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第1章「暴走少女と紅き嵐」

カラメルです!

リィナが活躍?します。

楽しく読んでいただけますと幸いです。

 「わしは疲れた……おんぶしてくれ」


 リィナは当然のように言い放つ。


 「はぁ~~またか……」


 シエルはため息をつきつつ、無言で背中を差し出した。

背負われながらうとうとし始めたリィナを感じつつ、シエルは思う。


(出発してからずっとこんな感じよね、リィナって……)


そして、あの日からの出来事が頭をよぎる――


 ――モンスターが現れても寝そべったままお菓子をつまみ、戦おうともしない。少し目を離せばふらりとどこかへ消えるし、野営の夜は見張りもせずに爆睡。何度起こしても起きなかった。むしろ「眠りの邪魔をするな」と睨まれたのはこっち。


 シエルは、じっと背中の重みを感じながら、ため息をもう一度ついた。


 (ヴォルドに任されたけど……ほんとに大丈夫なのかしら、この人)


 しかも今回の任務は、ただの見回りや探索ではない。


 最近勢力を増している盗賊団の討伐。相手は魔物ではなく“人”。しかも生け捕りではなく“討伐”――。生死を問わぬ戦いに、シエルの胸は重く沈む。


 「慣れないな…」


 ボソリと呟くシエル。


 丘を登り切ると、視界が開ける。遠くに、山陰に溶け込むような“村”が、静かに広がっていた。人の営みとは思えない、不気味な沈黙が辺りを支配している。


 「……この“村”が、盗賊団の潜伏先ね」


 (ヴォルドの話だと、この辺りを管轄してる貴族が、盗賊団に賄賂をもらってこの村ごと貸してるって……)


 「貴族……クズね」


 シエルは望遠鏡を取り出し、村の様子を観察する。


 ――見張り塔は四棟。各塔に二人ずつ、合計八人。家屋はおよそ三十棟。目に見える範囲に八十人ほど。外に出ている者を加えれば、百人規模と見て間違いない。


 (ボスらしき人物は……)


 視線を動かしていくと、村の広間が見えた。そこには――


 「っ……!」


 大量の死体の山が、無造作に積まれていた。


 「こいつら……罪のない人たちを……」


 シエルの手が、怒りに震える。奥歯を噛みしめ、怒りを押し殺しながら再び望遠鏡を覗き込む。


 ――ボスらしき人物は見つからない。しばらく様子を見るしかないか。


 望遠鏡を下ろし、シエルは静かに夜を待つことにした。


 数時間後――


 夜の帳が降りる頃、村が騒がしくなり始める。広間には大勢の団員たちが集まり、戦利品らしきものを囲んで宴を開いていた。酒をあおり、肉をむさぼり、死体の山にはさらに新しい遺体が積まれている。隅には捕らえられた人々の姿も。


 「……今はまだ動けない。でも、夜中なら……」


 そう判断した瞬間――


 「ふわぁ……ここはどこだ? もう着いたのか?」


 突然、眠っていたリィナが目を覚ました。


 「ええ、あれが盗賊団の村よ」


 シエルが指さすと、リィナは目を輝かせて村を見下ろした。


 「やっとか! 狩りの時間だ!!」


 雄叫びを上げ、爆発的な勢いで斜面を駆け下りていく。


 「ちょ、ちょっと!? 今はダメよ!!」


 シエルの叫びも届かない。


 呆然と立ち尽くし、頭を抱える。


 (嘘でしょ……!?)

 「もうっ!!」


 頭を抱え、渾身の怒声を放つと、シエルは一息で駆け出した。暴走するリィナを止めるために――いや、もう止められないかもしれない。その覚悟を抱きながら、足を速める。


そのとき、村の方角から——


 「バコォォォン!!」


 爆音が轟いた。空気が震え、土が舞い上がる。


 「やば……!」


 シエルの背筋が凍る。音のした方へと走ると、視界に飛び込んできたのは、無残に崩壊した村の塀だった。木片が刺さり、地面は抉られ、爆風の名残がまだ残っている。


 (まさか……リィナが!?)


