カーストシステム
唖然とした金髪のきさらの顔をまっすぐに見据えて小柄な生徒は尚も続けた。
「あなたたちは、私たち陰キャがいるから輝けるんです。考えてもみてください。仮にこのクラス全員が陽キャだったら? あなたたちは、全員見た目は、ほぼ同じです。平坦です。ですので途端にピラミッドが成立しえなくなる」
陰キャ陽キャ問わずクラスメイト全員が、その見た目がどう見ても空気過ぎる小さな男子生徒の話に固唾を呑んで耳を傾け続ける。
「気が付けば、皆が不安に駆られるようになる。自分より下がいなくなるから」
その言葉に思わず、美華の両目が見開いた。
「そして、今度は数少ない群れの中から、新たな生贄を探そうとする」
金髪のきさらの表情に震えが加わる。
その微かな変化を一瞬も見逃さないかのごとく、男子生徒は彼女の両目をじっと見据えた。
「私が察するに、この中で真っ先に恰好のスケープゴートにされるのは、幡谷さん、あなたです」
「……なっ……!」
心の内を全て見透かしているかのような感情味のない眼差しに、きさらの表情が瞬く間に凍り付く。
「最後まで聞いて下さい」
宥めるように男子生徒は掌をそっと向けた。そして、今度は美華の方を向いて口を開いた。
「まず美華さんは、父親がこの学校の出資者です。ですので、その財力と権力にモノを言わせ、どうとにでも動かせる。依然として、ピラミッドの頂点であることに変わりはないでしょう」
矢庭に告げられた想像だにしていなかった人物からの評価に呆然とし、美華は全く言葉を返せない。
「次に有賀雅さん」
そう言って左耳にピアスを嵌めた黒髪ストレートの女生徒を見据えると、彼女は驚いたように肩をビクつかせた。男子生徒は構わず続けた。
「あなたも安全パイですね。なんせダンス部という学園ものでは極めてカースト上部に位置するであろう取柄を持っていらっしゃる。学園祭ではまさしくヒーロー。下級生からも憧れの存在。そんな彼女が標的になることはまずない」
次から次へと畳みかけるような彼の饒舌はさらに続く。
「八村梢さん」
そう言って茶髪のボブカットの少女に呼びかけた。
俄かに指をさされ、アイドルのようなその可愛らしい大きな両目は、さらにはちきれんばかりに開ききっている。
「あなたには、アメリカに渡って自分のアパレルショップを持ちたいという誰にも言ってない大きな夢がありますね」
あまりに唐突に自身の夢をクラス全員の前で、しかも全く交流のない男子生徒から何の許可もなく勝手にカミングアウトされてしまったせいか、全く思考が追いついていない様子だ。
ハッと我に返り、焦るように周囲の目線を気にするように視線を泳がせる。
「なぜ、言わないか。それは、自分の夢をバカにされたくないからです。大切な大切な夢だから。そのために放課後、誰にも内緒で内職のアルバイトに行ってお金をコツコツと貯めている。親にも頼りたくない。その年から自立心旺盛なのは、誠に感心すべきことです」
恥ずかしさで硬直したまま彼女の顔は、気が付けば真っ赤になっている。
そんな彼女に対し気にも留めないように男子生徒は背を向けると、今度はクラス全員に向かって話をまとめるように語りかけた。
「つまり、先に挙げた三人はいざという時の心の拠り所があり、余裕を持っている」
そして、ゆっくりと金髪の少女の方に向き直って声を落とした。
「それに比べ幡谷きさらさん。あなたには何もない。その金色の髪以外は」
心の奥深くまで容赦なく抉るような少年の鋭い指摘に、追い詰められた子羊のごとく、きさらは怯えた表情で周囲を見渡した。
その反応を見て、彼は悟ったように軽く何度も頷くと、無情にも真実を突き付けた。
「そう、そう。本当はいつもそんな感じで、怖くて怖くてしょうがないんでしょう? だから、ちょっとでも自分より下だと思う輩に対し、重箱の隅をつつくように粗を探したがる。そして、それを見つけるや否や、ヒステリーのごとく金切り声で机を蹴り上げたりする。『自分は一軍だ』、という卒業すれば急暴落した株のごとく紙屑以下にもならないゴミのような価値感に必死にすがりながら」
男子生徒はまるで武士の情けのごとく憐みの表情で、彼女に対し最後の止めを刺した。
「私たち陰キャが全ていなくなれば、即、イジメの的にされるのはあなたです」




