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異世界ママの子育て日記 うちの息子、天才すぎて手に負えない!

異世界ママの子育て日記 うちの息子、天才すぎて手に負えない!

作者: 木里 いつき


フェンリル歴 水の月 7日目


近所に住んでるエルナに「育児の様子を紙に書いて売れば儲かるよ」と勧められた。

彼女の息子が炎魔法でカーテンを燃やした話を冒険者ギルドで披露したら、笑いものになって小遣いを稼げたらしい。


我が家は夫ジョーイのギルド事務員の給料だけじゃ毎月ギリギリだし、3歳になった息子ネイサンのやんちゃっぷりを記録するのも面白そうだから、家計のために始めてみることにした。


紙とインクを買うお金はジョーイの釣り銭入れからこっそり拝借したけど、気づかれないよね?

気づかれたら「ネイサンの教育費だよ!」って言い訳しよう。

さて、何から書こうか。


朝、ネイサンが階段を踏み外してドタドタと転げ落ちた。

私は鍋をかき混ぜてた手を止めて、「ネイサン! 大丈夫!?」と慌てて駆け寄った。


頭をゴンと打ったみたいで、「痛い!」と泣き喚くかと思ったら、突然立ち上がって「ははうえ、だいじょーぶでしゅ。ごしんぱいなく」と言った。


母上!? 普段は「まぁま!」としか言わないのに、いきなり何だその畏まった口調は。


頭でも打って変になったのかと目を丸くしてると、「かいだん の こーぞー が わりゅい でしゅね。ふぁんたじー せかい なら、もーちょい ましな ほーほー が あるはずでしゅ」とか呟いてる。構造!? ふぁんたじー? 3歳児が使う言葉じゃない。

階段の端っこを指さして「ここ、きけんでしゅ」とか言い出したから、私は「危ないから触らないでね」と釘を刺した。


頭を打って変になったのか、それとも元々変な子だったのか分からないけど、うちの子、天才かもしれないなんて思っちゃう。


昼過ぎ、ネイサンが階段の下に座り込んで「しゅーりしましゅ」とか言い出したから、私は「危ないからダメ!」と抱き上げて台所に戻した。



フェンリル歴 水の月 8日目


昨日からネイサンが妙に賢くなった気がしてたけど、やっぱり大騒ぎは収まらない。


朝、目を覚ましたらネイサンが「ははうえ、光魔法をためしたいでしゅ」と夫ジョーイの古い魔法書を手に持ってた。


私が「まだ寝ぼけてるの?」と笑ってたら、いつの間にか台所に置いてた本を引っ張り出してたらしい。


埃まみれの本を手に持つネイサンが「これ、ふるいでしゅね」とか言うから、「古いだけで使えるよ!」と返すと、ニコッと笑ってページをめくり始めた。


小さな光の玉がポッと浮かんで、私は「おお、すごいじゃない!」と手を叩いた。

さすがジョーイの息子、魔法の才能があるのかもなんて思ったのも束の間。


「もっとこうりつてきに!」とかなんとか叫んで呪文を勝手にアレンジ、光がバーンと膨張して家中が真っ白に。


目がくらむほどの眩しさに「ネイサン、やめて!」と叫んだ。

でもネイサンったら「しっけい、まりょくせいぎょにしっぱいちまちた」と冷静に返してくる。

しっけいって何? 赤ちゃん語ってやつかな?


その光に釣られて、害獣であるスライムが窓からドドッと侵入してきた。

普段は無害だけど、光に反応して魔力を吸うと分裂する厄介なやつ。

最初は1匹だったのが、光を吸って5匹、10匹と増えていって、家中がスライムまみれに。


スライムが鍋に潜り込んだり、布団にくっついたり、壁に張り付いたりで、私は「やめてー!」と箒を振り回した。

けど、ふわっとした感触で逆に絡まってきて、腕がスライム臭いドロドロに。


ネイサンは「スライムしゃん、ともだち!」と大喜びで、光の玉をさらに増やそうとするから、「もうやめて!」と抱き上げて魔法書を取り上げた。

賢いのかバカなのか分からない!


