【第1話】3ケツで死んだら異世界だった件
名古屋市の片隅にある、空気と偏差値がちょっと重たい私立の男子校。
小・中・高と10年一緒に過ごした俺たち三人の関係は、はっきり言って「腐れ縁」ってやつだ。
仲が良いわけでも悪いわけでもない。
むしろ、他に代わりがいないから一緒にいるだけ。
――そう言いながら、今日も俺たちはつるんでる。
天野タカシ「なあ、お前ら。自転車、乗ってくか?」
佐藤シンヤ「……は?」
天野タカシ「いや、あのイ〇ンモールまで歩くのダルいじゃん? 河川敷まっすぐ行けば近いし。ほら、俺のチャリ乗ってけよ」
佐藤シンヤ「いや、俺とソウタがいるんだぞ? チャリ1台でどうするんだよ? 」」
天野タカシ「うるせーな!俺が前、ソウタが後ろ、シンヤはカゴな!」
佐藤シンヤ「何で俺がカゴ!? 重さ的にも役割的にも無理だろ!?」
天野タカシ「風感じてみろって。心も軽くなるぞ」
佐藤シンヤ「そのまま魂も飛んでくだろバカかお前は!!」
──そう言いながら、なぜか俺たちは乗っていた。
タカシのボロチャリに、ぎゅうぎゅうの3ケツで。
春風が心地よくて、何かちょっと青春っぽい気がした――その、ほんの数秒後。
天野タカシ「おっしゃ! 加速すんぞォォ!!」
佐藤シンヤ「おい待て! 坂入ったって!スピード出すなバカ!!」
工藤ソウタ「すごい、風ぴゅーって鳴ってる〜」
佐藤シンヤ「ソウタ黙れ! って、これハンドルめっちゃガタついてないか!?」
天野タカシ「あー……実はブレーキちょっと甘いんだよね」
佐藤シンヤ「甘いどころじゃねぇだろ!!これもう“ブレーキという概念”が死んでんだよ!!」
工藤ソウタ「あ、あそこ曲がれるかな?」
天野タカシ「いやー、ちょっとキツいかもなー!」
佐藤シンヤ「おい待て!? “かも”って何だよ!いけるかいけないかで言えよ!!」
天野タカシ「……よし、祈れ!!」
佐藤シンヤ「お前が操作しろォォォ!!」
──次の瞬間、世界はスローモーションになった。
前方、左カーブ。右には水路。
舗装の悪い坂道でタイヤは跳ね、ハンドルは言うことを聞かない。
カゴの中の俺は軽く浮き、ソウタの体が後ろに揺れた。
工藤ソウタ「鳥、飛んでるねぇ……」
佐藤シンヤ「今それ見る余裕どこにあんだよ!!!」
そして。
チャリは、護岸のコンクリート斜面に
最高速で突っ込んだ。
ガッシャアアアアアアアアン!!!
何かが砕ける音がした。たぶん骨か、チャリか、現実か。
空がぐるぐる回って、視界が白くなって――