ことばの先に
春の終わりを感じさせる風が、窓の外からそっと吹き込んでいた。
図書館の子どもたちの作品展は、多くの人々の心を静かに揺らし、リオナとユイの文章も、輝きを放っていた。
──
展示が終わった日の放課後。
リオナとユイは、学校の校庭で並んで歩いていた。
ふたりの間にあるのは、言葉以上の安心感。
「リオナちゃん」
ユイがぽつりとつぶやく。
「私ね、転校することになったんだ」
リオナは驚いたけれど、すぐに顔を上げた。
「そっか……」
ユイは少し笑って続けた。
「でもね、言葉って、なくてもいい時もあるって思った。近くにいてくれることが、いちばんうれしいから」
リオナはその言葉を受け止め、静かに答えた。
「うん。私もそう思う。言葉があってもなくても、そばにいることが、きっと大事なんだよね」
ふたりは少し間をおいて、そっと手をつないだ。
言葉にできない想いも、その手の温もりが伝えてくれる。
──
その夜。
リオナは自分のノートを開き、ゆっくりとペンを走らせた。
言葉はまだ時に怖くて、うまく伝わらないこともある。
だけど、それでもいいと思えた。
(わからないことも、迷うことも、全部、自分の一部)
(そして、誰かがそばにいてくれるなら、それは何よりの救いだ)
ページの隅に、小さな文字でこう書いた。
「ことばの先に、いつも誰かがいる」
──
明日もまた、新しい言葉を探しながら。
リオナはそっと、ノートを閉じた。