慌てて近所のエルナを呼びに行った。

彼女は息子を連れてやってきて、「またなんかやっちゃったの?」と笑いながら状況を確認。


炎魔法でスライムを炙って数を減らしてくれたけど、「家中スライム臭いね。換気しないと住めないよ」と肩をすくめてた。


片付けに2時間かかって、床にこびりついたスライムを剥がすのに箒がボロボロ。

エルナが「新しい箒、買ったほうがいいよ」と言うから、「家計が厳しいのに!」と泣きそうになった。

3歳児の行動って読めなすぎるわ。



フェンリル歴 水の月 9日目


今朝、ネイサンが「まよねーずをつくりましゅ」と言い出した。

まよねーず? 何だその妙な言葉は。

台所に立ってた私に、「ははうえ、たまごとあぶらをくだちゃい!」とおねだりしてきたから、「何か作りたいの?」と卵と油を渡した。


市場で卵一個が銅貨3枚もするから内心ヒヤヒヤしてたけど、ネイサンのキラキラした目を見たら断れなかった。

すると、ボウルに卵を割って油を混ぜて、「そーすでしゅ!」と得意げに差し出してきた。


見た目はドロドロで、生卵そのまんま。

私は「生のまま卵は食べられないよ。お腹壊すからね」と諭したのに、「ぼくがちゅくったからだいじょうぶでしゅ! おいちいでしゅ!」と暴れ出して大泣き。


「何か作りたいときは、母上とやろうね」と誘っても、「ぼくひとりでできるでしゅ!」と納得いかないみたいで、最終的にはスネて部屋の隅に座り込んじゃった。


賢くなったと思ったけど、まだまだ子供ね。

仕方ないから卵を焼いて、「ほら、こうやって食べるんだよ」と食べさせてあげた。

ネイサンはムスッとしながらもパクパク食べてたけど、まよねーずって何だったんだろう。


頭を打って変な知識が入ったのかな? 市場で卵が値上がりしてたのに、こんなことで無駄にしちゃって…。

ジョーイに「給料増えないかな」って愚痴ったら、「俺だって頑張ってるよ! お前が卵買いすぎなんだろ!」と逆に怒られちゃった。


確かに昨日も卵6個買っちゃったけど、ネイサンが「おいちい!」って喜ぶからつい…。とほほ、家計とのバランスが難しい。


フェンリル歴 水の月 10日目


今日、ネイサンが貴族の女の子に連れられて帰ってきた。


金髪でふわっとしたドレスを着た子で、玄関先で「初めまして、ネイサン様のお母様。私はロゼッタ、よろしくお願いします」と丁寧に頭を下げられた。


ネイサンは「ははうえ、ロゼッタじょうはこーえんでしりあいまちた」と胸を張ってる。


この年でプレイボーイとは、さすがジョーイの息子ね。……なんて感心してる場合じゃない!


貴族なんて付き合い方知らないって! 私なんか普段、市場で「魚、銅貨2枚に負けてよ!」って値切り交渉するくらいしか社交なんてしてないのに。


ロゼッタちゃんが「ネイサン様が魔法で助けてくれたんです」と言うから事情を聞いたら、公園でスライムに絡まれたのをネイサンが魔法で追い払ったらしい。家では増やしてばっかりなのにどういう事だ。


「あのていど、ぞうさもないことでしゅ」とかドヤ顔してるけど、私は内心てんやわんや。


貴族の子がうちみたいなボロ屋に来るなんて、場違いすぎる。

屋根に穴が空いてるのを隠すのに必死で、ネイサンが「ここ、なおしましゅ!」とか言い出さないかヒヤヒヤした。


ロゼッタちゃんは「ネイサン様、とても賢いですね」と褒めてくれたけど、私は「賢いっていうか、変な子なんです」と苦笑い。


貴族相手に失礼があったらどうしよう。

普段の生活でこんな子と関わるなんて想像もしてなかった。

ネイサンが賢くなったのは嬉しいけど、急に世界が広がって、不安しか湧いてこないよ。



フェンリル歴 水の月 11日目


昨日のロゼッタちゃんがまたやってきた。

今度は「ネイサン様を貴族の魔法試験に誘いたいんです」と衝撃発言。


「試験に合格すれば貴族の援助が受けられますよ。卒業すれば仕事にも困らないですし。学費も生活費も援助してもらえます」と笑顔で言う。

だけど私は「庶民のネイサンが貴族に!?」と頭を抱えた。


家計が厳しいのは事実だし、援助は喉から手が出るほど欲しい。

でも、うちの子にそんな大それたことできるの!?


