婚約破棄された私。たった一言ですべてが変わりました。
「エミリア・フォード。君との婚約を破棄する」
堂々とした声が、晩餐会場の空気を切り裂いた。
招待客の視線が一斉に私へと注がれる。驚き、侮蔑、興味本位。どれも慣れたものだった。けれど、今回ばかりは少し違う。
なにせ、それを告げたのは王太子ルシアス殿下、婚約者本人だったのだから。
私は、グラスをそっとテーブルに置いた。
「理由を、お聞かせいただけますか?」
「君の性格に問題があると、各方面から聞き及んでいる。特に、侍女への態度が冷酷だと」
また、その言葉か。いつもの筋書き。
だが私は、薄く微笑む。
「……では、証拠をお持ちですか?」
ルシアス殿下が一瞬、言葉を詰まらせた。目が泳ぐ。
「それは……複数の証言がある」
「証言では不十分です。私は公爵令嬢。婚約破棄にはそれ相応の証拠が必要です」
「エミリア、おまえは……!」
「では逆に、私から一つ提案を」
私は静かに立ち上がる。広間が水を打ったように静まり返る。
「この婚約、私から破棄いたします。王太子殿下のような、流言に踊らされるお方に国は任せられませんので」
「な……!」
ルシアスの顔が赤く染まった。
私は続ける。
「本日をもって、フォード家は王太子派から離脱いたします。私が代わりに次期女王になるという話も、これで白紙ですわね」
ざわつく貴族たちの間から、次期国王派筆頭である第二王子がゆっくりと立ち上がる。
「ではエミリア。今後は我が派で助力を願いたい」
「喜んで。王子殿下」
ルシアスはその場で言葉を失った。私は静かに頭を下げ、退室する。
——たった一言で、すべてが変わった。
だが本当は、最初から変わってなどいなかった。
愚か者の末路は、最初から決まっていたのだ。