5話 キャッチボール
――――光サイド―――――――
放課後。
保健室でしばらく休んでいたら、俺の頭は驚異的な回復を見せ、普通に動けるようになった。
女子生徒「なんで黒木君、部活に入らないのかな?」
女子生徒「ホントもったいないよね。あんなに運動ができるのに・・・」
女子の噂が耳に入ってくる。
確かに、俺もおかしいと思う。
何に関しても一生懸命なやつだけに、何か理由があるのかもしれない。
もしかしたら、帰宅部の俺に気を使っているのか?
光「なあ、翔」
翔「ん?」
俺は思いついた疑問を翔にぶつけてみることにした。
こういうのは思い切って話してみないと分からないからな。
光「お前が部活に入らないのって、俺のせいなのか?もしそうだったとしたら・・・」
翔「は?どうしたんだよ、急に真面目になって。寝ぼけてんのか?」
光「俺に気を使っているのだったら・・・」
翔「俺が部活に所属しないのは剣道をしたいからだ。うちの学校には剣道部がないからな」
光「本当にそうなのか?」
翔「ああ、お前が気にすることじゃない」
光「なら、いいんだけどよ」
翔「そうだ、今日はキャッチボールでもしないか?ほらよっ」
少し汚れたボールが飛んできたのでそれをキャッチする。
翔が急に話題を変えてきた。
翔は何かを隠しているのかもしれない・・・
言いづらいことなら聞かないけどさ。
俺は翔の出した話題に乗ってやることにした。
光「うーん、そうだな。久しぶりやるか!」
このボールは体育の時間に捨てられそうになっていたところを翔が救ってきたものだ。
溝に落ちたからって、新品のボールを捨てられるのは可哀想だ。
お前もボールとしての役割を担いたいだろ?
よし、俺に任せとけ。
俺がお前の弾道をいろいろ変えてやるからな。
俺は翔のミットに向かって変化球を投げ込む。
光「なあ、翔。野球のピッチャーが投げる玉ってさ、どうして上には変化しないんだろうな?」
翔「それは、上投げだからじゃないか?ソフトボールならともかく、野球では無理だろ」
光「でもさ、左右や下に落とすために、ボールには回転を掛けるよな。なら、上に上がる為の回転が存在したとしても可笑しくないと思うのだけど」
翔「今の人類には無理だな」
光「決めた!」
翔「何を?」
光「俺が、新しい変化球を生み出してやるぜ!そんでもって、その変化球を引っ提げて最強のプロ野球選手になる!」
翔「お前は中学生か」
光「はっはっは。俺を馬鹿に出来るのも今のうちだ!」
翔「こりゃ、だめだ」
俺は型にないボールの握り方をして投球をしてみた。
俺の手から離れたボールは翔のミット目掛けて普通に飛んで行った。
光「いや、失敗、失敗」
翔「変化なかったな」
ボールが返ってくる。
光「次こそは・・・」
幾度となく繰り返されるボールの往復。
どのボールも一直線あるいは重力に従って弓なりに飛行するだけ。
それでも俺はボールの握り方、投球フォームを微妙に変化させ翔に向かって投げ続けた。
何としても変化を起こしたかった。
光「いくらなんでも無理だろ。」
翔「やってみなきゃわからん!!くらえ、俺の魔球!!」
俺は少し意地になっていた。
新品なのに捨てられそうになっていたこのボールで、何としても・・・・
翔「お前には付き合いきれん・・・」
翔が呆れたように言葉を吐く。
光「これが最後の一球だ!おりゃ!」
渾身の一球を翔にお見舞いする。
放たれたボールは翔のミットの少し上を通り過ぎていき、遠くの地面に落ちた。
光「おっと、悪い。コントロールを間違えた。」
今まで一球も落とさずグローブに収めていた翔が取り損ねるなんて・・・
よっぽど呆れちゃったのかな・・・
翔はゆっくりとボールを拾いに行き、しばらく立ち止まっている。
俺は翔に声をかける。
光「暗くなってきたことだし、今日はこれぐらいにするか?」
翔「ああ。そうだな。また明日学校でな!」
光「おう、おつかれ!」
なんだか、夢中になっていた自分が恥ずかしくなって、あまり翔を見ないようにしながら、その場を去った。
―――――?&?サイド――――――――
「まさか、ボールが上に上がるとはな・・・」
「うそっ、勘違いじゃない?」
「いや、あれは確実にソフトボールでよくあるライズボールだった。野球には絶対に存在しない変化球さ。しかし力の発動を感じなかった・・・」
「じゃあどうしてよ?」
「さあな。このことに関しては俺達よりも上の奴らの方が詳しいだろう。」
「あーう、もう、意味が分からないわ!」
「俺だって・・・」
訳が分からない状況に2人は困惑するしかなかった。