必要な者達
「お前ら! こんな事してタダで済むと思ってんのか! 全員退学にしてやっからな!」
突然の美華の咆哮に、掴み合っていた双方の動きがピタリと止まった。
教室がシーンと静まり返る。
「あたしのパパに言えば、一発だから! お前も、お前も、お前も、お前も、お前も、お前も、お前も、お前も、お前も、お前も、お前も、お前も、お前も、お前も、そこのお前も! 全員まとめてクビにしてやんよ!」
呆然としている大人しい生徒達を男女問わず一人一人、全力で憎しみを込めて指を差していく。
それまで怒りを思い切り発散させ高揚していた大柄な女生徒や他の大人しそうな生徒たちの表情が一気に青ざめていくのがわかった。
静まり返った敵達を俯瞰するように見つめると、美華の心にようやく余裕が舞い戻り始めた。
「……ふっ…今更、後悔しても遅いっつーの」
鼻で軽く嘲笑い、すぐにまた怒りを抑えきれないように転がった椅子を蹴り上げると、それが先ほど教科書をビリビリに破いた生徒の前に転がった。
男子生徒は漸く事の重大さに気づいたのか、先ほどの威勢の良さが潮の満ち引きのごとくサーッと引いていき、その表情には焦りと恐怖だけがありありと浮かんでいる。
その時だった。
「そうなると、困るのはあなたたちですよね?」
美華の取り巻きに向かって、その小柄で丸坊主頭の生徒は言い放った。
先ほど、チャラい陽キャ男子をあっけなくチョークスリーパーで落とした男子生徒だ。
取り巻き達は、意味が分からず目を瞬かせているだけだ。
ふと我に返ったように、金髪女子がその生徒に毒づいた。
「……はぁ? 何、意味不明なことぶっこいてんだ。小人は引っ込んでな」
軽くあしらうように、シッシッと手の甲で払う素振りを見せる。
しかし、男子生徒は一切動じることなく、表情を動かさずに尚も付言した。
「意味不明ではありません。それは、あなたが一番危惧している事ではないのですか? 幡谷きさらさん」
矢庭に自分のフルネームを一度も呼ばれたことのない相手から呼ばれ、金髪女子は吃驚したように目を丸くした。
小柄な生徒は淡々かつ流暢に喋り続ける。
「カーストというのは、頂上に立つ者達が常に強くなくてはいけない。当然です。てっぺんですから。でも、強くあり続けるためには、一体何が必要か?」
その問いかけに、陽キャ陰キャ問わず全ての生徒が当惑したように、互いの顔を見合わせ始め、訝し気に眉を顰める。
すると男子生徒は迷いもなく道破した。
「そう。弱い者達です」




