ことばのあとに残るもの
図工の教室には、絵の具特有のにおいと窓の光が溶け合っていた。
今日は自画像を描く課題。みんな、鏡をのぞき込んだり、笑ったり、ため息をついたりしている。
ユイは不器用だけど、図工が好きだった。筆の持ち方はぎこちないのに、線はどこか生き生きとしていた。
「……ちょっと顔、へんなふうになっちゃったかも」
そう言って笑ったユイのスケッチは、目が大きすぎて、髪が少しぼさぼさで、どこかデフォルメされていた。でも、リオナにはその輪郭に、言葉にできない温かさを感じた。
「でも……わたしは好きかも、その絵。なんか、“ユイっぽい”」
ふと口にした言葉だった。素直な気持ちだった。
ユイは一瞬、目を丸くしたあと、笑わずに言った。
「……それって、わたしが変って意味?」
「え……ちが……!」
「“ユイっぽい”って、どういうこと? 変な顔でもユイなら似合うってこと?」
リオナは動けなかった。
言葉が、しぼんでいくように喉で消えていった。
「ごめん……そんなつもりじゃ……」
ユイは返事をせず、パレットの絵の具をつつくようにいじっていた。
リオナのほうは見なかった。
──
放課後、帰り道
校門を出たあたりで、雲がゆっくりと空を覆っていく。
リオナは、ひとり歩いていた。
何度も「ユイっぽい」という言葉を頭の中で繰り返した。
(わたし、ただ……ほめたかっただけなのに)
(でも、相手には“ちがうふう”に聞こえた)
(だったら、なにも言わないほうがよかった……?)
ポケットの中のスマホが震えた。
通知:『きょうはどんな日だった?』
リオナはスマホを取り出して、しばらく見つめたあと、画面を伏せた。
答えたくなかった。何も、言えなかった。
(やっぱり……ことばって、こわい)
誰かとつながりたくて使ったのに。
むしろ、切ってしまったような気がした。