 恐る恐る足を進める。やがて村の広間が見えてくると、途中に転がる異様な光景が目に入る。


 「っ……なに、これ……?」


 地面に転がるのは、二種類の死体。ひとつは、胴体から真っ二つに裂かれた盗賊たち。もうひとつは、肌が干からび、骨と皮だけになったような骸。


 (まるで……何かに吸い取られたみたい……)


 広間の入り口を越えたその先——


 そこには、漆黒の長髪をたなびかせ、大剣を構える女の後ろ姿があった。美しくも禍々しいその気配に、シエルは思わず足を止める。


 「誰……?」


 団員たちがその女に向かって襲いかかる。シエルは咄嗟に双剣を抜き、助太刀に飛び込もうとした。


 (間に合わない……!)


 しかし次の瞬間、女は静かに笑った。


 「——ははは」


 大剣が一閃されると、襲いかかっていた団員たちの胴体がまとめて裂け飛び、血飛沫が花のように舞い散った。床が鮮血で染まり、残った団員たちは恐怖に引き攣った声を上げ、後ずさる。


 女はゆっくりと、一人の足だけを切られてもがく団員の首を掴み、持ち上げた。


 「≪魔喰ドレイン≫——」


 その一言と共に、団員の肉体がみるみる干からびていく。


 「……なに、それ……!」


 シエルは息を飲む。あの干からびた死体の正体が、今まさに目の前で再現されていた。


 「……まだまだ、だな」


 黒髪の女が呟く声は、どこか退屈そうで、それでいて満足げだった。


 シエルがようやくその場にたどり着いたとき、彼女は振り返ることなく——


 「遅いぞ」


 静かにそう言った。


 「えっ……私を知ってるの?」


 シエルが混乱のまま問いかけると、女はゆっくりと振り返った。


 「……っ!?」


 その顔を見た瞬間、シエルは息を呑む。


 黒髪の女——その顔は、まさしくリィナ。あの自由奔放で呑気な彼女が、大人びた姿でそこにいた。


 「リィナ……なの?」


 問いかけに、彼女はにやりと笑って言った。


 「なんじゃ貴様、寝ぼけておるのか?」


 そして、大剣を肩に担ぎながら言い放つ。


 「こいつらの“カシラ”は——貴様の担当じゃ」


 その瞬間、リィナは再び団員たちの中へ飛び込んだ。大剣が唸りを上げ、団員たちが次々に屠られていく。その一振り一振りがまるで嵐のようで、誰も抗えない。


 (あの人……本当にリィナ?)


 圧倒されながらも、シエルは我に返る。


 (……私は、ボスを探さなきゃ)


 広間を見渡すと、奥で一人、金の装飾を纏った男が、そっと裏口から抜け出そうとしていた。


 「あれが……!」


 シエルは身を翻し、男のあとを追って森へと駆け出した。


 深い森の中、木々が不気味にざわめく。そのとき——


 「ッ!?」


 木の影から、鋭い殺気とともに斬撃が飛んできた。


 「危なっ……!」


 ギリギリで身を引き、双剣で受け流す。


 木々の間から現れたのは、先ほどの男——盗賊団の首領だった。


 「俺を追って来たのが、こんな小娘とはな」


 男は薄ら笑いを浮かべながら、問う。


 「お前ら、何者だ?」


 シエルは答えず、ただ双剣を構えた。


 「……まぁいい。仲間も村もおじゃんにされたが、お前みたいな上玉を奴隷にすれば、また一からやり直せる」


 男の瞳に残るのは、欲と怒りと殺意。その剣が構えられた瞬間、シエルもまた、自然と双剣を握り締めていた。


 (……この人、強い……!)


 刹那——


 男の姿が掻き消えた。


 「っ……消えた!?どこ!?」


 シエルが身構えた瞬間、背後から斬撃が襲いかかる。


 「くっ!」


 ギリギリで受け止め、転がるように距離を取る。


 (さっきのも、いきなり後ろに……異能?)


 再び男の姿が消えた——次は横から攻撃。


 腕に斬撃が掠め、鮮血が飛び散る。


 「くっ……!」


 痛みに顔をしかめながらも、シエルは必死に周囲を見渡した。


 (この移動、まさか……“影”?)


 「へぇ……よくわかったな」


 木の影から現れた男が、ニヤリと笑う。


 「ただのガキじゃないらしい。だがな——」


 ニヤリと笑った盗賊団の男が、闇へと溶けるように姿を消した。


 「≪闇滑シャドウシフト≫。攻略できるもんなら、してみな」


 どこからともなく、男の声が響く。


 「厄介な異能ね……でも」


 シエルは静かに息を吐き、意識を集中。


 ≪幻装展開ファントムアームズ≫——!


