実行
「お前ら、わかりやす過ぎだろ」
運転席に座っている海斗は大型バンの後方を振り返りながらニヤつく。
黒いスモークが張られた車内には助手席の者も含めると、全員で7名いる。
「だって、久しぶりだろ。しかもターゲットがなかなかの上物となれば股間が疼いてしょうがねぇよ」
肩まで伸ばした金髪ヘアーの男がおどけると、ツーブロック頭のごつい顔のもう一人が言った。
「こんな狭いとこで野郎がいっぱいいたんじゃ、取り合いになるじゃねぇか。誰が先に突っ込むかジャンケンで決めようぜ」
「よーし! ジャンケンポーン!」
「よっしゃ―――! 一番風呂ゲット!」
「くっそ―――!」
金髪ヘアーが渾身の力を込めながら両手でガッツポーズを決めると、他のメンバー達が本当に悔しがる素振りを見せる。
ふと、運転席の海斗の視線が前方に移ると止まった。
「おい! 来たぞ!」
スマホの画面と照らし合わせると、その口角が吊り上る。
「間違いない。あいつだ」
見ると、校門から他の生徒に紛れる様に、悄然とした表情で出てくる少女が出てきた。
「よーし、そっと尾行しろ。まだ人目があるからな」
他のメンバーが途端に声を潜めながら、その動向を見守る。
距離を置いて徐行しながらついていくと、少女がある角を曲がったのがわかった。
「よし! 一人になったぞ! その先は並木道だ。チャンスだ! 行け!」
金髪が急く様に声を上げると、
「言われなくてもわかってるつーの!」
海斗が愚痴りアクセルを踏み込んだ。
左折して並木道に入ると、少女の背中が見えた。
車を停めると、海斗は全員に向かって無言で顎を動かす。
その合図とともに、車からやおらに三人の男が降りた。
ドアを閉める音を立てなかったせいか、少女はこちらに全く気付いていない。
次の瞬間、三人は忍びのように少女に近づくと背後から口を押さえながら取り押さえた。
少女は抵抗する間もなく抱きかかえられ、勢いそのままに待ち構えるように開かれたバンのハッチバックに放り込まれた。
「いらっしゃーい」
中でうんこ座りしながら片手を振っていた金髪男の声とともにバックのドアが激しく閉じられた。
瞬く間に四人の男にがんじがらめにされ俯せになった少女は必死にもがこうとする。
「いいねぇ、その健気な姿。俺の真ん中のボルテージも爆上がりよ」
金髪がそう言って自身の膨らんだ股間を一瞥した。
その背後では海斗がスマホを翳して撮影している。
「まずは導入からな。いきなりおっぱじめるなよ。視聴者は焦らされるのが好きなんだから」
「わかってるって。まずは下着チェックからだ。さぁて、可愛い子ちゃんはどんな色のパンツを履いてるのかなー」
カメラを意識してか、わざとらしくそのグレーのスカートをそーっと捲り上げた。
「おお……! 予想通り白!」
取り押さえている周りの男からも歓喜の声が湧きあがった。
ふと、金髪が何かに気づいたように目を細めた。
その臀部を覆っている純白の下着の中央。
そこに細く小さな文字で何かが書かれている。
吸い込まれるようにさらに顔を近づけ、それを読み上げた。
「……『今日は……検便の検査があります』……何じゃこりゃ??」
次の瞬間だった。
少女の手が俄かに動き、抑え込んでいた男の腕を勢いよく跳ね除けたかと思うと、文字に目を奪われていた金髪の膨らんだそれをズポンの上から握り締めた。
金髪の目は点になったままだ。
突然、
「はい、ギアチェンジいきます」
ドスの利いた低い声とともにその手が問答無用で真横に捻られた。
ゴキッ! という鈍い音が周囲の者の耳にもはっきりと聞こえた。
「痛ぇぇぇぇぇぇぇぇ―――!」
絶叫と共に金髪はバンの天井に頭を打ちつけ、勢いのままに屈み込む。悶絶する金髪を目にしたまま他のメンバー達は動きを忘れて、ただただ茫然とするばかりだ。
ふと、少女の背中を取り押さえているツーブロック頭の男の目が開いた。
俯せになった少女のその太腿は、妙に筋肉質だ。それに気づいたと同時だった。
貧弱そうにバタバタと抵抗していた少女の両足が周囲の男達をいとも簡単に蹴り飛ばすと、まるで蛇のような撓やかな動きでツーブロック頭の首に巻きついてきた。
「……!」
慌てて、両手で振りほどこうにもピクリともしない。それどころか、もがけばもがくほどアナコンダのごとく自身の首を絞め上げてくる。
ツーブロック頭の口から泡が吹き始めてきた光景を、撮影も忘れ放心状態でただ見つめている海斗。
何が起きているのか、全くわかっていない。
すると、女子高生は技をかけたまま徐に自身の顔を覆っていたマスクを取り外した。
海斗の双眸が驚愕で見開く。
その端正な顔つき、その口元には無精髭がちらついている。
「勘弁しろ。少し寝過ごして髭を剃り忘れた」
束元はそう告げると、片手で被っていたカツラを外し、それを海斗に軽く投げつけた。
意表を突かれた海斗の顔面にそれが直撃し、彼は豆鉄砲を食らったように目をパチクリさせる。
放心状態のままの海斗に向かって束元は発破をかけるように言った。
「ほら、どうした? 撮影を続けろ。一緒に最高の作品を作ろうぜ」