! 私、リラさんの弟子だったの!あなた、リラさんにそっくりね!」
「もぉ〜早く会いたくて会いたくて、夜しか眠れなかったのよ!それにしても可愛すぎっ!」
そのままテンション高く語るバルナは、くるりとヴォルドの方を見て叫んだ。
「なのにあの“腹黒姫”とこの“泣き虫木偶の坊”ときたら!私をこき使うのよ〜〜〜!癒して、シエルちゃ〜ん!」
ヴォルドは苦笑いを浮かべながら言う。
「その呼び方をやめろっての……」
「無理よぉ。私の中ではあなたはずっと泣き虫の……」
二人のやりとりを、シエルはバルナの胸に抱かれながら見上げる。どこか微笑ましいその姿は、美男美女という言葉がぴったりで——
(お似合い、だなぁ……)
そう思った瞬間、シエルの胸の奥が、きゅっと締め付けられる。
(……なに、今の……?)
自分の気持ちに戸惑いを覚えながら、首を振って気持ちを振り払う。
(そんなことより——)
「バルナ……さん! お母さんのことを、聞かせて!」
抱きしめられたままの状態で、シエルは強く問いかけた。
「バルナ“さん”じゃなくて、バルナって呼んで!もしくは“お姉ちゃん”でもいいのよっ!」
(……なんかこのノリ、どこかで……)
ガンツの顔が脳裏をよぎる。
(ここのメンバー、変な人多いなぁ……)
「……じゃあ、バルナ。私、お母さんのこと知りたいの!」
シエルが真剣な表情を浮かべて言い直すと、バルナは一瞬だけ穏やかな目をして、優しく微笑んだ。
「いいわよ」
そう言うと、くるっとシエルの肩に腕を回しながら、
「じゃあ、こんなやつは置いといて——お風呂に入りながら話しましょ!」
「えっ……お風呂?」
「よし、決まりっ! あ、そうだわ!リィナも連れて行こっ! ああああ……かわいい子に囲まれてお風呂なんて、私はなんて贅沢なのぉ〜〜!」
シエルは抵抗する間もなく、そのまま抱き抱えられて引きずられていく。
「ヴォルド……助けて……」
視線で懇願するが、ヴォルドは笑顔で手を振るだけ。
(……もう、だめだ)
リィナの部屋の前に到着すると、バルナは「ちょっと待っててね」と扉に手をかける。
しかし鍵がかかっていた。
一瞬だけ沈黙が流れ——バルナの手元が仄かに光る。
(魔法……?)
カチャリ、と音を立てて鍵が外れ、バルナは勢いよくドアを開け放った。
「リィナ!会いたかったわぁ〜〜!」
「ぎゃあああぁぁぁあ!!」
リィナの悲鳴が部屋中に響く。
「相変わらず可愛いわぁ! あなたも任務から帰ってきたばかりでしょ? 一緒にお風呂に入るわよっ!」
「貴様はいつもいつもいつも勝手に入ってきおってぇぇ!」
「そんな怒った顔も可愛いわ!」
「離せっ!わしは風呂の気分じゃないんじゃこの肉の塊めぇ!」
「あなたが大きくなれば私と変わらないじゃない〜」
バルナは笑顔のまま、がっしりとリィナを抱き上げて運び出す。
(……やっぱこの人やばい)
シエルは心の中で呟くのだった。
そして、浴場——
三人で湯船に浸かっている。
「最高じゃぁ〜〜」
さっきまで抵抗していたリィナは、今やすっかり湯の中で脱力していた。
シエルはふと、ガンツとシュウの覗き事件を思い出し、キョロキョロと辺りを見渡す。
その様子を見たバルナが、にこっと笑って言った。
「大丈夫よ。“あの変態ジジイ”——」
一瞬だけ真顔になったが、すぐに笑顔に戻って続けた。
「とシュウは、今は任務でいないわ」
「……そ、そうですか」
「まぁ、シュウはあんなにかわいいんだから、コソコソせずに頼めば裸ぐらい見せてあげるのにねぇ?」
「は、ははは……」
「冗談よっ♪」
そう言って笑うバルナが、ふと尋ねる。
「そういえば、シエルは好きな人いないの?」
「す、好きな人……?」
シエルは視線を泳がせたあと、一瞬、ヴォルドの顔が脳裏に浮かぶ。
(胸がザワザワする……なんでだろ……)
首をぶんぶん振ってから、シエルは真っ赤な顔で答えた。
「い、いないですっ……」
「えぇ〜もったいない!そんなに可愛いのに!」
「じゃあ、シュウはどう?顔はとても良いし、あなたたち、すっごく“お似合い”よ?」
「……性格は……まぁ、アレだけどね。だけど、素敵な子よ」
シエルはスリーサイズを聞かれたこと、覗かれた記憶を思い出す。
「……ありえないですね」
ピシャリと言い切る。
「今は…そんなことより、誰よりも強くなって、この国を少しでも良くしなきゃ!」
「……もぉぉぉぉ!そんなところも好きぃぃぃ!」
また抱きついてくるバルナを押し返し、シエルは言った。
「それより、お母さんの話!聞かせて!」
「はいはい、分かったわよ」
バルナは湯船のふちに手をかけ、語り出す。
「さっきも言ったと思うけど、私はリラさんの弟子で、魔法やルーン魔術を教えてもらってたの。ヴォルドはカイさんの弟子でね。私たちは、まあ年も近かったし、兄妹みたいな感じだったわ」
「……」
シエルは静かに聞き入る。
「リラさんは王国騎士団の団長だったの。女性でありながら、魔法とルーンを使って、団員たちの信頼も厚くて……厳しかったけど、とても優しい人だった。あなたと同じ——“誰かのために戦う”って人だったわ」
「……」
「でもね、あなたを身ごもる頃からかしら。リラさんがふと、思い詰めたような顔をするようになって……」
(……なにがあったの……)
心の中で呟く。
「それからよ。ヴォルドも、カイさんの様子がおかしいって言ってたわ。そして——国から国家転覆を企てたって、指名手配されたの」
(やっぱり、何かに巻き込まれたんだ……)
シエルの脳裏に、ヴォルドの言葉がよみがえる。
“ある場所”——
「そういえば、ヴォルドが“ある場所”って——」
言いかけたその時。
「みなさま、お揃いで」
優雅な声と共に、湯けむりの向こうからエリィが現れた。
「私もご一緒しても?」
「エリィ!もちろんよ!お帰りなさい〜〜♡」
「わしはもう出るぞ!」
即座に立ち上がろうとするリィナの肩を、バルナががっちり捕まえる。
「離せっ、この肉怪獣ぅぅぅ!」
「だめよ!もう!」
(……聞きそびれちゃった)
シエルは心の中でため息をついた。
「ところで、エリィ〜」
にやっと笑ったバルナが、まるで打ち合わせでもしたかのように言う。
「私はね、シエルとシュウ、すごくお似合いだと思うのよっ。エリィはどう思う?」
「まぁ、わたくしもそう思いますわ。お二人とも素敵ですし♪」
「ちょっとっ!バルナ!エリィまで!?さっきも言ったけど、ありえないわ!」
四人の女子風呂は、やかましくも華やかなガールズトークに包まれていく。
そしてその後——
「今日の夜、シュウさんとガンツ様が戻って来られますので、ちょうど全員揃いますわね♪」
エリィの提案により、シエルの歓迎会が開かれることとなった——。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!
初登場のバルナ、いかがでしたか?明るく見えて、実はかなり重要キャラです!
次回はいよいよ、アジトに全員集合。あの“男子チーム”も帰還して……
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