表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/17

第1章「湯けむりと追憶の夜」

からめるです!

これで仲間が全員揃います。

楽しく読んでいただけますと幸いです。

「あなたが、噂の新入りね?」


 女性が口を開く。その声は落ち着いていながらも、どこか鋭さを含んでいた。


 シエルは思わず姿勢を正す。


 (この人……ただ者じゃない)


 そんな予感が、胸の奥に芽生えた――。


ーーーーー


 「んもぉ〜!かわい〜〜っ!」


 唐突に飛びつかれ、豊満な胸元に顔をうずめられる。


 「むぐっ……な、なにこれっ……」


 予想外の展開に、シエルの思考が一瞬で停止する。


 「こいつは、バルナ。俺たちの仲間だ」


 ヴォルドの声がすぐそばから聞こえた。


 「リラさんの弟子だった」


 その言葉に、シエルはバルナの腕の中で目を見開く。


 「お母さんの……?」


 「そうよ! 私、リラさんの弟子だったの!あなた、リラさんにそっくりね!」


 「もぉ〜早く会いたくて会いたくて、夜しか眠れなかったのよ!それにしても可愛すぎっ!」


 そのままテンション高く語るバルナは、くるりとヴォルドの方を見て叫んだ。


 「なのにあの“腹黒姫”とこの“泣き虫木偶の坊”ときたら!私をこき使うのよ〜〜〜!癒して、シエルちゃ〜ん!」


 ヴォルドは苦笑いを浮かべながら言う。


 「その呼び方をやめろっての……」


 「無理よぉ。私の中ではあなたはずっと泣き虫の……」


 二人のやりとりを、シエルはバルナの胸に抱かれながら見上げる。どこか微笑ましいその姿は、美男美女という言葉がぴったりで——


(お似合い、だなぁ……)


 そう思った瞬間、シエルの胸の奥が、きゅっと締め付けられる。


(……なに、今の……?)


 自分の気持ちに戸惑いを覚えながら、首を振って気持ちを振り払う。


(そんなことより——)


「バルナ……さん! お母さんのことを、聞かせて!」


 抱きしめられたままの状態で、シエルは強く問いかけた。


 「バルナ“さん”じゃなくて、バルナって呼んで!もしくは“お姉ちゃん”でもいいのよっ!」


(……なんかこのノリ、どこかで……)


 ガンツの顔が脳裏をよぎる。


(ここのメンバー、変な人多いなぁ……)


 「……じゃあ、バルナ。私、お母さんのこと知りたいの!」


 シエルが真剣な表情を浮かべて言い直すと、バルナは一瞬だけ穏やかな目をして、優しく微笑んだ。


 「いいわよ」


 そう言うと、くるっとシエルの肩に腕を回しながら、


 「じゃあ、こんなやつは置いといて——お風呂に入りながら話しましょ!」


 「えっ……お風呂?」


 「よし、決まりっ! あ、そうだわ!リィナも連れて行こっ! ああああ……かわいい子に囲まれてお風呂なんて、私はなんて贅沢なのぉ〜〜!」


 シエルは抵抗する間もなく、そのまま抱き抱えられて引きずられていく。


「ヴォルド……助けて……」


 視線で懇願するが、ヴォルドは笑顔で手を振るだけ。


(……もう、だめだ)


 リィナの部屋の前に到着すると、バルナは「ちょっと待っててね」と扉に手をかける。


 しかし鍵がかかっていた。


 一瞬だけ沈黙が流れ——バルナの手元が仄かに光る。


(魔法……?)


 カチャリ、と音を立てて鍵が外れ、バルナは勢いよくドアを開け放った。


 「リィナ!会いたかったわぁ〜〜!」


 「ぎゃあああぁぁぁあ!!」


 リィナの悲鳴が部屋中に響く。


 「相変わらず可愛いわぁ! あなたも任務から帰ってきたばかりでしょ? 一緒にお風呂に入るわよっ!」


 「貴様はいつもいつもいつも勝手に入ってきおってぇぇ!」


 「そんな怒った顔も可愛いわ!」


 「離せっ!わしは風呂の気分じゃないんじゃこの肉の塊めぇ!」


 「あなたが大きくなれば私と変わらないじゃない〜」


 バルナは笑顔のまま、がっしりとリィナを抱き上げて運び出す。


(……やっぱこの人やばい)