ロゼッタちゃんは「ネイサン様なら絶対合格します。私が保証します」と自信満々だ。

「いやいや、3歳だよ!? 試験って何!?」と内心ツッコミまくり。

最近までママ、パパ、ご飯くらいしか言えなかったのに流石に荷が重いって。

ネイサンは「まほうしけん、たのちそうでしゅ!」と目を輝かせてるけど、私には不安しかない。


その日の夕方、ロゼッタちゃんのお家から荷車いっぱいの学用品が届いた。

立派な魔法書、キラキラした杖、魔法石がちりばめられたローブまであって、豪華すぎて恐縮しまくり。


ネイサンは「ははうえ、みてくだしゃい! かっこいでしゅ!」とローブを着てはしゃいでるけど、私は「こんな高いもの、どうしよう…」と冷や汗。


市場で売ったら銀貨何枚になるんだろうなんて考えちゃったけど、そんなことしたら貴族様に怒られるよね。


お返しに何を贈ろうか迷って、スライムゼリーでも作ろうかと思ったけど、貴族にそんな変なもの贈ったら失礼すぎるか。

エルナに相談したら、「スライムゼリーなら私も欲しいよ。子供に大人気じゃない」と笑われたけど、冗談じゃない!

庶民の私には貴族の世界が分からない!




フェンリル歴 水の月 12日目



ネイサンが「スライムそだてましゅ!」とか言い出した。

スライムって、あの魔力吸収で分裂する害獣だよ!?

この辺じゃゴブリンぐらいの扱いで、市場じゃ「スライム駆除剤」が銅貨5枚で売られてるようなやつ。

誰も好き好んで育てないのに、ネイサンは「ともだちでしゅ!」と目を輝かせてる。


私は「10匹までしか増やしちゃダメだよ。自分で世話すること」と約束させたけど、守れるわけない。

昼間はネイサンが光魔法でスライムに「えいよう」を与えてたみたいで、私が市場から帰ってきたら5匹になってた。

「5匹ならまあいいか」なんて思ってたのが間違いだった。


夜中に目を覚ましたら、スライムが20匹以上になって家中を埋め尽くしてた。


魔力を吸って巨大化したスライムが布団に潜り込んで、私は「駆除より寝たい!」と悲鳴。


箒で叩いても分裂するだけで増える一方で、30匹を超えたあたりで諦めてエルナを叩き起こした。


エルナは「夜中に何!?」と怒りながらも炎魔法で焼いてくれて、なんとか10匹まで減らした。

ネイサンは「ごめんでしゅ、スライムしゃんかわいそーでしゅ」と泣きながら謝るけど、私は「友達なら自分で世話しなさい!」と叱った。


やりたいことを応援したい気持ちと、害獣を増やすなんてありえないって葛藤で頭が痛い。


頭を打って賢くなったのか、それとも私の育て方が変だったのか。

ジョーイに愚痴ったら、「お前が甘やかすからだろ。俺ならスライムなんかとっとと捨てるよ」と笑われたけど、笑いごとじゃないんだって!



フェンリル歴 水の月 13日目


今日、ネイサンが「スライムぜりーつくりましゅ!」とか言い出した。


スライムゼリーはスライムを煮込んで作るお菓子。


市場じゃ子供に人気だけど、私は「スライムなんか気持ち悪い!」って作るのは敬遠してた。

乙女ならあんなの触りたくないじゃない?



ネイサンの「まよねーず」騒ぎを見てから、料理に興味があるのかなって気になってたし、一緒に作るのも楽しそうと思い、取り掛かった。

(私も食べたくなってたのはここだけの秘密ね)


台所でスライムを煮込む準備をしてると、ネイサンが「ははうえ、ぼくがやるでしゅ!」とちっちゃいお手々でスライムを掴んで鍋にポイポイ放り込む。


スライムが「ぷにゅ!」って鳴きながら溶けるのを見て、私は「気持ち悪いけど可愛い…?」と複雑な気持ち。

ネイサンが楽しそうなのが救いね。


ネイサンは「みずとさとういれてくだしゃい!」と指示してきて、私は「はいはい、分かりました」と水と砂糖を追加。


ちっちゃい手でスプーンを持って一生懸命かき混ぜる姿が可愛すぎて、「ネイサン、料理上手だね!」と褒めたら、「ぼく、てんしゃいでしゅから!」と胸を張ってた。

やっぱりうちの子、天才すぎる!


