1話 日常
頭の中でずっと温めていた作品です。
楽しんでいただければと思います。
―須川サイド―
全てのものには魂が宿る。
人間にも、動物にも、食べ物にも、自然にも、人間の生み出したものにも。
このことを人間は忘れがちだ。
いつから人間は大切に思う心を失くしていったのだろう。
世の中には科学で証明できないような出来事が多々ある。
人間は皆、人の能力を超えた存在に恐怖を抱き、憧れを抱く。
それは人間が地球上で最も偉い存在であると驕る証拠。
しかし、人間は知らない。
人間の中には、人外の力を持つ者がいるということを。
ここ、蔵野村は自然豊かな田舎である。
玄関を出ると広がるのは雲ひとつない晴天の空。
時々吹く風が清々しい。
俺、須川光は軽い足取りで学校へと向かう。
後ろに見えるのはボロボロな一軒家。
幽霊が出るという理由から誰も寄り付かず、数年前に一万円という破格の値段で買い取ったものだ。
俺の家族も親戚も皆亡くなってしまったため独りで貧乏生活をしている。
でも淋しい思いはしていない。
俺には大切な仲間達がいてくれるから。
学校までの道のりは徒歩五分、信号は一つだけ。
いつもは赤から中々変ってくれない信号も今日だけはすぐに通してくれる。
なんてったって今日は・・・
光「おーい、翔!!おはよう!今日も一日張り切っていこうぜ!!!」
翔「おっす。今日は何で朝からハイテンション?いつもは暗いのに」
コイツは二年三組のクラスメイトであり俺の親友の黒木翔。
成績優秀で運動もでき、さらにイケメンという完璧な男。
冴えない俺は隣にいると空気とかしてしまう。
ぐすん。どうせ俺は影の薄い存在ですよ。
だが、今日の俺は違う。
光「はっはっは。今日は俺にとって、ハッピーな一日だからな」
そう、今日の俺の幸せを崩せるものなどいるはずがない。
翔「ふっ、どうせ今日の運勢占いで一位だったとか下らないことだろ」
ぎくっ!
薄笑いを浮かべる翔。
光「なっ、どうしてそれが分かった?まさかお前、俺の家に監視カメラを仕掛けて・・・」
翔「そんなことするか普通!というか図星だったのかよ」
光「いっ、嫌、占いとか信じているわけではないが、『今日はあなたにとって最高の一日でしょう!』とか綺麗なお姉さんに言われたらテンション上がるだろ」
翔「はいはい、お前らしいよ。」
ちくしょう、呆れてやがる。
いつか見返してやるからな、覚えてろよ!
明日香「おっはー、翔、光君。」
この子は翔の幼馴染の最上明日香さん。
容姿端麗で頭も良い。翔とはホントに仲が良い。
明日香「どんな話をしていたのよ?私も混ぜなさいよ!」
光「たいしたことじゃないよ」
翔「光が言うにはさ―」
頼む翔!
その先は言わないでくれ!
俺は心の中で懇願する。
明日香さんに知られたら・・・
なんてたって元気な明日香さんの事だ。
他の人たちにうっかり口を滑らせてしまうかもしれない。
クラスメイトに俺が占いのお姉さんの笑顔でテンションを挙げていると知られでもしたら・・・堪ったものじゃない。
翔「―今日は光にとって最高の一日になるらしいぜ」
あーあ、バカ野郎。
そんな風に含みのある言い方をするなよ。
明日香「何それ。どういうことよ、光君?」
そう聞いちゃいますよね・・・
光「えっと、ほ・・・ほら、今日は空がきれいだからいいことありそうだなって」
明日香「ふうん、まっ、いいわ。光君の事だから、どうせ下らないことなんでしょう。それより早く行きましょうよ。」
明日香さんまで・・・ぐすん。
お兄さんのガラスのハートにひびが。
そんな俺のことはお構えなしに彼女は翔の腕を引く。
翔「おい、そんなにくっつくなよ。」
明日香「なっ、なによ。いいじゃない別に。幼馴染なんだし。昔はもっと・・・」
翔「今は高校生だ!」
あ~あ、また始まったよ。
ホント二人ってさ・・・・
光「はいはい、お二人さん。将来を誓い合った仲だからって朝からイチャイチャしない」
の言葉に2人の顔はほのかに赤みを帯びる。
照れちゃって。
ホントにお似合いだよな。
翔&明日香「「そんな仲じゃない!!」」
この二人をからかうと中々面白い。
さてそろそろかな。
光「息もピッタリですな。俺はお邪魔なようなので、お先行きます!」
こいつらは怒ると恐ろしいからな。
俺はその場を退散する。
翔&明日香「「まてえ、光(君)!」」
2人は俺という共通の敵に向かって一直線に後を追っている。
学校までの楽しい鬼ごっこが始まった。
和やかな雰囲気に包まれ俺の一日は始まる。
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