 シエルは心の中で呟くのだった。


 そして、浴場——


 三人で湯船に浸かっている。


 「最高じゃぁ〜〜」


 さっきまで抵抗していたリィナは、今やすっかり湯の中で脱力していた。


 シエルはふと、ガンツとシュウの覗き事件を思い出し、キョロキョロと辺りを見渡す。


 その様子を見たバルナが、にこっと笑って言った。


 「大丈夫よ。“あの変態ジジイ”——」


 一瞬だけ真顔になったが、すぐに笑顔に戻って続けた。


 「とシュウは、今は任務でいないわ」


 「……そ、そうですか」


 「まぁ、シュウはあんなにかわいいんだから、コソコソせずに頼めば裸ぐらい見せてあげるのにねぇ?」


 「は、ははは……」


 「冗談よっ♪」


 そう言って笑うバルナが、ふと尋ねる。


 「そういえば、シエルは好きな人いないの?」


 「す、好きな人……?」


 シエルは視線を泳がせたあと、一瞬、ヴォルドの顔が脳裏に浮かぶ。


(胸がザワザワする……なんでだろ……)


 首をぶんぶん振ってから、シエルは真っ赤な顔で答えた。


 「い、いないですっ……」


 「えぇ〜もったいない!そんなに可愛いのに!」


 「じゃあ、シュウはどう?顔はとても良いし、あなたたち、すっごく“お似合い”よ?」


 「……性格は……まぁ、アレだけどね。だけど、素敵な子よ」


 シエルはスリーサイズを聞かれたこと、覗かれた記憶を思い出す。


 「……ありえないですね」


 ピシャリと言い切る。


 「今は…そんなことより、誰よりも強くなって、この国を少しでも良くしなきゃ!」


 「……もぉぉぉぉ!そんなところも好きぃぃぃ!」


 また抱きついてくるバルナを押し返し、シエルは言った。


 「それより、お母さんの話!聞かせて!」


 「はいはい、分かったわよ」


 バルナは湯船のふちに手をかけ、語り出す。


 「さっきも言ったと思うけど、私はリラさんの弟子で、魔法やルーン魔術を教えてもらってたの。ヴォルドはカイさんの弟子でね。私たちは、まあ年も近かったし、兄妹みたいな感じだったわ」


 「……」


 シエルは静かに聞き入る。


 「リラさんは王国騎士団の団長だったの。女性でありながら、魔法とルーンを使って、団員たちの信頼も厚くて……厳しかったけど、とても優しい人だった。あなたと同じ——“誰かのために戦う”って人だったわ」


 「……」


 「でもね、あなたを身ごもる頃からかしら。リラさんがふと、思い詰めたような顔をするようになって……」


 (……なにがあったの……)


 心の中で呟く。


 「それからよ。ヴォルドも、カイさんの様子がおかしいって言ってたわ。そして——国から国家転覆を企てたって、指名手配されたの」


(やっぱり、何かに巻き込まれたんだ……)


 シエルの脳裏に、ヴォルドの言葉がよみがえる。


 “ある場所”——


 「そういえば、ヴォルドが“ある場所”って——」


 言いかけたその時。


 「みなさま、お揃いで」


 優雅な声と共に、湯けむりの向こうからエリィが現れた。


 「私もご一緒しても?」


 「エリィ!もちろんよ!お帰りなさい〜〜♡」


 「わしはもう出るぞ!」


 即座に立ち上がろうとするリィナの肩を、バルナががっちり捕まえる。


 「離せっ、この肉怪獣ぅぅぅ!」


 「だめよ!もう!」


(……聞きそびれちゃった)


 シエルは心の中でため息をついた。


 「ところで、エリィ〜」


 にやっと笑ったバルナが、まるで打ち合わせでもしたかのように言う。


 「私はね、シエルとシュウ、すごくお似合いだと思うのよっ。エリィはどう思う?」


 「まぁ、わたくしもそう思いますわ。お二人とも素敵ですし♪」


 「ちょっとっ!バルナ!エリィまで!?さっきも言ったけど、ありえないわ!」


 四人の女子風呂は、やかましくも華やかなガールズトークに包まれていく。


 そしてその後——


 「今日の夜、シュウさんとガンツ様が戻って来られますので、ちょうど全員揃いますわね♪」


 エリィの提案により、シエルの歓迎会が開かれることとなった——。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

初登場のバルナ、いかがでしたか?明るく見えて、実はかなり重要キャラです!


次回はいよいよ、アジトに全員集合。あの“男子チーム”も帰還して……


感想やお気に入り登録、励みになりますのでぜひよろしくお願いします

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