スライムゼリーが完成して、冷ましてから味見したら、ちゃんと美味しかった。


プルプルした食感と甘さが絶妙で、ネイサンは「おいちいでしゅ!」と大喜び。


私も「これ、売れるかも!」なんて思っちゃったのが運の尽き。

残りを家の氷室に保管してたんだけど、夕方になってネイサンがいないと思ったら、ロゼッタちゃんのお家に勝手に持ってっちゃってた!


慌てて追いかけたけど、時すでに遅し。

ロゼッタちゃんが「ネイサン様、ありがとう!」と抱きついてるのを見て、私は「貴族様にスライムゼリーってどうなの!?」と大慌て。


帰ってきたネイサンに「勝手に持ってっちゃダメだよ!」と叱ったけど、「ロゼッタじょう、よろこんでまちた!」と笑顔で返されて、怒るに怒れなかった。


フェンリル歴 水の月 13日目(夜)


夜中、ロゼッタちゃんからお礼の手紙が届いた。

綺麗な封筒に魔法でキラキラ光る文字が書かれてて、貴族っぽい豪華さにビックリ。

なんだか字も庶民のとは少し違うみたい。


ジョーイが帰ってきてたから、「読んでよ!」と頼んだら、眠そうな顔で読み始めた。


「『ネイサン様、スライムゼリー、とっても美味しかったです。初めて食べました。お母様と一緒に作ったなんて素敵ですね。また遊びに行きます。ロゼッタ』だってさ」。


私とジョーイは顔を見合わせて、「貴族がスライムゼリーって…」と冷や汗。


失礼にならなかったみたいでホッとしたけど、ネイサンが勝手に持ってったのはヒヤヒヤものだよ。

でも、ジョーイが「ネイサン、やるなあ!」と笑って、私も「ほんとよね!」と褒め合った。


寝てるネイサンの栗色のくりくりした髪の毛を撫でながら、ちょっと誇らしい気持ちになった。




フェンリル歴 水の月 25日目


ジョーイと夜お酒を飲みながら最近のネイサンについて話す。


「貴族か…俺らには縁遠いな」と笑いながら、もう我が家では恒例になったスライムがこびりついた家具を見て「ゴブリンの巣よりひでえ! 家がスライム臭すぎる!」と呆れながらまた笑う。


ネイサンは寝る前に「ははうえ、ロゼッタじょうとまほうしけんがんばりましゅ。スライムもつれてくでしゅ」と呟いて、すやすや眠っちゃった。


子育てって毎日が大騒ぎだ。


魔法でスライム呼んだり、得体のしれない料理作ったり、貴族の友達連れてきたり、試験だの害獣育成だの、スライムゼリーのプレゼントまで。


私の手には負えない存在になってきた。


階段から落ちた日から、ネイサンはどんどん大きくなって、私の手を離れていく気がする。


でも、ネイサンの笑顔を見ると、全部が宝物だって実感するんだ。


いつか本当に手を離れる日が来るんだろうな。寂しいけど、幸せになってほしい。それが母としての願いだ。



…でも、スライム連れて試験行くのは絶対やめてね! ロゼッタちゃんに迷惑かける前に、私がなんとかしないと!


連載

「星の魔女リナはエリクサーがつくりたい!」


「異世界ポッドキャスト 【オークのくせになまいきだ!】レナルドが斬るレスタリア共生圏ニュース」  

 

他短編描いてます!興味があれば是非ご覧ください。

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― 新着の感想 ―
タイトルが気になって読んでみたら可愛い子がいました。 異世界転生といえばマヨネーズですね! 賢いのかバカなのか分からないよ!ってとこで思わず笑っちゃいました。ネイサンの成長が楽しみだけど家の中でスライ…
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