諸悪の根源
「黙れっ! 黙れっ! 黙れっ! 黙れっ!」
突然、きさらはその小柄な生徒に掴み掛かっていった。
しかし、彼は難なく体を横にすると、転がっていた教科書を片足でポンと前方へと蹴り出した。きさらは思わずそれに足を滑らせ前のめりに勢いよく地面に倒れた。
ミニスカートが捲れ、臀部の白い下着が露わになる。
そんなことも、さも全く気にも留めないように少年は表情を変えずに言った。
「一応あなたは女性ですから、手加減します」
そう言って、いまだに地面にグロッキーになったまま白目を剝いている男子生徒を指差して言い添えた。
「彼のように羽交い絞めにしてしまうと、私の方が猥褻生徒としての汚点を一生背負わされてしまうんで。たかがあなたごときの存在のために、それだけは堪ったもんじゃない」
すると、きさらは真っ赤になった顔を即座に起こした。
動揺で足が竦んで起き上がれないのか。
それでも必死に抗うように声を張り上げた。
「私は、お前らとは違う! お前らみたいな雑魚と一緒にすんな! 私は……、私は……!」
その瞬間、どこからともなくノートが飛んできて彼女の金髪頭に直撃し、不意を打たれたきさらは再び地面に沈んだ。
皆が飛んできた方向に目を遣ると、大柄なその女子生徒がこれ以上ないくらいの憎悪がたぎった表情で低い声を唸らせた。
「黙れ、ゴミ」
そのあまりの威圧感と怒りに満ちた様子に気圧されたのか、きさらはとうとう白旗を上げたように、捲れた下着もそのままで、地面にうずくまり嗚咽を始めた。
そのあまりに憐れ過ぎる光景に、彼女に反感を抱いていた他の生徒達も、向ける矛先を無くしたように呆然としたままだ。
彼女の仲間であったはずの美華たちも庇おうとする様子はなく、むしろ突き放すような冷ややかな視線を向けたまま傍観している。
その様子を相も変わらず平坦な口調のまま小柄な生徒は、あっさり息の根を止めるように残酷な言葉を投げかけた。
「ただ、こんな哀れな姿をクラス全員の前で露呈しまっては、もはや次のイジメターゲット確定となってしまいましたね」
「それは、間違いです」
思わぬ方向から、そのセリフが全員の耳に飛び込んできた。
その場にいた者達が皆一斉に、そちらに目を向けた。
彼らの視線の先で、その白衣の男はスクリーンから言い放った。
「真っ先にイジメのターゲットになるのは、彼女ではありません」
その言葉に、床に伏せて泣きじゃくっていたきさらは、思わず意味も分からず顔を上げた。
あっけなく自身の見解を否定された小柄な生徒の表情に、動揺の色が混ざる。
白衣の男は言った。
「全く、見くびられたものです。私の使命は、この学校に巣食う諸悪の根源を根こそぎ絶やすこと。そこに伏せている金髪の彼女は単なる枝葉。金魚の糞に過ぎません。金魚の糞を片付けても、元を絶やさなければ、また新たな糞だらけになってしまいます」
男は、あたかも聴衆に問いかけるように、両手を広げながらジェスチャーを交える。
「まず、すべての始まりは何だったのか? それを忘れてはいけません。なぜ、この学園がここまで腐敗してしまったのか? そこから入らないと、いつまでも堂々巡りになってしまいます」
そう言って白衣の男は、片手をそっと右方向に翳した。
すると画面がズームアウトになり、突然、舞台袖際の黒いカーテンが引き上げられた。
その映像を見ていた全ての生徒が驚愕で目を見開き、息を呑む。
中でも一番吃驚で固まっていたのは、教室の後方で高みの見物を決め込んでいた美華だった。
彼女の表情が瞬く間に凍り付く。
無理もない。
カーテンが引き上げられたその場には、椅子に括り付けられ、他の実験台と全く同様に、醜い肥満な上半身を露わにしたまま、無惨にも白いブリーフを履かされ臀部を後方に突き出している、紛れもない自分の父親の姿があったからだ。
そばにいた彼女の友人たちも思わず両手で口を塞ぐ。
クラス全員が、信じられないような目つきのまま、静まりかえったままだ。
そんな生徒達の反応をよそに、白衣の男は、括り付けられた中年男の白髪を難なく毟るように掴むと、その顔を全員によく見えるように引き上げて言った。
「これが、諸悪の根源です」




