プロローグ
神獣は咆哮する。
数万年に及ぶ本能の抑制し、次代の支配者の行く末を見守ることに徹して来た。しかし、もはや我慢の限界が来てしまった。
徐々に蝕まれる世界の行く末を嘆いて?自分達の恩恵を忘れて好き勝手に発展し他の獣達を食っていく人間に怒って?或いは世界の覇権を取り戻すための使命を帯びた?否!そんなことはどうでもいい。 次代に世界を譲ったことに後悔はない。その果てに荒廃を迎えようが、星そのものと最低限の生き物が生きていく上での必要な物が存在すれば後で再生なんて時間を掛ければどうとでもなる。
世の中の全ての決まり事は圧倒的な力を持った支配者達の気まぐれ、戯れ、夢と称した欲望と本能を満たすこと。
神獣達の中で燻り続ける圧倒的な力をどう使いたいか?それは、己が本能を全力で開放することである・・・。
国の某要衝
ことの始まりはここから起きていた。
この地で生まれ育ち、貧しくもなく裕福でもなかったごく一般の多数の子供達に異変が生じた。
子供達は夢を見た。見上げるほどに巨大な獣が現れる夢だった。ただそれだけで獣は何も語ることはなかったが、自分をただ黙って見つめてくるその瞳に言葉では言い表せない何かを感じてしまった。
翌日から、子供達は何かに取り憑かれたように鍛錬を始めた。自己鍛錬、師事、山籠り、方法にバラ付きこそあったが、大人達は単に騎士或いは冒険者への憧れだろうと気にも留めなかった。だが、彼等の鍛え方はどう見ても格闘家のそれだった。そして最も奇妙なことに、彼等の戦い方は時を重ねるごとに似たような形となっていった。
これを契機に至る所で似た現象が起こっていた。
辺境の集落でも、昔から闇組織や犯罪者達が集まる治安の悪い町でも、反対に長いこと治安を維持してきた街でも
老若男女少年大人職業問わず、最低でも10人以上の人達が何かの使命を受けたかのように己が身を鍛え続けた。
周りの人間は当然問う。何故騎士のように剣を振らず、冒険者のように夢を持つわけでもなく、鍛え続けるのかを。
多くは無言で何も語らない。稀に話した者がいたが、語られた言葉を理解できる者もまたいない。
『本能が疼く』
再び言うが彼等のやっていたことを理解できる者などいない。
そして遠からずの未来で彼等の目指す場所は神聖かつ本能と野生のぶつかり合いの場である。