 光の粒子が剣を包み、ねじれ、再構成される。


 武器が音を立てて変化し、巨大な戦斧へと姿を変える。


 「……さあ、ここからは私の番よ」


 「万象理式・戦斧《輪滅りんめつ》!!」


 シエルが地を蹴り、空中で一回転。戦斧が風を巻き、周囲の木々を根こそぎ薙ぎ払った。


 シエルは地を強く蹴り、地面にはシエルの影だけが残る。


 「チッ、どこ行きやがった……」


 影から現れた男が困惑した瞬間——


 「万象理式・戦斧《裂頭斬れっとうざん》!」


 天空から迸るような一閃が、風を裂き、大気を切り裂く。


 気配に気づき顔を上げた男の目に映ったのは——振り下ろされる“死神の刃”。


 「っ……!」


 次の瞬間、轟音と共に地が割れ、男の身体は悲鳴をあげる暇もなく縦に裂かれた。


 地に突き刺さった戦斧。その上に、肩で息をするシエルの姿があった。


 「ふぅ……私、強くなってる」


 静かに微笑みながら、村へと戻る。


 広間は血の海と化していた。その中央——


 「リィナ!!」


 シエルが叫ぶ。そこには、血に濡れながらも気持ちよさそうに眠る、あのエリィの姿があった。


 「……はぁ」


 心底呆れたようにため息をついたあと、ぽつりと呟く。


 「……まぁ、無事なら、いっか」


その後、広間の隅で捕らえられていた人々を解放し、牢の鍵を壊しながら「もう安心です」と声をかけていく。


 震える手で感謝を述べる老婦人。


 涙をこぼしながら家族の名を呼ぶ少年。


 そのひとつひとつを、シエルは胸に刻むように見つめていた。


 そして、盗賊たちの溜め込んでいた財宝や物資は、すべて運び出された。


 「これ、あたしたちで分けていいんだよね?」


 解放された人々が不安そうに訊くと、シエルは迷わず頷いた。


 「もちろん。あなたたちが受け取るべきものよ」


 歓喜の声が広がる。


 安堵と興奮が入り混じった人たちの姿を見て、シエルはふっと微笑んだ。


 そして、全てを終え、リィナを背負いながら共にアジトへと戻った。


 その足取りは、戦いの疲れを滲ませながらも、どこか誇らしげだった。


 アジトの門をくぐるや否や、背中のリィナが欠伸をひとつ。


 「んー……疲れのぉ。あとは任せたわ、シエル」


 ひょい、と手を伸ばし、手のひらでシエルの背中を軽く小突くと、何事もなかったかのように部屋へ戻っていく。


 「ちょっと……! まったく、この人は……!」


 あきれ果てた声を漏らしながらも、どこか憎めない。そんな自分にまたため息をついた。


 (……でも、リィナ)


 シエルはアジトの広間へと足を向ける。


 そこには、壁に寄りかかるように立つヴォルドの姿があった。


 「おかえり。ご苦労さん」


 穏やかながらも、確かな労いの言葉が胸に染みる。


 「ただいま」


 シエルが小さく返したその瞬間、ヴォルドの隣に立つ“彼女”が視界に入った。


 赤い髪を後ろでまとめたその女性は、動くたびに結い上げた髪がふわりと揺れる。


 洗練された身のこなしと整った顔立ち。


 成熟した色気をまとうその女性は、静かに微笑みながら、シエルを見つめていた。


 その瞳には、どこか懐かしさと好奇心が宿っている。


 「あなたが、噂の新入りね?」


 女性が口を開く。その声は落ち着いていながらも、どこか鋭さを含んでいた。


 シエルは思わず姿勢を正す。


 (この人……ただ者じゃない)


 そんな予感が、胸の奥に芽生えた――。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


今回の話では、エリィの異能が登場しました!

エリィの情報を以下に簡単にまとめさせていただきます。



【シエルの能力まとめ】


◆ 異能①≪魔喰ドレイン


効果:対象に触れることで、生命力・魔力を吸収できる。吸収対象は任意で選択可能。

吸収した生命力・魔力を自分の力に変えることができる。生命力を使用すると自分の年齢を一番力が強い年齢に引き上げることもできる。



【リィナの使用武器】


◆ ルーン魔術を刻んだ特注大剣

効果:魔力を込めることで大きさを変えることができる。

※サイズ限度は一番大きくて、180cm程度、一番小さくて、100cm程度



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